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» 2020年07月27日 10時00分 公開

40万アイテムの在庫をなぜ強みにできるのか トラスコ中山の「ビジネスモデルのDX」を学ぶ

40万以上のアイテムを在庫、多数の物流拠点を抱えるトラスコ中山。同社は「在庫回転率」とは異なった、独自の在庫管理の指標を整備する。在庫をリスク要因ではなく競争力の源泉と捉える同社の戦略とそれを支えるシステムはどういったものだろうか。

[指田昌夫,キーマンズネット]

 機械工具卸売商社であるトラスコ中山は、40万アイテム以上の商品を取り扱いながら、実に91%もの「在庫ヒット率」を誇る。在庫というと経営リスク、コストを圧迫する悪者のように捉えられがちだが、この在庫こそが同社の強みになっている。

 同社のこの取り組みは2018年、優れた経営戦略に対して贈られる「ポーター賞」を受賞したことでも知られる。ポーター賞は、一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻(一橋ICS)が運営するもので、競争戦略論で知られるマイケル・ポーター氏にちなんだものだ。

トラスコ中山 数見 篤氏 トラスコ中山 数見 篤氏

 2020年1月には、この仕組みを強化する新基幹システム「パラダイス3」が本稼働を開始した。同社の競争優位を支えるシステムは、どう構築されたか。SAPジャパンのオンラインイベント「SAP NOW」基調講演でトラスコ中山の取締役で情報システム本部長の数見 篤氏が、その詳細を語った。数見氏は1993年にトラスコ中山に入社、eビジネス営業部を中心に活躍してきた。2017年から経営管理本部情報システム部長に就任、2019年より現職を務める。日本のSAPユーザーグループであるJSUGでは会長も務めている。

40万アイテムの在庫を強みに転換できるのはなぜか

 トラスコ中山は工具や作業用品を専門に扱ってきた専門商社だ。現在約2800人の重要員を抱え、年間に約2200億円を売り上げる。

 同社を特徴付けるのが、「プロツールなら、トラスコに聞けば何でもそろう」を目指した在庫保有率だ。全国に96カ所の拠点を置き、物流センターも17カ所に配備する。在庫は常時約40万アイテムを備えるという。

 通常、在庫はコストの負担となるため過剰な在庫を抱えることはリスクとされる。このため多くの企業が「在庫回転率」を指標にして、回転率の悪い(めったに売れない)商品は持たず、売れ筋の商品の販売機会を逃さないように在庫をコントロールするのが一般的だ。だが、同社が最も重視するKPIは「在庫ヒット率」(在庫出荷率)だ。注文に対してどれだけ在庫から出荷できたのかを測り「注文に対して即納品できる割合がどのくらいか」を見ている。

 「一般的には在庫回転率を用いることが多いが、当社は『在庫はあると売れる』という考えのもと、在庫を徹底的に拡充してきた」(数見氏)

 数見氏によれば、現在の在庫ヒット率は91%だ。約40万アイテムの大半を在庫として確保していることになる。物流についても同社独自の配送ルートを構築しており、午前中の注文は午後に届ける、夕方までに入った注文は翌朝届けるという仕組みを全国に構築している。

 取り扱いの商品の情報は「オレンジブック」としてカタログにまとめており、Webサイトでも「オレンジブック.com」として商品情報を公開する。

 同社ビジネスの特徴として、卸売業でありながらエンドユーザーとも直接取引する二重性がある。問屋という業態として、従来は店舗や機械工具商社、溶接材料を扱う商社を代理店としていたが、現在は「MonotaRO」のようなネット通販企業、ホームセンター、プロショップとも取引がある。

 数見氏は、現在のこの業容を実現できたのは「基幹系システムのパフォーマンスがあればこそ」と語る。だが同社の強さはシステムだけに求められるものではない。在庫に裏付けられた即納のための仕組みや独自のKPI、取引先を巻き込んだデジタルトランスフォーメーション(DX)など、競争力を維持するための考え抜かれた戦略こそが本質だ。

取引先も含めたサプライチェーン全体の「脱・紙、FAX」がDXにつながる

 同社のDXの推進は、「自社だけでなく、上流のメーカー、下流の販売店、最終ユーザーまでを見通した戦略が必要」と数見氏は語る。

 「仕入れ先、販売店の多様なニーズに合応えるため、トラスコ自身がいろいろな形の“コンセント”を持つイメージ。トラスコにつなげば、ほしい商品が何でも明日から使えると伝えている」

  この「コンセント」モデル考案の背景には、ビジネスモデル全体のDX推進を狙った作戦がある。

企業間のシステム連携の「コンセント」は多数の方式を用意する。EDIやECサイトの他、後述するWebアプリ「POLARIO」など、どの方式で接続しても在庫や物流の情報を参照できる 企業間のシステム連携の「コンセント」は多数の方式を用意する。EDIやECサイトの他、後述するWebアプリ「POLARIO」など、どの方式で接続しても在庫や物流の情報を参照できる

ビジネスモデルにおけるDXの推進 ビジネスモデルにおけるDXの推進

 ただし、トラスコは問屋としての機能に徹し、販売店を中抜きすることはしない。デジタルのチャネルも強化しているが、仮にエンドユーザーから直接トラスコに注文があっても、それは販売店経由の注文として処理される。販売店から見ると、共存共栄のパートナーであるという存在だ。

新基幹システムで現場業務を自動化

 こうしたトラスコのサプライチェーンを巻き込んだDXの仕掛けを支えるのが、2020年1月に稼働した同社の新基幹システムが「パラダイス3」だ。多数の商品情報、多数の取引先とのデータをつなぐ「コンセント」機能の中核を担う。以降では、同社パラダイス3の詳細を見ていく。

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