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BCP見直しとIT投資予算の動向調査(2020年)/前編

感染症拡大を受けたテレワーク要請に対応できた企業は4社に1社だけだった。

» 2020年06月04日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 キーマンズネットは2020年5月12〜24日 にわたり「BCP見直しとIT投資予算の動向調査」を実施した。全回答者122人のうち、情報システム部門は33.6%、製造・生産部門が15.6%、経営・経営企画部門が10.7%、営業・販売部門が6.6%などと続く内訳であった。

 アンケートは、感染症拡大を受け、BCPが十分に機能したかどうか、今回の経験を経て今後のIT投資がどう変化したかを軸に調査した。このうち、前編の今回は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて企業は事業継続計画(BCP)の策定通りに対応ができたのか、また策定済みのBCPやパンデミック対策で対応できなかったなどの課題はあったのかなどの企業におけるBCP対応状況を見ていく。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。

パンデミック対応BCP「策定通りに対応できた」は4社に1社、約半数は「想定外」

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界規模で猛威を振るい、国内でも4月7日に緊急事態宣言が発令された。外出の自粛が要請された結果、一般生活のみならず企業活動も制限せざるを得ない状況となった。経済活動は一時停滞する非常事態となった。もともと地震や台風による災害被害例が多い日本において、企業は自然災害やテロ攻撃などの緊急事態発生時にいかに損害を最小限にし、早期復旧を可能にするかを定めたBCPを策定しているケースも少なくない。そこで今回、新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態に際し、事業継続計画に即した対応ができた企業はどのくらいあったのかを調べたところ「おおむねBCPで策定した通りに対応できた」と回答したのは25.4%と4社に1社にとどまる結果となった(図1)。

 詳細を見ると、全体の76.3%でBCPを策定していたにもかかわらず、そのうちの約7割(全体から見ると約半数)でパンデミック対策が不十分であったりパンデミックそのものを想定できていなかったりした。半数の企業がパンデミック発生時の事業継続計画(BCP)が不十分であり、事業継続に影響が生じたことが分かる。

図1  図1 新型コロナウイルス感染症拡大に際し、事業継続計画に即した対応はできたか(N=122)

パンデミック対応BCPで足りなかったこと、反省点のまとめ

 それでは具体的にどのような課題が見つかったのだろうか。今回の調査ではフリーコメント形式で課題を尋ねてみた。

 回答の大多数はテレワークに関する課題だったが、テレワーク環境の整備ができていた企業とできていなかった企業とで傾向が2つに分かれた。

 まずテレワーク環境が整備できていなかった企業では「全国一律の緊急事態宣言は想定外だった」という意見が多数寄せられた。局所的な自然災害の場合は災害発生地以外の拠点で事業を継続することも検討できるが、全国規模のパンデミックとなると対応の仕方が大きく異なる。

 アンケートでは「全ての従業員に対しテレワークの環境を準備できていなかったため、出社が必要になった」といった反省の声も寄せられた。

 今回のパンデミック対策では全国規模で外出自粛とテレワーク推奨が始まったことから、ノートPCやWebカメラなどの必要機材の在庫が枯渇して調達が間に合わなかった企業も多かった。

 そもそもテレワーク環境が未整備であったケースや整備していたがその対象範囲が限定的だったり、テレワークへの移行に手間取ってしまったりした企業も少なくないようだ。

 中には「テレワーク実施がほぼ不可能な環境」といった声もあり、そのような業態や職種についても緊急時の行動指針を策定しておく必要がありそうだ。

 続いてテレワーク環境が一定程度整備できていた企業で多かったのは、ネットワークへの接続人数が想定を超えてしまったために起きた遅延や対応端末の調達が間に合わないなどインフラ整備面での課題だった。

 「在宅勤務によるリモート接続サーバの障害対応」「在宅勤務の規模が想定を超えていたため、VPNライセンス数や内線化可能なスマホなどの端末に不足が発生。緊急対応するには情シスのパワーも不足していた」など、機器調達や障害対応に対応する情シスへの負荷集中はもちろん、それら業務も極力出社を制限して行わなくてはならなかったという悲痛の声もあった。その他「テレワークを推奨しても自宅のネットワーク環境に問題がある人が多くいた」など従業員の家庭での通信環境が業務実態と合わず、生産性が下がったケースも挙げられていた。

未整備だった「客先常駐の従業員」の対応、「押印出社」…明らかになったBCPの落ち度

 テレワーク環境の有無に関わらない課題も見られた。多かったのは策定済みのBCPやパンデミック対策で見落としていたケースとルール制定についてだ。例えば、客先常駐従業員や協力会社従業員といった所属や勤務場所が異なるケースを鑑みたルール制定が不十分であったり、新入従業員や事務作業従事者などにどのような教育や業務を任せるべきか、テレワークの対象範囲とするのかなどの想定がなされていなかったりするケースなどだ。他にも「原則全員テレワークですが、契約書の押印や送付された請求書の処理、宅配便の受付などにおいて出社が必要な部門、担当者がいた」に見られるように、承認や押印、書類送付など日本独特の商慣行に基づいた紙運用を課題に挙げる声も目立った。まだ日本企業に根強く残る紙運用や押印取引については政府も問題視しており、2020年4月28日より規制改革推進会議で議論が開始されている。今後は申請や契約に係る手続きのオンライン化が促進されると見込まれ、潮流に合ったルール制定がカギになりそうだ。

 加えてテレワーク時のコミュニケーションや情報共有の在り方、それにひも付くメンタル面・身体面での不調をどのようにケアしていくかといった課題も挙げられた。また「組織内の人員が感染した場合の対応策が十分でなかった」「従業員が感染したときリスクカバーできるバックアップ体制や人員がない」など、実際に感染者が出てしまったときに業務を止めないためのバックアップ体制や運用フローの変更といった整備ができていないことに気付いたといった声も少なくない。

 今回、ほぼ全ての企業が新型コロナウイルスの蔓延という予期せぬ緊急事態に見舞われ多かれ少なかれ被害を受けたであろう。一方でこうした想定外の事態が起こりうるということを改めて認識する機会となったとも言えよう。この事態を一過性のものと捉えず繰り返し起こり得る脅威と捉え、改めてBCPの見直しや策定を検討してほしい。

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