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経営者が語る「コロナ禍中のIT事業」、何を見据えてどう進めるか

コロナ禍中、企業の対応は「攻め」と「守り」で顕著な違いが出ている。グローバルでDXが進む中、日本においてはIT業界自体のビジネス環境や人材育成、事業リスクはどう変わっただろうか。

» 2021年03月17日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

本記事は2020年12月21日のBUSINESS LAWYERS掲載記事をキーマンズネット編集部が一部編集の上、転載したものです。

サマリー

  • IT開発の方向性はコロナ禍により「攻め」と「守り」の二極化が進む
  • リモートワークと対面、双方の環境を整備していく
  • ウィズコロナ時代を見据えた2社の展望

 新型コロナウイルスによる経営や事業への影響が各業界に及び、DXやデジタル活用が急速に進んでいます。そうしたなか、先端をいくIT業界では、ビジネス環境や人材育成の在り方、事業リスクなどについてどのような変化が生じているのでしょうか。

 AI・IoT・クラウドを中心とした先端エンジニアリング事業を行うジャパニアスの代表取締役社長 日坂 良氏と、さくらインターネットのグループ会社でハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)領域をはじめとしたシステムインテグレーション事業を行うプラナスソリューションズ代表取締役社長 臼井宏典氏に対談形式で伺いました。

IT開発の方向性はコロナ禍により「攻め」と「守り」の二極化が進む

―― まずは両社の事業について教えてください。

臼井氏: プラナスソリューションズは、さくらインターネットグループのSIerとして2018年5月に設立し、システムインテグレーションやコンサルティングなどを中心としたサービスを提供してきました。さくらインターネットのようにサービス単体での提供ではなく、オンプレミスとクラウドをハイブリッドな形でシームレスにつなぐなど、複数のソリューションの組み合わせにより付加価値をつけたサービス提供をワンストップで行っています。

日坂氏: ジャパニアスは、1999年12月に6人で起こした会社です。機械設計の図面作成など、ものづくり業界をターゲットとした事業からスタートしました。現在は、ハードウェアからソフトウェア、インフラまでの領域に加えて、AI・クラウド・IoTなど先端IT領域をカバーできる体制構築を進めています。

ジャパニアス代表取締役社長 日坂 良氏

―― コロナ禍によってニーズや引き合い、課題など、ビジネス環境はどう変わりましたか?

日坂氏: 緊急事態宣言時にはオフラインでの開発業務ができずいったん止まってしまいましたが、急速に業務のオンライン化が進んだことで、現在はソフトウェアもハードウェアもオンラインで開発できるようになっています。

 また、お客さまのIT開発の方向性が「攻め」と「守り」で二極化しているように感じています。攻めのIT開発とは、AIやクラウド、IoTなど先端ITへの投資です。例えば、自動車メーカーであれば、自動運転や電気自動車といった分野へ力を入れるようになっています。どの業界でも、そうした流れがコロナ禍によってより明確になったのではないでしょうか。

臼井氏: 日坂さんがおっしゃったように、民間では攻めと守りの姿勢の違いが顕著になっていると思います。一方で、国立研究開発法人など官の業界では面白い現象が起きています。9月くらいまではほぼ動きがなかったのですが、新型コロナウイルスに対して何か対策を打たなければならないということもあり、研究機関での研究内容などが加速度的に進化し、それに対するIT投資も進んでいます。

 DXをはじめ、IT分野はとかくキーワードだけが先行しがちですが、ニーズ、想い、タイミングなどがそろって初めて物事が動くものだと感じています。2020年はコロナ禍という絶対的なトリガーがありましたので、大きな転換点となる1年だったのではないでしょうか。

プラナスソリューションズ代表取締役社長 臼井宏典氏

―― 各企業でデジタルシフトの取り組み・DXなどが進むなか、ビジネスの促進とリスク対応とのバランスについて、どのように捉えられていますか。

日坂氏: 当社では、エンジニアの退職が一番のリスクになります。その対策として現在は、上司や部下だけでなく、営業や人事、同僚のエンジニアなど、多方面からエンジニアをフォローする360度フォローという体制を構築しています。さらに、コロナ禍までは、必ず全拠点でトップのビジョンを伝える研修を対面形式で行うなど、社員のエンゲージメントを高める活動を行ってきました。今期は動画での研修となりましたが、やはりトップが直接想いやビジョンを伝えることは重要です。

臼井氏: リーガルリスクという点では、サブスクリプション型のサービスが増えるなど、契約の形が変わりつつあることに注意が必要だと思っています。ある価格で仕入れたものの債権が売った瞬間に手離れするというこれまでの商習慣のなかではリスクと認識されていなかったことが、リスクになり得るのです。例えば月額1000円のサービスを2年契約で提供する場合、2万4000円分の債権を一時的に中間事業者が負うことになるリスクなどがあります。まだ意識されている方は少ないかもしれませんが、さまざまな領域の契約のあり方が変わっていくのではないでしょうか。

リモートワークと対面、双方の環境を整備していく

―― 多くの企業ではテレワークをはじめとした働き方の変化も進んでいます。

日坂氏: リモートワークにおいて気をつけるべきは、社員が遠くなってしまうことです。疲れていたり悩みを抱えていたりといった社員の様子を、直接目を見て確認できなくなってしまっていることには注意が必要だと思います。当社でも業務のオンライン化を進めており、エンジニアのメンバーにも在宅勤務をしてもらっていますが、定期的に営業所に来てもらい、直接会う機会をつくるようにしています。ウィズコロナ時代では、社員のメンタルをフォローする方法として、オンラインでの接点と対面での接点の双方をうまく設計することが大事だと考えています。

 また、リモートワークのメリットとして、働く場所が限定されなくなることで、人員のアサインがより柔軟になることがあげられます。当社は全国に16拠点を置いていますが、これまでは、東京にある企業のプロジェクトには東京在住のメンバーをアサインする必要がありました。しかし、リモートワークが可能になったことで、こうした制約がなくなり、福岡在住のメンバーを東京のプロジェクトにアサインすることも可能になります。当社が抱える1100人のエンジニアリソースの中から最適なメンバーを構成することができるようになるので、大きなビジネスチャンスだと感じています。

臼井氏: 当社では、リモートワークが進んだことで、グループ全体でオフィスを半分以上削減しました。親会社の代表も含めて地方に移住する従業員も数多く出てきています。ただ、プラナスソリューションズではハードウェアも取り扱っていますので、その領域のエンジニアがリモートワークに移行するのはなかなか難しいです。営業からも対面での営業活動を行いたいという声が上がっていますし、子どもがいる家庭などでは在宅ワークがしづらく、自宅以外で働ける場所を探すことになってしまった社員がいるなど、揺り戻しのような現象は見られます。

 すべてが一度にリモートワーク化されるのではなく、メリットとデメリットのあいだで揺り動いた結果、リモートワークも取り入れつつ、みんなで集まれる場所やコミュニケーションが取れる場所の重要性も理解され、その両方の環境が整っていくようになるのではないでしょうか。

―― 人材育成や教育の形なども、リモートワークになったことで大きく変わったと思います。

日坂氏: OJTがしづらくなったことは課題ですね。開発現場ではOJTがメインでしたので、現在は、オンラインでのサポートも行いながら、当社の事業所にエンジニアを呼んで教育するという形をとっています。

 研修のあり方も大きく変わりました。特にAIやクラウドといった先端ITに関する研修は、外部のパートナー企業とアライアンスを組み、オンラインで行っていこうと考えています。オンライン研修であれば、わざわざ会場に集ってもらう必要もなくなりますし、全国の拠点に向けて行えるので、プラスの面も大きいです。ただ、とにかく今は手探りで、さまざまな方法を検討しているというのが正直なところですね。

臼井氏: 当社も教育に関しては悩んでいます。例えば、スーパーコンピュータのエンジニアのように深い専門知識が必要な人材を育成しようとすると、OJT以外に良い方法はないと思います。

 営業の育成も難しいですね。「そういえば……」「せっかく来てくれたから、もう1つ相談したい案件があるんだけど……」などといった商談後の会話が、Web会議システムでは生まれづらくなっています。関係が構築できていない相手に対して「そういえば……」というキーワードは出しづらいですよね。そうした可視化できない人間関係の構築の仕方を実践で学んでいくところに営業にとってのOJTの本質があったと思います。

日坂氏: リアルに会う時間の価値が、この先変わっていくような気がしています。例えばコンサートであれば、今だと動画サイトを通して無料で見るということもできますが、やはり同じ空間にいたいからお金を払ってまで会場へ行く人もいますよね。それがビジネスの世界でも起こってくると思っています。例えばコンサルフィーも、オンラインと直接対面で行う場合とで価格差をつけるという価値観になっていくかもしれません。

ウィズコロナ時代を見据えた2社の展望

―― 最後にお二人のこれからのビジョンや日本の将来に対する考え方についてお聞かせください。

日坂氏: 当社では2020年からAI事業をスタートしましたが、日本のAIは中国や米国に負けている状況だと思っています。私は、日本の強みであるものづくりにAIを掛け合わせることが、日本が勝つための道であり、ものづくり企業へのAI支援を行っていくこと、そして、ものづくり×AIのエンジニアを育成していくことが当社の使命だと考えています。

 もう1つはさまざまな分野でのIT活用です。コロナ禍によって生活が変わっていくなか、街の学習塾や商店など、これまでITとあまり縁のなかった業界の人たちもITを駆使しなければならない状況になってきています。ですが、その人たちの仕事を支えるエンジニアの数はまだまだ足りていません。だからこそ、私たちは日本のITエンジニアの育成にも貢献していきたいと思っています。

臼井氏: 個の時代になりつつあるなか、日本の将来を考える際には、組織も個人もそれぞれレベルアップするという発想が重要になると思います。当社のエンジニアによく伝えているのは、他社から引き抜かれるような人材になってほしいということ。何もしなくても会社からお金がもらえるという時代は、いつか終わりがきます。ダブルワークやトリプルワークが当たり前になる時代では、自分の市場価値を上げていく気概や素養が必要になるのではないでしょうか。

 また当社としては、多重請負構造をなくすことが目標です。多重請負構造の撤廃を行うことで、所得を上げていきたいと考えています。何もしないで所得を2倍にすることは不可能です。個人も企業も国も努力することで、国際競争力を上げていく必要性を感じています。

―― 本日はありがとうございました。

(文:周藤 瞳美、写真:弘田 充、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

本記事は2020年12月21日のBUSINESS LAWYERS「コロナ禍で進むDX、IT業界自体のビジネス環境や人材育成、事業リスクはどう変わったか」をキーマンズネット編集部が一部編集の上、転載したものです。

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