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自宅で働いてみて分かったこと、548人がホンネで語る「本当はあれが必要だった」緊急調査:COVID-19のテレワーク環境を振り返る(1)

自宅で働いてみて分かったのは「本当はあれが必要だった」ということ――。548人に聞いた、テレワークで皆が「身銭を切っても揃えたもの」「必要なかったもの」とは。

» 2020年06月18日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 2020年、新型コロナウイルスによる被害が世界規模で広がり、日本でも生活に大きな変化がもたらされた。こと企業においては期初計画の見直しや在宅勤務など働き方の転換に追われたケースも少なくないだろう。そこでキーマンズネット編集部では“コロナ禍”における企業の実情を調査すべく「非常事態宣言期間中のテレワークの実施状況と勤務実態に関するアンケート」を実施した(実施期間:2020年5月25日〜6月12日、有効回答数548件)。

 本稿以降、数回にわたって調査結果をレポートしていく。最初のテーマは「テレワーク時の労働環境、ファシリティの課題」だ。

調査サマリ

  • テレワークに必須のアイテム、職場の支給品を利用できたのは全体の3割にとどまる
  • 既存環境を流用した割合が高いのはインターネット回線(77.8%)PCデスク(61.3%)、オフィスチェア(56.6%)、1割の回答者が自宅FAXも利用
  • テレワーク時の課題の第1位は通信環境(41.3%)だった。捺印、FAX業務はそれぞれ約3割が課題に挙げた
  • テレワーク向けの就労管理ルールが未整備の企業では従業員のモチベーションに変化が見られた

 調査ではまず、回答時点でのテレワークの導入状況を確認した。調査実施期間は5月後半から6月中旬と、緊急事態宣言が開けた時期だったこともあり回答者の約9割がテレワークを導入済みの状況であることが分かった(図1)。当媒体読者を対象としたオンラインアンケートであることを考慮すると、一般よりはテレワーク導入率が高くなることが想定されるが、同条件で2020年2月末に実施した調査のテレワーク実施率が7割弱だったことを考えると、直近の数カ月でテレワークを導入した企業が一定数いると考えられる。

 なお少数ではあったが「現在は導入していない」と回答したグループに、今後のテレワーク導入意向を聞いたところ「1~2カ月以内」に導入したい、とした回答が最も多く、全体的に見ても64.0%と過半数が「1年以内」と回答した。

図1 図1 テレワークの導入状況

最低限の環境整備に「会社支給品」は間に合わず

 緊急事態宣言の発出をきっかけに多くの企業で短期間で大規模なテレワーク環境の整備が必要となった。企業側の準備はもちろんだが個々の従業員の就労環境のケアはどの程度できていただろうか。

 調査ではテレワーク期間中に利用したファシリティ類について、支給の有無や利用状況を調べた。

 オンライン会議に必要な「Webカメラ」「Web会議用マイク」「ヘッドセット」など遠隔会議や対外業務に使用されるツールや「ビジネスフォン」「モバイルルーター」といったテレワーク実施に最低限必要な機器は、「職場から支給された」とする回答が比較的多く寄せられた。具体的にはWebカメラで35.2%、ビジネスフォンで36.7%、Web会議用マイクで33.2%、ヘッドセットで20.0%、モバイルルーターで17.1%が職場から支給されたものを使っていた。

 テレワークに必須のアイテムでも会社からの支給は3割程度だったが、全国的に同じタイミングでテレワーク関連機材の需要が高まったこと、メーカー側のサプライチェーンに混乱が生じたことなどから調達が間に合わなかったことが影響している可能性がある。

 逆に、PCデスクは自宅設備を流用したとする回答が多く(61.3%)、職場から支給されたのは6.5%だった。自宅に引いた私用のインターネット回線を業務に流用しているとした回答は77.8%にのぼった。インターネット回線については7.7%が新たに自費で用意し、4.3%は職場が用意したものを使っていた。

図2 図2 テレワーク期間中に利用したファシリティ類(抜粋)

在宅勤務時、従業員はこんなものを必要としていた

 同じ質問のフリーコメントでは、多くの回答者が従来の働き方改革の文脈では想定しなかったアイテムを欲していたことも分かった。

 例えば「腰痛防止クッションを購入した」など、自宅作業による身体への影響を対策を極力抑える対策を挙げる意見が多数見られた。PCデスクなどを自費で購入したという意見も多かったが、既存環境を流用して対応する回答者の中には、「リビング用のテーブルでノートPCを操作すると高さが合わないため、ノートPCの高さを調節するスタンドを購入した」というように、業務環境が不十分ゆえに別の出費がかさんだ例もあった。

 数時間、数日間のテレワークならばいざしらず、今回のように長期間に及んで毎日の業務をこなすことを考慮すると、オフィス同等の働きやすい環境を各自で整備せざるを得なかったことが分かる。

 他にもスマートフォンやタブレット端末をサブモニターに流用したことから「USB-Cで周辺機器やHDMIディスプレイを接続可能なHUBを購入」などの声もあった。他には業務の移動に「燃料費を自己負担して自家用車を利用した」とのコメントもあった。

図3 図3 テレワークの労働環境で問題になったこと

「テレワークで仕事が進まない」不安定な通信環境、紙業務がネック

 慣れないテレワークでは他にも混乱があったようだ。テレワークの労働環境面で問題が表出したこととしては「インターネット回線が遅い、通信障害がある」41.3%、「運動する時間を確保できない」39.3%、「各種申請書類やなつ印などの手続きを遂行できない」37.1%、「郵便物やFAXが必要な業務を遂行できない」30.1%、「執務に使える場所がない」27.7%などが上位に挙がった(図3)。

 各家庭で家族全員が外出せずにオンラインコンテンツを利用する機会が増え、通信回線が逼迫したことに加え、4月初旬ごろは複数の国内大手インターネットプロバイダーで通信障害が頻発したこともあり、インターネット回線に課題を感じた回答者が多いようだ。

 健康課題として、在宅での長時間の業務を想定したデスクやチェアといった設備が整っていないケースや、通勤がなくなり運動不足になることで、肩こりや腰痛を発症し身体的に大きな負担がかかるといった問題はよく聞かれる。今後、テレワークを想定した雇用が一般化すれば、従業員の在宅での就労環境制度も見直しが必要となる。

 また不安定な通信回線やテレワークを想定せずに構築されていたワークフローにより著しく効率が低下するケース、郵便物やFAXなどを送付しようにも都度手間がかかる点など、今までできていた業務一つ一つに想定外の手間がかかる点に困惑する声が多く寄せられた。

「テレワーク中は残業代ゼロ」ルールで従業員の心境と労働時間に変化

 テレワークの実施で通勤時間がなくなる一方で、先述のように普段と異なる環境で業務を続けた結果、生産性はあがったのだろうか。仮にオフィスでの勤務とパフォーマンスが変わらないのであれば、仕事に割く時間は減るはずだ。

 そこで調査では残業時間にはどのような影響があったかを尋ねた。

 60.9%が通勤時間が減ったにもかかわらず、残業時間は「変わらない」と回答し「減った」と回答したのは29.5%だった。意外にも、9.6%は「増えた」と回答しており、必ずしも残業時間の削減が実現したわけではないようだ。以降では、残業時間の変化とその背景を見ていく。以降では、残業時間の変化とその背景を見ていく。

ダラダラ会議、不要不急の業務削減も、コミュニケーションコストは拡大

 それぞれの理由を見ていくと、労働時間や残業時間に好影響があった意見として「ダラダラ会議、残業時間会議がなくなり、業務が効率化できた」「無駄な会話をする時間が極端に減った」「頼まれごとなどの雑務が減ったため、効率がアップした」など打ち合わせや急な依頼が減ったこと、私語や電話による作業の中断がなくなったことで仕事に集中できるようになったという声が多かった。

 一方で労働時間が増えたとする意見では「通勤時間に費やしていた時間が労働時間になったため、結果的に労働時間が増えた」といった意見が出た。また、会議室の順番待ちや調整が不要になったことから「会議の終わりや仕事の終わりが明確になりづらく気が付いたら残業していた」など、時間管理の面での課題を上げる意見もあった。

 通信速度など自宅環境の問題によって作業効率が落ちたという意見や、他部署とのコミュニケーションに時間がかかったり周囲の状況が見えないため判断が遅くなったといった意見も目立った。

チームワーク、モチベーションの維持に課題

 無駄な会話がなくなり業務に集中できるとの声と同時に聞こえたのはコミュニケーションが取れない、という意見だ。「コミュニケーションが減って、仕事のモチベーションを上げにくい」「部下のモチベーション維持や業務成果の把握が困難」といった声が挙がる。別の調査は、Web会議ツールやビジネスチャットを使いたい、とする意見が多かったことからも今後、この問題を解消する目的で導入する企業が増えるものと予想される。

「残業代一律ゼロ」ルールの功罪〜労働時間管理の課題とジョブ型雇用の波

 今回の調査はオフィスと自宅とで労働環境が変わることで生産性にどんな影響があったかを中心にアンケートを取ったが、残業時間の変化を尋ねる中で、興味深い発見があった。

 テレワーク期間中は一律で残業代を見合わせる、とのルールで運用した企業では、従業員のマインドに変化があった。「テレワーク期間中は一律で残業代を見合わせる」とのルールで運用した企業では、「明日でいいものは明日に回した」「残業しないように心がけた」と、労働を抑制する考え方が強く現れる傾向にあった。労働時間に基づく評価が前提の組織で、測定できないなどの事情で残業が記録されない場合、時間を超過して業務を遂行してもその働きは評価されないため、自己防衛的に労働をセーブするという意見だ。

 テレワーク導入では従業員の管理を問題視する意見が根強く、細かな進ちょく報告や監視ツールの導入を求める組織も少なくない。こうした時間管理型の働き方を是正しようと、昨今では「ジョブ型雇用」へのシフトを進める企業が相次いでいる。

 短時間労働であっても長時間労働であっても職務と結果を評価するための仕組みだ。目的を明確にし、評価指標を明らかにすれば「さぼる」といった概念がそもそも不要となるため、テレワークや遠隔地とのコラボレーションを前提とした就労形態と親和性は高い。今後は残業に対する評価も変わってくることが予想される。こうした制度が整ってくれば、不要なタスクや会議はやらないなど、個々の従業員が生産性を意識した働き方にシフトしやすくなるだろう。

子育て世帯、介護世帯を襲った想定外の「家族全員在宅」

 他にも「学校の休校対策で子供の面倒を見る必要があった」「子どもも家にいるので、子供の世話や家事などをあてにされる」といった問題を挙げる意見もあった。従来の働き方改革では、育児世帯であっても子どもを学校などに通わせることで一定の個人の時間がある状況を想定してきた。だが、パンデミックを想定したBCPを考えた場合は、子どもだけでなく、介護が必要な家族を含め、家庭内でケアをしていくことを想定しなければならない。

 在宅中はどうしても家族との関係性を気にせざるを得ないため「業務優先度が低い業務は後回しでよいという考えで業務に対応した」と自身で優先順位をつけて前向きに対処したケースもあったようだ。

 こう考えたときに、ケアの必要な近親者を抱える従業員が勤務を継続しやすい(退職するリスクのない)雇用のあり方や勤務形態を議論してく必要もあるだろう。

 このように新型コロナウイルスの流行により発せられた緊急事態宣言を受け、全体の約9割の企業で実施していたテレワークだが、急ピッチで対応したこともあり、まだまだ課題は多いようだ。新型コロナウイルスに関してはまだ抜本的な解決策は見出だされておらず、今後第二波、第三波がくる危険性も報じられている。緊急事態宣言が解除された今こそ、現場の声を取り入れながらいま一度自社のテレワーク環境を見直すべきではないだろうか。

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