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「Notes移行」は何が難しいのか 2社が完遂の肝を語る

オンプレミスで運用してきたグループウェア製品「Notes」に課題を感じていたグンゼとケイミューの2社は数年かけて移行を完遂した。グループウェア移行の肝とは。

» 2021年06月18日 07時00分 公開
[唐澤正和ヒューマン・データ・ラボラトリ]

 アパレル事業などを手掛けるグンゼと、外装建材メーカーのケイミューは長年オンプレミスで活用してきたグループウェア製品「Notes」に課題を感じていた。7MB以上のデータをやりとりできない、社外からアクセスしにくい、社内ポータルをもっと使いやすくできないか――。

 こうした課題を解決するために、両社はNotesからワークスアプリケーションズの「ArielAirOne」に移行することを決断し、数年の歳月をかけてプロジェクトを完遂した。グループウェアを移行する際は、どの機能を実現するのか、どのデータをどう移すのか、スケジュール通りにプロジェクトを進めるにはどうすればよいか、どうやって従業員に普及させるのかといったさまざまな壁が存在する。両社がその全貌を語った。

本稿は「Works Way 2021 - 礎×変革 ネクストノーマル時代に加速するDX」(主催:ワークスアプリケーションズ)におけるセッション「事例から学ぶNotes移行成功の秘訣!」を基に、編集部で再構成した。


20年使い続けてきたNotesを廃止、なぜ?

 グンゼは、Notesを約20年にわたって使い続けてきた。だが、2016年度から移行の検討を始めてた。Notesではメール、ワークフロー、文書管理の3つ機能をオンプレミスで運用してきたが、事業部長からワークスタイル変革の要望が上がり、新しい働き方にそぐわないと判断したためだ。同社の鶴海真治氏(技術開発部 IT戦略室 室長)はその経緯を次のように説明した。

 「Notesは2017年時点でグループウェア市場におけるシェアが14%をきっており、クラウド型のツールが台頭しつつありました。Notesは社外から利用する際にリモートツールで社内網に接続する必要があり、スマートフォンやタブレットから使えない状況でした。さらに、得意先と7MB以上のデータ交換ができない点も課題でした」(鶴海氏)

 課題を踏まえ、Notesの機能改善点を「コア技術強化」「業務効率向上」「情報活用向上」の3つにまとめ、移行プロジェクトを進めた。製品選定にあたっては、メール、ワークフロー、文書管理などの機能ごとに製品評価を行い、費用も鑑みてArielAirOneを選択。製品選定後は、利便性を向上させつつ、セキュリティを確保できる構成を模索するとともに、PCおよびスマートデバイスを使った利用方法を決めた。

 「プロジェクト運営としては、まず1年目で主要な機能をArielAirOneに移行し、4年間で全機能を移行する計画を立て、全体を『プロジェクト計画』『要件定義』『クラウド設計』『システム構築』『普及活動』の5工程に分割。プロジェクトの方針を明確にし、遂行しました」(鶴海氏)

図1 プロジェクトの進め方(出典:グンゼ)

社内ポータルが貧弱、Notesへの不満

 一方ケイミューは、パナソニックグループ全体でNotesの廃止が決まったことをきっかけに、ArielAirOneへの移行を決めた。ケイミューの石村忠治氏(IT・物流担当 執行役員)は、その経緯をこう話す。

 「Notesは、社内ポータルが貧弱なことに不満を持っていました。また掲示板や電子申請ワークフローなどを作成したり、メンテしたり、あるいは権限付与したりする作業が難しく、ごく一部の担当者しか扱えない状況でした。Webブラウザで使用できないことで、テレワークに対応しづらいことも課題に感じていました」(石村氏)

 ケイミューは、Notesの廃止を機に、社内ポータルを含めたグループウェアの再構築を決断。2017年7月から、5つの製品を比較検討し、2018年11月にArielAirOneの採用を決定した。掲示板を短期間で移行できることが一番の決め手だった。

 「その他にも、納得できるコストであった点、自前で簡単に構築およびメンテナンスができる点、人事システムと連携して組織、人の情報を可視化できる点、スマホを活用できる点を評価しました」(石村氏)

 プロジェクトを推進するフェーズでは、ArielAirOneを短期間で導入することを目標に掲げ、実質4人のメンバー(プロジェクトマネジャー1人、非専任メンバー3人)をアサインした。具体的には、2019年1月から6月の約6カ月間で運用設計と環境構築を実施。2019年2月からワークスアプリケーションズによるコンサルティングを受け、同年7月から実際のシステム構築に着手し、翌2020年1月に構築を完了した。その後、NotesとArielAirOneを並行で運用しつつ、約3カ月をかけて機能別に移行を進め、2020年4月にはArielAirOneの全機能を稼働せるに至った。

スケジュールを完了させる工程管理の肝

 両社とも製品比較の段階を含めると、約4年をかけてNotesの移行を完了させたことになるが、導入プロジェクトを成功に導いたものは何か。グンゼの鶴海氏は、プロジェクトの各工程で実施した工夫を次のようにまとめる。

 プロジェクト計画の工程では、最初に大枠でやるべき内容を洗い出し、マスタースケジュールを作成した。要件定義の工程では、ArielAirOneで実現したいことを書き出し、その方法を決定。クラウド設計の工程では、利便性とセキュリティを考慮し、ログイン認証の流れを整理した。さらにシステム構築の工程では、作り上げたアウトプットを検証し、不具合を抽出。不具合ごとの対応策とその担当を明確にした上で、着手の優先順位を付け、納期通りに遂行できるよう管理を徹底した。また、4年の間に順次機能を移行する計画であるため、NotesとArielAirOneをどう共存させるかを検討し、決定した。

 一方、ケイミューの石村氏は、短期間での構築を実現するために、「時は金なり(タイムマネジメント)」を徹底したことを強調する。

 具体的には、ゴールから逆算してスケジュールを組み、カットオーバーチェックリストを使って月単位でデッドラインを決めた。意思決定のスピードを早められるよう、プロジェクトマネジャーに全ての決定権を与えた。さらに、構築フェーズで後戻りが発生しないように、検討時点で議論を尽くした。

 また、Notesの機能を100%実現することに固執せず、「ArielAirOneでの100%を目指す」ことも重要だという。そのため、「Ariel流へのフィッティング」として、ArielAirOneができること・できないことをコンサルスタッフと徹底的に整理した。

71回、2000人に説明会を実施、人海戦術の鬼

 グループウェアは従業員に使われてはじめて効果を発揮するが、両社はどのような普及活動を実施したのか。グンゼが注力したのはマニュアル作りだ。

 「社内に普及させるには使い方の理解を深めることが重要と考え、2種類のマニュアルを作りました。活用シーンごとに機能を詳細に説明したマニュアルと、機能全体を把握できるダイジェスト版マニュアルです。それぞれPCとスマートフォンの双方で見られます。加えて全国で全71回、2000人を対象に説明会を実施しました。当時はWeb会議環境も準備できておらず、人海戦術で企画した次第です」(鶴海氏)

図2 マニュアルを作成(出典:グンゼ)

 ケイミューの石村氏もArielAirOneの研修に力を入れたとする。

 「TV会議を活用し、全従業員を対象に20回の研修を実施しました。部署別にArielAirOneに詳しいキーマンを設定し、機能に関する質問を集めてもらうとともに、専用のグループメールを設定して従業員の疑問を解消しました。これに加えて、IT部門内での先行導入で浮上した疑問をQ&A集にまとめました。このQ&A集がユーザーの目に止まることは少ないものの、IT部門が質問に回答する際に活用できました」(石村氏)

1300のデータベースを466に削減、業務効率化も

 ArielAirOneでどのような効果を得たのか。グンゼでは、プロジェクト開始時に1300あったデータベースを4年間で466にまで削減できた。設計統一と断捨離による効果だという。また、Notesに対して課題に感じていた「コア技術強化」「業務効率向上」「情報活用向上」に関する機能を改善できたという。

 鶴海氏は、移行を成功に導いた要因について次のように語る。

 「ユーザーとのコミュニケーションを密にし、要望を取り入れること。また、利用頻度の高いアプリケーションから順に移行すること、そのうちArielAirOneに適さないものは除外することなどが重要です。特に不必要なデータ移行は絶対にしてはいけません」(鶴海氏)

 グンゼはArielAirOneによって働く場所を自在に決められるようにしたいと話した。

 ケイミューは、業務の標準化および効率化を実現できたという。具体的には、デザイン部門と協力してグラフィカルなポータルを構築。お知らせメッセージ機能を使って、未読の要件を赤字にし、必ずポータル掲載情報を見る文化を浸透させた。掲示板については、Notesで多数あったパターンを2つに集約。ワークフロー機能では、承認者マスターを一元化するとともに、承認フローを視覚的に構築できるようにした。

 「ArielAirOneの導入を機に、社用携帯電話をスマートフォンへと全面移行し、社外からも簡単かつスピーディーに業務を実施できるようになりました」(石村氏)

 同氏はArielAirOneを使って楽になる業務術をもっと浸透させたいとして、20年から実施してきたArielAirOne便利活用研修をパワーアップさせたいと述べた。

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