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» 2021年03月03日 07時00分 公開

プロが解説「ジョブ型雇用のリスクとギャップ」 導入前に確認すべき3つのポイント

人事においてジョブ型雇用が今一つのトレンドとなっているが、適切に運用しなければ、リスクとなる側面も持つ。今一度立ち止まって考えたいポイントを整理した。

[土肥正弘,ドキュメント工房]
リクルートワークス研究所 中村天江氏

 現在、にわかに注目を浴びている「ジョブ型雇用」。欧米型の職務別の賃金体系を採り、年功序列型の賃金体系とは正反対の特徴を持つ雇用制度だ。個人の働きが見えにくいテレワーク時代にフィットする雇用形態だが、急場しのぎの便法として導入すると、うまく運用できずに失敗する恐れもある。従来の雇用制度とうまく折り合いを付けて導入するにはどうすればよいのか。現実的な着地点を専門家が提案した。

本稿は、「ActivateHR 2020→2021 HRの『これから』〜テレワーク時代において人事がアップデートすること〜」におけるリクルートワークス研究所の中村天江氏による講演「ジョブ型雇用への向き合い方 ー制度と運用のギャップをどう超えるのかー」を基に、編集部で再構成した。


「いきなりジョブ型雇用への転換」はリスク

 ジョブ型雇用は組織の仕事をジョブ単位に分解し、ジョブに必要な技能を持った人材を採用する雇用制度だ。欧米や中国などでは一般的な制度だが、日本では長期雇用を前提に、従業員の能力や意欲によって仕事を分担する「人に仕事がつく」やり方を採ってきた。いわゆる年功序列制度のことだが、ジョブ型雇用に対して「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる。

 リクルートワークス研究所の中村天江氏(主任研究員)は、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は「人と仕事のマッチング方法が正反対。全面的にジョブ型雇用を採用するのは、北極からいきなり南極を目指すようなもの」と説明した(図1)。

図1:メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の制度の違い(出典:リクルートワークス研究所)

 「ジョブ型雇用制度は、個人の持ち味や経験によって仕事を分担するのではなく、まず箱を作ってそこに人を合わせていくため、職務を限定したスペシャリストを育てやすい。組織のミッションや目標、組織体制を変更したい企業であれば、人事部が柔軟に人材を配置できるメンバーシップ型雇用制度の方がマッチする。頻繁に組織再編を繰り返す企業にとってはジョブ型雇用はなじみにくい。ジョブ型雇用はテレワークの導入を契機に関心が高まっているが、組織の業務の進め方によって効果に大きな差が出る」と同氏は指摘し、現在の日本企業でのジョブ型雇用導入の動きと、制度運用でつまづきがちな部分について解説し、解決策を提案した。

ジョブ型雇用というトレンドに踊らされないこと

 日本企業がジョブ型雇用に注目する理由は、テレワークで従業員の状況が見えにくい環境でも成果を上げたいという企業の考えがあるためだという。日立製作所や資生堂などのジョブ型雇用の導入事例も一因としてあるのだが、それら大手企業では10年にも及ぶ大規模な人事制度改革に取り組んでいて、その総仕上げとしてジョブ型雇用を組み入れている。また三菱ケミカルや富士通は、経営者の交代による経営改革の施策としてジョブ型雇用を採り入れた。経営や人事制度改革の一環としてジョブ型雇用を導入する企業の導入理由は主に次の5つだ。

  • ビジネスのグローバル化により各国の優秀な人材を経営に登用するため、グローバル共通の人事制度が必要
  • IT人材をはじめとしてデジタライゼーションを推進するために高いスキルを持つスペシャリストが必要
  • 人材の流動化が進む状況から優秀な人材を獲得(採用)し、離職を防ぐことが必要
  • これまでの雇用制度改革に対する不全感
  • テレワークの普及への対応

 経団連は、ジョブ型雇用を「専門業務型・プロフェッショナル型に近い雇用区分」とし、「市場価値も勘案し、通常とは異なる処遇を提示してジョブ型の採用を行う」こととして提唱している。

 これまでのように賃金とポストが年功序列で決まる硬直性の高い仕組みでは、外部人材の採用は難しく、若手人材を生かし切れないという思いが企業にはあった。これまでの雇用制度改革では不十分だと企業が考え始めたところに、コロナ禍を契機にした雇用制度の見直しの機運が出てきたのが現状だ。

 現在は、テレワークに都合のよい雇用制度だとしてジョブ型雇用に関心を持つ企業もあるようだが、このトレンドに乗っていきなりジョブ型雇用に転換すると、制度の運用面でつまづく可能性がある。重要なのは高い競争力を獲得するために優秀な人材が必要だという点で、今の人事制度を生かしつつ、ジョブ型雇用の良いところをどう採り入れるかを考えるべきだ。トレンドワードとしてのジョブ型雇用に踊らされることなく、年功序列を撤廃してポストと賃金の硬直性を打破し、経験は浅いが頑張っている人に適切に報いて、辞めず頑張ってもらうという本質的な部分に注目すべきだろう。

ジョブ型雇用、運用面でのギャップとその克服法

 ジョブ型雇用導入に向けて議論すべき課題は次の3つだ。

1.ジョブ型雇用の導入を考える前に向き合うべき人事課題

2.今の人事課題解決の最善手が本当にジョブ型雇用なのか

3.ジョブ型雇用を導入しても生じるズレとは

 ここからは、この3点について詳細を解説していく。

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