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勤怠管理システムの利用状況(2021年)/後編

大手企業が「ジョブ型雇用」を採用するなど、働き方だけでなく雇用形態も多様化しつつある。多様な雇用形態が広く受け入れられれば、勤怠管理の在り方についても考えていかなければならない。

» 2021年09月09日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 テレワークなど新たな働き方へのシフトが求められる中で、表裏一体で考えるべきものの一つに従業員の勤怠管理がある。就労形態に適した勤怠管理が必要だが、法令対応や多様化する働き方への個別対応など、検討事項は多い。

 後編は、勤怠管理に関するアンケート調査(実施期間:2021年8月6日〜8月20日、有効回答数:412件)の回答を基に、適正に残業時間を管理するために実施している工夫、雇用形態や就労形態が多様化する中で勤怠管理における課題となり得る点について、回答者から寄せられたコメントを紹介する。

 なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、あらかじめご了承いただきたい。

今の社会に対応していない“レガシーな”勤怠管理システムの実態

 現在運用している勤怠管理システムの満足度を聞いたところ「満足している」(23.9%)と「やや満足している」(53.4%)を合わせ、77.3%が「満足」と回答した。

 不満とした人の理由をフリーコメントで聞いたところ「実際の働き方に即した勤怠管理ができていない」「入力やワークフローに余計な手間がかかっている」の2点に意見が集中した。

 前者の具体例としては「建物のIDカードリーダで入退室時間を記録しているため、テレワークに対応できない」「コロナ禍なのに、画面にタッチする必要があるなど非接触でない」といった声が挙げられ、出社を前提とした管理体制から脱却できていないケースや、共有端末を用いた仕組みを導入していることで感染症対策として不十分だといったケースが挙げられた。

 他にも「勤務形態、制度の多様化が進みすぎて、システム対応が追い付いていない」「テレワークなど働き方の多様化、度重なる労働法改正に対応しきれていない」などの声も寄せられ、現代の時流に追い付けていない現実が見えた。

 後者では「多くの入力操作が必要(自動化率が低い)」「(グループウェアなどの)カレンダーと連動しない」「一括入力やCSV取り込み機能がない」といった機能不足に対する不満や、「休暇のワークフローと連動しない」「海外を含むグループ会社の従業員情報がバラバラのシステムで運用されており、登録情報と関連付けて管理できていない」など、他システムと連動していないことに対する不満が挙げられた。従業員にとって利用頻度の高いツールであるからこそ、できるだけ非効率な作業が発生しないような環境を整備する必要がありそうだ。

「成果主義」「ジョブ型雇用」への転換と勤怠管理の関係

 社会情勢に対応したワークシフトが求められる中、働き方を変えれば当然それに即した勤怠管理方法を検討していかなくてはならない。「今後どのような点が勤怠管理の課題となり得るか」について、フリーコメント形式で意見を求めた。

 注目すべきは、時間管理を土台としたこれまでの人事評価から成果報酬型に評価指標の転換が進むのではないかといった意見や、メンバーシップ型からジョブ型への雇用転換が進むのではないかといった声だ。

 これらの背景にはリモート環境下での業務が増えたことで、管理者がメンバーの勤務状況が見えづらくなり、勤務時間中の態度や業務進捗(しんちょく)の管理、評価がしづらくなったという課題が影響している。こうした課題に対して「勤務時間による給与ではなく成果に対する評価」や「成果報酬型契約への移行」といった転換が効果的なのではないかという意見があった。また「テレワーカーの勤務評価基準の策定」「勤務時間にとらわれないジョブ型人事制度の検討」といった声に見られるように、業務内容と成果をベースとした契約にすることで、細かく勤怠を管理する手間が軽減されるのではという見方もあった。

 一方で「今後、勤務時間に対して報酬が支払われるのではなく成果報酬となった場合、長時間労働抑止はどのように考えるべきか。検討が必要」「性善説で運用されているため、何らかの訴訟問題が発生したときに実態の把握が出来ない」など、従業員の健康管理やリスクマネジメントの観点から勤務状況を管理する必要も当然あり、「成果評価における労働法の対応と勤務管理」をどのようなバランスで実行するかといった意見は、今後制度設計やシステム導入などの環境整備を検討していく上で非常に重要な検討事項となりそうだ。

これは「管理」か「監視」か 勤務先の勤怠管理事情

 これからの働き方を見据えて就業形態をフルリモートに移行する企業もある中で、課題となるのが残業時間の管理だ。その管理実態、対策状況を知るために、「勤務先では適切な残業時間管理のために、何か工夫しているか」と尋ねた結果、「対策している」(38.8%)、「対策を検討中である」(19.9%)、「何も実施していない」(41.3%)となった(図)。

図 コロナ禍における従業員の残業時間管理に対して工夫や対策をしているか

 「対策している」「対策を検討中」と回答した人に、具体的な対策内容を聞いたところ、大きく2つに分かれた。

 1つ目は「勤務時間外の作業を自動検知して通知する仕組みがPCに組み込まれている」「社内システムへのアクセス時間が自動的に管理されており、定時後、休日のアクセスがあればその理由を事後報告させるなどサービス残業を予防している」といった、時間外労働を自動管理する仕組みを構築しているといった声だ。

 2つ目は「残業時間の事前申告および勤務開始時と終了時の(メールやチャットによる)報告とレスポンスが義務付けられている」など申告制で実施されるケースだ。中には「出勤時間に行われるリモート会議に参加することで出勤と認めている」「成果による評価ではあるが、実際に勤務しているかどうかを確認するためにWebカメラで自宅での勤務状況を確認する方法を検討している」といった、より厳格な管理を実施、検討する声も寄せられた。

 その他、「組織の全体的に裁量労働(みなし労働時間)に対する理解が不足している。単に労働基準監督署に言われたからやっているだけで、労働環境の改善など考えていないのでは」といった、対応策ではないが、形骸化した勤怠管理に警鐘を鳴らす声もあった。

 寄せられたコメントから考えるに、今後は雇用形態や就労形態がさらに多様化することが予想され、そうした時流に対する理解と対応が今後の勤怠管理において大きな課題となりそうだ。

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