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カルビー情シス部に聞く、どうやって短期間で出社率管理を実現したのか? システム移行&アプリ開発秘話

カルビーが新たに打ち出した働き方「Calbee New Workstyle」。その実現の裏には、情報システム部門の活躍がある。コロナ禍が到来する直前に基幹系システムの移行に取り組んでいた同社の情報システム部に、システム移行と出社率管理アプリ開発を振り返ってもらった。

» 2020年08月21日 07時00分 公開
[谷川耕一キーマンズネット]

 「ポテトチップス」や「じゃがりこ」といったスナック菓子の製造・販売で知られるカルビー。2020年6月25日、同社はニューノーマル(新常態)における新たな働き方制度「Calbee New Workstyle」を開始すると発表した。2020年7月1日から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策として始まったオフィス勤務者のモバイルワークを標準化し、モバイルワークの無期限延長や単身赴任の解除、通勤定期代の支給停止を実行した。対象はオフィス勤務者約800人で、モバイルワークを原則としながら業務遂行の質やスピードを上げ、ビジネスの成果を追求する新たな働き方を実践する。

 カルビーでは、COVID-19が流行するずっと前の2014年から在宅勤務制度を開始している。2017年には利用日数や場所の制限をなくした「モバイルワーク制度」を導入したものの、この制度の利用はこれまで一部の従業員に限られていた。COVID-19が流行し始めた2020年3月下旬には、オフィス勤務者は原則在宅勤務となった。

 COVID-19による全社的なテレワーク対応を緊急避難として終わらせず、場所も時間も選ばない新しい働き方を実践し、その上で生産性の向上にも取り組む。そのような経営判断で、Calbee New Workstyleが7月1日から開始したという運びだ。Calbee New Workstyleでは、モバイルワークを標準化し出社率を30%以下に抑える目標を設定している。この目標値は7月26日にCOVID-19の感染再拡大を受け、西村康稔経済再生担当大臣が経済界に「テレワーク率70%・時差通勤」と要請したものと一致する。同社はそれを先駆けて実施していた。

 本稿では、Calbee New Workstyleを支えるため出社率管理の仕組みを開発したカルビーの情報システム部の舞台裏を紹介する。

Notesの性能問題解消のための策がデータベースをさらにサイロ化

 出社率を30%に管理するため、カルビーはServiceNowのクラウドプラットフォーム「Now Platform」を活用して従業員の出社率状況をリアルタイムに把握する仕組みを開発した。

 まず、Now Platformを利用するに至った背景から振り返りたい。カルビーは2019年から、自社で活用するITプラットフォームとしてNow Platformを導入していた。それまでITシステムの構築、運用には「Notes」を利用してきたが、2010年を最後にバージョンアップを実施していなかったこともあり、移行先として選んだのがNow Platformだった。

Now Platformとは(提供:サービスナウ)
カルビー 田中 良氏

 カルビーの田中 良氏(情報システム本部 情報システム部 部長)は次のように振り返る。「グループウェアをはじめ、裏でデータベースと連携して動く独自の業務システムをNotesで作り込み運用してきました。しかし、以前利用していたNotes R8.5は『Windows 10』をサポートせず、またデータ量増加に伴い性能面でも問題が発生していました。その性能問題を解消する手段としてデータベース当たりのデータ量を抑えるため、データベースをかなり分割する必要がありました。例えば、同じ業務を処理するアプリケーションでも、工場や支店、グループ子会社ごとにデータベースが分かれ、部門横断で情報を見ることも難しかったのです。同じ業務のアプリケーションでも、部門ごとにデータベースが分かれたことで徐々に異なるデータベース構造になるのも問題でした」。

 そういった課題からシステムのリプレースに至った。とはいえ、カルビーはNow PlatformにNotesで動いていた全てのアプリケーションを移行したわけではない。主にNotesから移行したのは、ワークフローが動くようなアプリケーションだ。Now Platformは運用管理効率化だけでなく、デジタル変革時代のビジネスの変化に対応する「クイックなアプリケーション開発」を実現することを目的とした採用でもあったという。他のクラウド上のサービスなどとも比較はしたが、Notesにはない大きな拡張性があったことがNow Platform採用の決め手となった。

「クイックなアプリ開発」実践第一号の出社率管理アプリ物語

 2019年度からNotesのアプリケーションの移行を開始し、年度末までにほぼその作業は終了した。そして今回構築した出社率管理のアプリケーションが、ゼロからクイックなアプリケーション開発を実践した第1号になる。このアプリケーションは、発案から8営業日という極めて短期間で実現された。その開発の経緯をカルビー情報システム部のメンバーに時系列で振り返ってもらった。

カルビーの出社率管理アプリの画面キャプチャー(提供:カルビー)

2020年6月19日(金)、発案

 カルビーの人事総務部から情報システム部に「本社の出社率が2割を超えないよう管理する仕組みをなるべく早く作ってほしい」との相談が来た。情報システム部側は「急ぐのであればExcelのマクロなどで実現しようか」と考えた。しかし対象となる部署が20組織以上あり、その情報を集め一元的にモニタリングするとなればデータベースで管理したほうが得策だと考え直す。

 新たな仕組みには、従業員が出社申請を入力する画面も欲しかった。加えて、結果データの閲覧はあらゆる角度から一覧として見られるようにもしたかった。では、どうしたら良いか――。Now Platform上には既に従業員のマスターデータもある。それを活用し、Now Platformで開発することを、同日の夕方に決めた。

2020年6月22日(月)、開発着手

カルビー 稲手信吾氏

 週明け22日月曜の午前中に、情報システム部の稲手信吾氏がPowerPointで構築するアプリケーション案をまとめる。それを手に、Now Platformでのシステム開発を担当する情報システム部の稲木 彩莉沙氏に相談。この時、稲木氏の感触は「3週間ほどあればできるだろう」というものだった。人事総務部にそれを伝えると「もっと早くリリースしてほしい。機能を削るとどれくらい期間を短縮できるか」とレスポンスがあった。期間を1週間に短縮するため、アラートメールの配信、一括での承認権限制御といった機能を削り要件を絞り込んだ。これら一連のやりとりは、「Microsoft Teams」を使ったオンライン会議で実施された。

カルビー 稲木 彩莉沙氏

 22日の夕方には開発チームと打ち合わせし、他の案件とのスケジュールを調整。実はこの段階で稲木氏は、画面のモックアップなどをNow Platformで既に構築していたという。モックアップを参考に具体的な仕様を固め、7月1日にリリースするスケジュールを決定し構築を開始した。

2020年6月30日(火)、本番環境へ

 開発は順調に進み、6月30日18時には、本番環境に反映したという。「今までのアプリケーション開発と比べても、この開発スピードはとても速いです」と稲手氏。

リリース以降もアプリの微修正を実施

 リリースを急ぐために機能を削ったこともあり、当初は本部長が全ての部下の承認をする仕様となっていた。部下の多い本部長は、50人を越える承認をその都度やる必要がありこれは大きな手間となった。これに対し、リリースの翌日には部長承認に変更、さらに翌週には一括承認機能を追加した。

 リリースすぐの7月2日は同社の経理処理の締め日で、出社している人が普段よりも多かった。アプリによってすぐにアラートのメールが配信され、対策が講じられた。これまではリアルタイムに出社状況が確認できておらず、感覚として「いつもより人が多いな」と感じる程度だったという。また部署ごとに出社予定を見る機能も実装され、出社率が高くならないよう事前の調整が可能だ。万が一社内でCOVID-19感染者が出た場合も、濃厚接触の可能性などをいち早く把握し適切な対処するため、出社状況の詳細なデータを利用する予定だ。

今後は内製化と均質化も向上させたい

 先述したようにカルビーはこれまで、Notesを作り込んで使っていた。以前は、開発者のレベルで作り込みの度合いも変わり、システムの精度に統一感がなかった。対してNow Platformでは、「誰が作っても一定レベル以上のものが構築できるプラットフォーム」となっていると田中氏は評価する。

 同時にITシステムの内製化も進める。今回開発を担当した稲木氏は、内製化のために新たに採用されたエンジニアの1人だ。2019年9月に入社し、初めてNow Platformでの開発に携わったという。

 「2019年11月頃から実際にNow Platformで開発するようになり、既に3つのアプリケーションの開発を担当しました。Now Platformならば初心者でもすぐにデータ入力用のフォーム画面などを作れるようになります」(稲木氏)

 今回の出社管理の仕組みも、大枠の構造はおよそ1日で構築でき、その後、評価と修正を繰り返すアジャイル型開発によって短期間でのリリースに至っている。

 カルビーは内製化の体制を強化するためにも、Now Platformをさらに活用していきたいとしている。特に問い合わせ管理や申請処理が関係する仕組みは、Now Platformでの開発向きだ。「ServiceNowは、最新機能が搭載され素早い開発が容易な反面、バージョンアップも早く追い付くのが大変です。最新のAI(人工知能)機能やチャットbot連携にも是非チャレンジしたいです」と、田中氏は語る。

 市場を見ると、Notes環境の移行先としてServiceNowを選択する例が増えている印象がある。移行に際しては、Notes時代のように個々に作り込みすぎないようにすることが、カルビーのように「誰が作っても一定レベル以上のものが構築できる」ことにつながるだろう。また、Now Platformの俊敏性を生かすには、ITシステムの内製化に舵を切ることも重要だ。どんなに柔軟で俊敏性のあるプラットフォームでも、開発をSI企業に丸投げするようではメリットを期待できないだろう。

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