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いよいよ始動する5Gサービス、企業における活用意欲調査

いよいよ日本でも商用5Gサービスが開始される。ソフトバンクやNTTドコモ、KDDI、楽天モバイルが5Gサービスの提供を発表している。いったい、5Gに対する期待値はどれほどなのか。対応デバイスの動向とともに、市場の展望について概観する。

» 2020年03月25日 08時00分 公開
[菅原 啓IDC Japan]

アナリストプロフィール

菅原 啓(Akira Sugawara):IDC Japan PC、携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリスト

IDC Japanにて携帯電話とAR/VR、ウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど)を担当。同社入社以前も含め、15年以上に渡りIT市場、特にコンシューマー向けデジタル製品市場の分析やコンサルティングを行っている。


■目次

  • 5G対応の端末から見た企業の採用意欲
  • “様子見”よりも“前のめり”企業の5G採用時期
  • 5Gはなぜ人気なのか
  • 導入への懸念点はコストが大きな割合に
  • 5Gスマートフォンの出荷予測

5G対応の端末から見た企業の採用意欲

 いよいよ5Gが本格的に始動する2020年を迎えた。ソフトバンクやNTTドコモ、KDDIなど大手通信キャリアから5Gに関する新サービスの発表もされている。5G本格導入を目前に、国内企業では5Gにどんな期待を持っているのだろうか。今回は、国内企業の5G対応端末の採用意欲とともに、今後の展望について調査した。調査期間は2019年10月25日〜11月5日となっており、国内企業で携帯電話やノートPCなどの製品選定に関与している方を中心に調査を実施している。なお、現在大きな懸念となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は反映されていない。5Gはテレワークのネットワーク基盤としても注目されているため、その採用意欲は2020年3月現在、より高くなっている可能性もある。

 まず、企業における5Gの採用意向を聞いたところ、既に利用・採用している企業も含めて利用意欲があると答えたのは53.0%で、多様な場面で利用が進むAIの54.2%とほぼ同水準となった。一方、2019年秋ごろからアクセスポイント(以下、AP)にチップが搭載され、PCやタブレットにも導入が進むWi-Fi6は46.1%にとどまった。このような状況から、5Gへの関心の高さが浮き彫りとなった。Wi-Fi6については、今後無線LAN環境を刷新する際には意図せずとも対応済みのAPが導入されることになるため、意図的に採用するというよりも次世代ネットワーク基盤として当然敷設されると考えている方も少なくないと考えられる。

 5Gを利用する端末に関しては、スマートフォン/携帯電話(64.6%)を筆頭に、ノートPC(61.2%)やタブレット端末(49.4%)などの比率が高い状況にある。また、AR/ARヘッドセットなどと比べてIoTなどの制御機器の比率が高いことから、通信キャリアに依存せずに5Gが持つ低遅延や多接続といった特長が生かせる「ローカル5G」によるIoT活用に期待を寄せている方も少なくないようだ。AR/ARヘッドセットでのビジネス活用はまだ十分に進んでいるとは言い難く、ユースケースの不足が採用意欲の数字に表れている。

“様子見”よりも“前のめり”企業の5G採用時期

 日本における5Gサービスの開始時期は、NTTドコモが2020年3月25日よりサービスをスタートさせ、KDDIは3月26日より、ソフトバンクは2020年3月27日より開始すると発表している。後発となる楽天モバイルも2020年6月からのサービスインを進めている。現時点では各社とも利用可能なエリアが限定的で、すぐに5Gサービスの恩恵を受ける企業は少ないだろう。

 実際には、いつごろからサービス利用を検討しているのだろうか。調査では、スマートフォンについては2020年中に導入したいとする回答が27.9%と最も高く、次いでサービス開始後すぐに導入したいと回答した人が26.8%となっている。ノートPCやタブレット端末についても同様の傾向にあり、全社導入ではないものの、早い段階で5G対応端末を購入して使い勝手を試したいという回答も見受けられた。様子見よりも比較的“前のめり”に5Gのビジネス活用を考えているようだ。

 調査における自由回答を、具体的に使いたい業務が明確になっているかどうかで導入時期に差があるようだ。中でも、働き方改革などの仕組みづくりの一環として活用したいという声が多く寄せられていた。現状のリモートワークは、自宅やサテライトオフィスなどが中心だが、5Gでは従来と異なる場所の選択肢も出てくるだろう。また、CADのようなワークステーションクラスのスペックが求められる業務では、端末が設置されている場所でないと難しいケースもあったが、GPU仮想化を実現したvGPU(Virtual GPU)を活用することで、シンクライアント環境でもCADが柔軟に活用できるようになってきている。5GとvGPUの組み合わせはリモートワーク促進にさらなる効果を発揮するだろう。

いったいなぜ? 5Gを導入したい理由

 5Gは、なぜここまで導入に“前のめり”なユーザーが多いのだろうか。導入を考えている理由を見ていきたい。

 5Gを導入したい理由について伺ったところ、大容量データがやりとりしやすい「超高速」という特長に期待を寄せる回答が多かった。クラウドサービス利用で数GB単位のやりとりが発生するケースが増加し、現在主流の4Gでも転送に時間がかかってしまっていたためと予測できる。

 5Gを利用すれば、数GBのデータもわずか数秒でやりとりが可能になる。多くの人が大容量データの迅速なやりとりにメリットを感じているということだ。特に5Gは動画サービスとの相性が良い。高精細な4K/8K動画をリアルタイムにやりとりでき、遠隔で作業を支援する際には大きなアドバンテージとなる。業界別では、屋外でデータ通信を行うことが多い建築土木関連業で超高速への期待が高かった。

 一方、5Gの特長である「超低遅延」については、スマートフォンに期待する声はそれほど多くはなかった。超低遅延は、5Gを訴求する際の大きなキーワードだ。全体的に見てみると数字そのものは埋もれてしまいがちだが、医療や建築業界など、瞬時の判断が求められるミッションクリティカルな用途でその特長が生かされる。5G対応のAR/VR端末を導入したいという回答については、超低遅延に期待する声がほかの端末よりも多かった。なかでもARは現実の風景にオーバーレイする技術のため、低遅延であるメリットは大きいはずだ。

 なお、5Gは超高速と超低遅延に加え、「多数同時接続」も大きな特長だ。多数同時接続は、通信キャリアやローカル5G環境を提供するインテグレーターなど事業者が享受するメリットと考えているため、一般ユーザー向けの今回の調査では選択肢に加えていない。

導入への懸念点はコストが大きな割合に

 さらに、5Gサービスに対する懸念点についても調査した。回答が多かったのは、月額料金などコストにまつわる懸念点だ。包括的な法人契約の場合はその限りではないが、コンシューマー向けであれば、例えばソフトバンクはプラス1000円ほどで5Gサービスが利用できる。新たなサービスや技術が登場したとき、必ずコストについて懸念の声が挙がるが、5Gサービスについてもそれは例外ではない。

 また、利用可能なエリアが現時点では限定的であることから、安定性について懸念する声も多く寄せられている。自由回答を見る限り、安定性をカバーエリアとひも付けて考えている回答者が多い。28GHz帯という高い周波数帯のミリ波帯も使用する5Gの場合、壁や設置物による遮蔽(しゃへい)や干渉で通信品質が低下してしまう。そのため、屋内での活用条件が厳しいことも懸念につながっているポイントだろう。

 エリアのカバレッジという意味では、端末によって安定性の重要度に差があるようだ。具体的には、スマートウォッチなどのウェアラブル端末からバイタルデータを取得し活用するような用途では、データが安定して取得できる環境が必要不可欠だ。勝手に4Gに切り替わってしまったり、通信が途絶してしまったりすることは避けたいだろう。

 なお、5Gを不要とした回答を見ると、費用やカバーエリア面の懸念だけでなく、4Gで過不足なく利用できているという声もあった。5Gだからこそ生かせる用途やユースケースの開拓と訴求も必要になってくる。

5Gスマートフォンの出荷予測

 ここまで5Gの採用意欲について見てきたが、最後に5Gスマートフォンの出荷予測についても見ておきたい。IDC Japanでは、5G対応のスマートフォンは2020年には340万台ほどが出荷されると予測しており、2024年には52.1%までシェアが広がるとみている。確かに新型コロナウイルスの影響で、Q1〜2は深刻な状況ではあるものの、2020年後半には5G対応のiPhoneなど数多くの機種が出荷されると予測されるため、2020年通年では300万台を突破するとみている。

 ただし海外と比べると、日本における5Gのシェアは比較的高くならないとみている。日本では、フューチャーフォンの使用感と見た目を維持したままスマートフォン並みのOS性能を搭載した「ガラホ(ガラスマ)」が堅調な売れ行きを保っている。エルダー層だけでなく、法人でも底堅い人気を誇っており、米国や中国、韓国などと比べて5Gのシェアはそこまで大きくはならないと予測する。

 ちなみに韓国では、2019年4月より5Gサービスが暫定的に始まり、各通信キャリアの争奪戦が激しさを増した。そのため、既に出荷台数に占める5G対応端末のシェアが25%に達している。中国でも2019年末からHUAWEIやXiaomiをはじめとするメーカー各社が、安価な5Gスマートフォンを数多く出荷している。仮に新型コロナウイルスの影響が続くとしても、かなりの伸び率が期待されている。隣国の5G普及のスピードに比べても日本が後れを取ってくる可能性は否定できない。

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