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無線LANの導入状況(2020年)/前編

2019年は、無線LANのセキュリティ対策はまだ旧来型の対策から抜け切れていない現状が見て取れたが、1年たってその傾向は変わったのだろうか。また、いわゆる「Wi-Fi 6」と呼ばれ、標準化の完了が待たれる802.11axだが、運用している無線LAN規格の動向はどう変わったのか。

» 2020年04月02日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 キーマンズネットは2020年3月9日〜27日にわたり「無線LANの利用状況に関する調査」を実施した。全回答者数102人のうち「情報システム部門で主に導入・検討や運用に関わる立場」が34.3%、「一般部門で主にユーザーとして利用する立場」が31.4%、「顧客に販売するベンダー・SIerとしての立場」が22.5%などと続く内訳であった。

 今回は無線LANの「導入目的」や「リプレースの有無」「導入済みの無線LAN規格」「セキュリティ対策状況」など、企業における無線LANの導入状況に関する質問を展開。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるため、事前にご了承いただきたい。

導入済みは7.4ポイント増、対して“導入しない”企業の事情とは

 いわゆる「Wi-Fi 6」と呼ばれる無線LANの最新通信規格「802.11ax」。2.4GHz帯と5GHz帯の2つの帯域をカバーし、電波の長距離伝送が可能なことが主な特長だ。すでに2018年末から802.11ax対応製品が徐々に出始めている。第5世代移動通信システム「5G」とともに、無線LAN市場にも企業の期待は集まる。

 今回のアンケート調査では2019年に実施した同調査の結果と比較して、この1年で企業における無線LANの導入状況や採用する無線LAN規格、セキュリティ対策などがどう変化したかを見ていく。

 まず、無線LANの導入率の変化を探るため、勤め先では無線LANを導入しているかどうかを尋ねたところ、「既に導入済みである」と回答したのが93.1%と100%に迫る勢いだ。「導入しておらず、今後も導入の予定はない」と回答した割合はわずか6.9%だった(図1)。

 2019年3月に行った調査と比較すると、導入済みが85.7%から7.4ポイント増加し、「現在は利用していないが、導入を検討中」の割合が5.2%から0.0%と5.2ポイント減少した。2019年に無線LANの導入を検討していた層がここ1年間で導入を完了したと考えられる。

図1 導入状況

 一方、全体の1割以下とわずかではあるが「導入しておらず、今後も導入の予定はない」とした層が考える「導入しない理由」は、「セキュリティに不安がある」「可用性・安定性に不安がある」「導入・運用コストがかかる」「費用対効果が明確でない」の4つに回答が集中した。「今後も導入の予定はない」と回答した層は、使える予算が限られがちな従業員数100人規模の中小企業が中心で、コストや費用対効果が未導入の理由に入るのはそのためと考えられる。

2020年注目の「Wi-Fi 6」導入率は? 802.11g利用者は全体の約2割も

 次に、採用する無線LAN規格の変動を探るために、「無線LANを導入している」と回答した層を対象に現在採用している無線LAN規格を聞いた。

 その結果、「IEEE 802.11ac」34.7%、「IEEE 802.11g」17.9%、「IEEE 802.11n」13.7%、「IEEE 802.11ax」12.6%、「IEEE 802.11a」5.3%と続いた(図2)。2019年3月に実施した調査結果と比較したところ、「IEEE 802.11ac」が29.4%から5.3ポイント、「IEEE 802.11ax」が8.8%から3.8ポイント増加した。特に2020年6月に標準化が完了予定の「802.11ax」が2019年より対応機器が市場に展開されていたこともあってかシェアを伸ばしている。

図2 導入済みの無線LAN規格

 また無線LAN規格について、直近3年の動向を見るために2018年から2020年までのアンケート調査結果を基に、採用する無線LAN規格の動向をまとめた(図3)。

図3 アンケート調査を基に作成した2018年から2020年までの無線LAN規格の推移(上位5位の推移)

 2000年前後に制定された「802.11b」は2018年を最後にトップ5から外れ、1位は「802.11g」から「802.11ac」にとって代わった。だが、2003年頃に制定された「802.11g」はまだ根強くトップ5に残っている。

セキュリティ対策が“危険水域”な企業の割合は?

 次に運用中の無線LANのセキュリティ対策状況を調査した。2019年は旧来型のセキュリティ対策が依然として多くを占めたが、今回の調査ではどう変化したのか。調査を基に“危険水域”な企業の割合を見ていく。

 勤務先で運用する無線LANのセキュリティ対策を選択式で尋ねたところ、「IEEE 802.1X認証+WPA2(AES)」36.8%、「MACアドレス・フィルタリング+WEP」31.6%、「SSIDのステルス化」21.1%、「PSK+WPA2(AES)」10.5%、「WPA2(AES)のみ」8.4%と続いた(図4)。

図4 運用している無線LANのセキュリティ対策

 新しい無線LAN規格への移行傾向とは裏腹に、セキュリティ対策を見ると「MACアドレスフィルタリング+WEP」や「SSIDのステルス化」など旧型の対策から更新されていない状態が52.7%と“危険水域”にある企業が少なくない。

 無線LANの脆弱(ぜいじゃく)性をついた不正アクセスで顧客情報や機密情報が流出する事故は今でも後を絶たず、「うちの会社に限っては大丈夫だろう」とたかをくくることなく、日々変化する脅威から組織を守るためのセキュリティ対策を講じることが重要だ。

テレワークへの投資が集中する中、無線LANへのリプレース意欲は?

 導入率に関連して導入目的も聞いた。無線LANを導入する主な目的として最も票を集めたのは、「会議室や打ち合わせスペースでノートPCを持ち込むため」で64.2%だった。次いで「柔軟なオフィスレイアウト(フリーアドレスなど)を実現するため」が56.8%、「配線の煩雑さを解消するため」が54.7%、「社内でタブレットやスマートフォンを活用するため」44.2%と続いた(図5)。

 2019年の結果から見る変化として、「配線の煩雑さを解消するため」が2019年では次点であったが今回の調査では「柔軟なオフィスレイアウト(フリーアドレスなど)を実現するため」がそれを抜いた。

図5 導入目的

 次に、現在利用している無線LANを今後リプレースする予定があるかどうかを尋ねたところ、「リプレースする予定がある」と回答した割合は1割にも満たず5.3%、「リプレースを検討中」が14.7%、合わせると20.0%がリプレースを予定、検討している(図6)。

 リプレースする理由は、「通信速度を改善するため」78.9%、「運用をさらに効率化したいため」47.4%、「リースの切り替え時期もしくは償却期間が終わるため」36.8%がトップ3を占めた。

図6 現在運用する無線LANのリプレース有無

 無線LANを導入する企業の2割がリプレースを検討する結果となったが、昨今の情勢を鑑みると、この割合は大きく変動する可能性もある。世界的な問題である新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防を機に本格的にテレワークに舵を切る動きがみられるが、テレワークでも業務の継続が可能だということが分かればオフィス環境への投資よりもテレワーク環境の整備が優先されることも十分に考えられる。今後の無線LANへの投資動向が気になるところだ。

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