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数千人の新卒面接をぶっつけ本番でオンライン化 パナソニックの奮闘

国内外の大学生、大学院生など数千人から応募があるというパナソニックの新卒採用。2020年、コロナ禍をきっかけに2021年卒の新卒採用を100%オンライン化した。同社の取り組みやオンライン採用活動をやって分かったことを聞いた。

» 2020年07月29日 08時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で、2021年卒の新卒採用は大きな影響を受けている。採用活動に遅れが生じている企業も少なくなく、一部では長期化するという話も出ている。

 そんな中、パナソニックは新卒採用の面接を100%オンラインに切り替えて対応し、最終選考まで一度も対面せずに採用活動を実施し、採用計画はほぼ達成の見込みだという。同社のオンライン面接はどのように実施されたのか。コロナ禍における同社の採用活動の裏側について、担当者に話を聞いた。

突然の就活リアルイベント全面中止、オンラインへ移行

 パナソニックの小幡寛斉氏(採用部 採用課 課長)は、同社の国内、海外を含めた新卒採用の責任者だ。製造業のため採用する人材はエンジニアが中心で、技術系と事務系の割合はおよそ3対1だ。

 小幡氏は、例年と大きく変わった2021年の新卒採用について次のように語る。

パナソニック 小幡氏

 「2020年2月末までに実施した学生へのインターンシップは、なんとか終えることができました。そんな中で、日本でも新型コロナウイルス感染症の波が訪れました。同3月1日に採用広報が解禁というタイミングで、説明会やイベントは全て中止せざるを得ない状況で、全面的にオンラインへ移行することを決めました。幸い説明会やセミナーはなんとかオンラインで実施でき、学生と一定のタッチポイントを作ることができたと思っています」

 オンラインで情報発信はできたものの、例年のように学生と企業が交流する大学生、大学院生限定のカフェ「知るカフェ」などで実施しているオープンセミナーや大学主催の企業説明会で、学生とのリアルな接点を持つことはできなくなった。

 「例年は、オープンセミナーや企業説明会などで偶然の出会いがありました。パナソニックに特に興味を持っていなかった学生が、大学でのセミナーをたまたま聞いて関心を持ってくれるといったケースです。本年の採用活動ではそうした偶然の出会いは生まれにくく、当初からパナソニックに興味を持っていた学生にしかアプローチできないため、多様な人材を募集する当社の採用活動において、そこは大きな壁でした」(小幡氏)。

テスト用に準備していたオンライン面接を急きょフル稼働に

 パナソニックは従来、採用管理システム(ATS)を導入し、大量の応募者のエントリーシートや選考会(面接)の日程を管理していた。同時に、個人情報の管理を徹底するため、紙情報を取り扱わず、データで管理する体制は既に整えていたという。

 ただし、面接に関しては基本的に対面を前提としており、オンライン面接についてはちょうど2020年からテストしていこうという段階だった。小幡氏は「遠隔地に住む人や海外からの応募など、地理的な課題を抱えて応募する学生を支援したいと考えて導入を検討していました。それが、まさか2020年に100%オンライン化して面接を実施するとは思っていませんでした。ちょうど導入を始めていたことが幸いだった」と振り返る。

 同じく、採用活動の運用面を担当するパナソニックの青木深都氏(採用部 採用一課)も、「2019年12月に、ちょうどシステムの選定を終えたタイミングで、試験的に実施する時間もないまま全面利用となりました」と話す。

パナソニックの選考基準は変えないまま面接方法だけを変える

 パナソニックがオンライン面接システムを導入するに当たって求めた要件は、下記の通りだ。

 まず、同社の新卒採用の規模に対応できるシステムが必要だった。ピーク時には面接の予約が1日数百件にも達するため、案内が煩雑にならないことがポイントだった。

 また、オンライン面接で面接員が残すコメントや評価をデジタルで記録できることも必要だった。「これからはHRテックの領域も強化していきたいと考えており、面接の記録を安全かつ容易に共有できるようにしていきたいと考えていたところです」(小幡氏)

 もう1つの選定ポイントは、3人以上の同時ログインが可能なことだ。同社の面接の形態は、1対1だけでなく、学生が複数名、面接員も複数名という形を取る場合もある。これをオンラインでも問題なく実現することが求められた。

 「オンラインであっても、新卒人材の選考基準は例年通り、変えないことが前提でした。選考段階ごとに、誰が選考し、承認を取るかというプロセスをオンラインでもそのまま守っていくため、“複数名×複数名”という面接もオンラインで実現する必要がありました。汎用(はんよう)のWeb会議システムを除き、この機能が実現できるオンライン面接システムは限られています」

「やってみないと分からない」オンライン面接の課題は現場にアリ

 上記の条件のもと、最終的にパナソニックが採用したオンライン面接システムは、スタジアムが提供する「インタビューメーカー」だった。2020年2月に導入し、5月から本番運用を開始。

 導入から運用開始まではとんとん拍子に事が運んだが、オンライン面接が稼働する日、小幡氏は不安を抱えていた。「大規模な選考会を本当にオンラインで実施できるのか――。対面であれば、『どこに何時に来てください』と連絡さえすれば良かったが、オンラインではリンクを送っても学生さん本人が当日ちゃんとアクセスできるか、滞りなく面接を終えられるかなどやってみなければ分からないことがたくさんありました」(小幡氏)。

 こうして始まったパナソニックの100%面接オンライン化の運用。学生にとっては一世一代の就職活動ということもあり、採用部門も緊張感に包まれていた。フルリモート採用活動で成功した点と失敗した点は何か、またパナソニックはどのように失敗を乗り越えたのだろうか?

 応募者とのスケジュール共有の点について青木氏は「本年はまだATSとの連携が自動化されていないため、ATSで受け付けた予約データをインタビューメーカーへ登録する工程が発生していましたが、スタジアムのサポートメンバーのフォローもあり、指定された日時のURLがインタビューメーカーから自動配信されるまではスムーズに進められ、面接員も学生も、問題なく面接画面にアクセスすることができました」と振り返る。

 ただ、アクセスできても、オンライン面接中に接続が不安定になるといったケースも起こりうる。その対応のため、インタビューメーカーの開発元であるスタジアムのスタッフは、面接員が集まる大阪の会場に常駐し、オンサイト で支援にあたったという。

 特に面接が集中する日には大量の面接を連続して実施するため、厳格なスケジュール管理がなされていた。「面接員によっては1日に10件以上の面接を担当します。1つつまずくと、後の予定が全部ずれてしまう。そうならないように、リアルタイムでの対処が必要でした」(小幡氏)

 トラブルがあれば、すぐに接続し直したり、または当日で予定を取り直したりなど、状況に応じた対応で乗り越えたという。

 また青木氏は、「オンライン面接システムの稼働開始から数日間は、毎日の選考会が終わった後、その日の問題点と対策をパナソニックの運用チームとスタジアムのサポートメンバーとの間で話し合いました。この数日間に改善を重ねて、立ち上げから早い段階でおおよその運用体制を固めることができました。運用を開始した後に当社の『オンライン面接の形』ができ上がったと思っています。それが、その後の安定運用に非常に効いたと思っている」と振り返る。

 小幡氏も「その場で何を対策すればいいのか、適切なサポートが得られることが何よりも重要だった。そこがなければ、本年の採用はここまで順調に進まなかったと心底思っている」と、サポートの重要性を繰り返す。

 就活生にとって面接は、社会人になるための大きな舞台だ。それが問題なく進むように、画面の裏では両社が全力で支えていたのである。

オンライン面接だからこそ、気を付けるべきこと

 運用開始時の苦労はあったものの、パナソニックが初挑戦したフルオンライン面接による採用活動は、予定通りに進んでいる。2021年卒のエントリー数は前年比で微減だったが、最終的な採用人数に向けて計画通り進行中で、むしろ計画より少し早いぐらいだという。

 まだレビューの段階までは来ていないが、今回やってみて分かったことがいくつかある。まず、オンライン面接では学生側のネットワーク環境が悪い場合は対処のしようがなく、別途違うWeb会議の場を設定するなどの対応しかなかった。これは将来的に、5Gなどが普及し個人利用のネットワーク環境全体が改善すれば、好転するかもしれない。

パナソニック 青木氏

 学生側からオンライン面接への不安や抵抗感は、意外にも全く感じなかったという。「現在は学生側も、オンラインでの面接にとても慣れています。中には他社の採用でもインタビューメーカーを使った、という人もいました。どちらかというと、当社の面接員のほうが、慣れが必要だったと思います」(青木氏)。

 パナソニックの面接員は、普段は別の業務を担当する従業員で、採用のシーズンだけ数日間呼ばれて学生を面接する。従業員も、コロナ禍の影響でテレワーク環境でWeb会議システムを多用していたので、オンライン面接を担当することになっても特に問題はなかった。ただ、ソフトウェアのインタフェースは初めて触れるものだったので、最初は慣れなかった部分も見受けられたという。

 面接の内容は、特に問題なかったのだろうか。パナソニックでは、もともと面接員の教育プロセスがあり、それをオンラインになったからといって大きく変えなかった。細かい部分で、在宅で面接に参加する場合、通常業務の延長になってしまいがちなため、「学生に失礼のないようセッティングに注意する」「会話で用いる用語を学生にも分かりやすい言い方にする」などの指示をした程度である。

 青木氏は「対面での面接と比べて、画面越しの面接では圧倒的に情報量が減ってしまいます。その中で面接員は、学生のいいところを見つけようと苦心して面接に取り組んでいました」と話す。

 オンライン面接ではいつも以上に伝えたいことを正確に伝え、答えを引き出すことが求められる。面接員は、学生が緊張しているようだと分かれば、雑談を振って緊張をほぐしてあげ、いいところ探しをしていこうという姿勢で臨んでいたという。こうしたノウハウが、今後のオンライン面接にも生かされていくに違いない。

今後の取り組みは内定者と共体験の場を作ること

 小幡氏は、2021年卒の採用プロセスの課題について、次のように語る。

 「入社までの期間に、埋めていきたい2つの要素があります。1つ目は、1つの場所で同じことを体験する『共体験』の場を作るということ。これから会社という場で働いてもらうに当たり、必要なことなので実現したい。2つ目は、学生と当社、それぞれの“ストーリー”を補強していく必要があるということです。学生は数ある会社からパナソニックをどういう経緯で選んだのかを再確認したいはず。また当社側も、従来はセミナー時の学生との交流などの積み重ねで、共に働く付随的なイメージを作っていた。それらがオンラインだけの要素では希薄なので、どのように補うべきかを検討している」(小幡氏)。

 「面接」というプロセスについては、2021年卒以降もオンラインでの実施が有力となりそうだ。当初の狙いだった遠隔地からの応募者の課題を解消する意味でも、ツールとして欠かせない。逆にオンライン面接を前提にして、それ以外の体験的な場をどう設定していくかを組み立てることもできる。いずれにしてもパナソニックの新卒採用プロセスは、2020年を境に大きく変わり、進化していくことは間違いないだろう。

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