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費用をかけてもムダ金に? 手段が目的化した日本企業の採用活動

自社の存在価値を高め利益につなげるには、いかに多くの“ファン”を獲得できるかが要だ。ファンは何も顧客だけとは限らない。採用応募者や求職者もファンとなり得る存在だ。そうした層を取り込むには今の採用活動をどうあらためるべきか。

» 2020年02月28日 08時00分 公開
[太田 努サイト・パブリス]

 本連載第1回では、企業価値を高める考え方の一つとして「自社のファンを増やすこと」の重要性について触れました。ファンを増やし、自社に対するエンゲージメントを高めることで、「選ばれる企業」となり自社の価値を高めることが重要だという考え方です。そのためには、顧客や株主、パートナー企業だけを見ていてはダメで、これから仲間になる採用応募者や求職者などもファンとして取り込むことが重要となってきます。

 第1回の記事でも触れたように、今は採用難の時代です。人材の定着率も低下傾向にある中、どうすれば求職者の目を自社に向けさせることができるのでしょうか。そのためには採用戦略だけでなく、マーケティング視点で採用市場を捉えることが重要となります。

 企業は自社の商品やサービスを顧客に訴求する際、社会のニーズを捉えて他社との差別化となるポイントを作り、顧客との接点を探ります。こうしたマーケティングの方法論は求職者を取り込む上でも重要です。「求職者=顧客」という考え方のもと、「選ばれる企業」になるにはどうすれば良いのでしょうか。第2回ではそのポイントを解説します。

著者紹介:太田 努(デジタルフォルン 取締役COO)

大手人材総合サービス企業在籍時にアウトソーシング事業を中核とする社内ベンチャーを立ち上げ、上場。主に営業やサービス企画、グループ企業経営などに従事。その後生活産業系企業に移り、BtoCの店舗運営事業の立ち上げに携わる。事業責任者として店舗オペレーションやサービス企画、マーケティングなどを統括。現在はデジタルフォルンのCOOとして事業運営全般を担当しながらグループ会社であるサイト・パブリスの執行役員を兼務。デジタルマーケティング領域の拡大に向けた取り組みを行う。


選ばれる存在になるために絶対的に足りない視点とは

 この採用難の時代において、採用媒体への出稿や就職フェアなどのイベントへの参加といった採用活動に多くのコストを割いている企業が多く見られます。しかし、手段が目的化している傾向が見られます。その代表格として「採用サイトのリニューアル」や「採用動画」などがあります。これらは求職者へのアプローチとして有効な手段の一つでもありますが、「サイトをリニューアルして見せ方を変えているだけ」「動画を作成して見栄えをよくしているだけ」など、それ自体が目的化している実態が見て取れます。

 活動の効果を検証して求職者との接点作りを改善することもなく、リリース後は放置されているケースも珍しくありません。決して安くはない費用をかけたにもかかわらず、それらを有効に活用できていないのが現実です。

多くの企業が優秀な人材を獲得するためにしのぎを削る中、意義のある採用活動の在り方が問われていると感じます。

採用活動の生命線は「マーケティング視点の戦略への転換」

 SNSの普及などによって採用の告知手段が多様化する一方で企業の採用サイトが意味するものが変わりつつあります。

 キャリタスリサーチが実施した調査結果「2019年卒採用ホームページ好感度ランキング」によると、企業の採用サイトを企業研究に活用していると回答した割合が6割を占めました。この採用サイトを単に自社をアピールするだけのサイトとして捉えているのか、求職者のニーズを満たすものとして捉えているのかによって採用サイトの意味は大きく変わってきます。

 採用サイトを制作する際に、求職者に発信したい情報や自社の魅力など企業の思いを中心に制作した場合、企業サイドの一方的な情報発信サイトにしかなりません。多くの求職者が採用サイトを訪れるので、これでは求職者の求める採用サイトにはなりません。採用サイトを制作する場合は、マーケティング視点で考えるべきなのです。

 採用サイトを分析ツールとして活用すれば求職者の興味関心を知ることができ、訪問者に応じて興味関心の高い情報をポップアップ機能などで誘導することもできます。また採用サイトにMA(マーケティングオートメーション)ツールを利用すれば、興味関心度合いによって求職者をグルーピングでき、セグメントされたターゲットごとにイベント情報などを発信できます。こうした仕組みによって、訪問者の興味や関心を高められるのです。これらは、マーケティング活動、とりわけECサイトでは当たり前に用いられている手段ですが、採用活動にも使える手段です。

“道に迷う”企業の採用活動、リッチな動画は本当に必要?

 最近は、採用活動に利用されるツールやイベントの形式も変化を見せています。「ダイレクトリクルーティングツール」により、求職者へのダイレクトアプローチや双方向のやりとりが可能になりました。今までのように求人媒体に情報を載せてただ応募を待つのではなく、企業が求職者と積極的にコミュニケーションを取れるようになりました。ただ、スカウトメールなどでアプローチしても、打ち方によってレスポンスが異なるため、そうした点は工夫が必要です。また採用イベントもプレゼン形式で行われるものが目立つようになり、これからは採用サイトで情報を発信する以外の訴求力も問われるようになるでしょう。

 また、採用動画を制作する企業も増えてきました。制作には相応の費用が必要になりますが、果たしてどれほどの求職者にそのメッセージが届いているでしょうか。採用動画は2分〜5分程度のものが多いようですが、まず5分も見てもらえることはないでしょう。「YouTube」に代表される動画世代にとって1分を超える動画は長く感じ、よほどのクオリティでない限りは見てもらえないと考えた方が良いでしょう。

 また採用サイトに登場する社員が退職した場合、せっかく動画を制作してもその行き場を失います。コストと労力をかけて制作した割に閲覧率すら把握しておらず、持て余してしまうケースもあります。

 採用動画は作ることがゴールではなく、採用活動における動画の位置付けを再定義した上で活用方法を模索することが重要なのです。最近は、ツールの進化により採用担当者が自前で動画を作成できるようになりました。今後、採用動画も外注するのではなく自組織で制作し運用するスタイルに変わっていくのではないでしょうか。

 お勤め先の採用活動の現状を分析する指標として、以下の診断項目をご参照ください。皆さんのお勤め先ではいくつ当てはまりますか?

採用サイトの運用レベルから診断する「マーケティング視点の採用活動レベル4項目」

  • 採用サイトの情報は自組織で更新している(外注任せにしていない)
  • 定期的に分析ツールを使用して採用サイトを分析している
  • MAツールなどを活用して採用サイトの来訪者へ継続的なアプローチを行っている
  • 採用動画を制作しているが、1分以下のコンテンツ構成になっている

 第1回の記事でも伝えましたが、今や通年採用の時代に移りつつあります。今までのようにある一定期間だけ考えればよいものではありません。常に求職者に対して情報を発信し、コミュニケーションを取り、MAツールなどによる継続的な分析が重要です。採用サイトも外注任せではなく自組織で運用していくことが重要になり、PDCAに基づいたマーケティング視点の生きた採用活動に変えなければなりません。

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