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» 2019年11月13日 08時00分 公開

自動交渉AIとは? 利害をAIが調整する時代がやってくる

「あちらを立てればこちらが立たぬ」というジレンマは仕事でも生活でもよくあることだ。お互いが自分の目的に最適だと思う行動計画が相反するとき、どう折り合いをつければよいのか。そんな古くからの悩みを解決し、みんなが得する最適行動へと導いてくれる「自動交渉AI」が実現しそうだ。

[土肥正弘,ドキュメント工房]

目次


「自動交渉AI」とは――全体最適を図るスマートシステム実現の鍵

 AIによる自動判断や自動制御技術は特定領域で実用レベルに達し、今後は「スマートシステム」と呼ばれるAI利用システムが続々と社会実装されていくに違いない。世の中がますます便利になる未来が想像できるが、課題がないわけではない。実際に懸念されているのが、スマートシステム同士における挙動のバッティングだ。

 スマートシステムの一例として自動運転車がある。自動運転車が高速道路の合流ポイントの近くを走っているとき、センサーが合流しようとしている別の車を発見したとしよう。合流車が減速して後ろに入ろうとするのか、スピードを上げて前に入ろうとするのかが分からない場合に、安全のためにブレーキをかけて減速するのが一般的には正しい制御になる。しかし合流しようとする側の自動運転車も同じように減速すると、結果としてスムーズな合流ができない。

 この時、もし車同士がお互いの速度や加速状態を共有し、「こちらは最小限の加速をするから、そちらが最小限の減速をしてくれれば、お互いにエネルギーや時間を無駄にせずに安全に合流できる」ともちかけ、相手側の車が同意すれば、双方が適切な加速減速制御を行い、エネルギーや時間のロスをトータルで最小限にしてスムーズな合流ができるはずだ。

自動運転車の相互の挙動調整による「譲り合い」で合流がスムーズに 図1 自動運転車の相互の挙動調整による「譲り合い」で合流がスムーズに(出典:NEC)

 このように、複数のスマートシステムの挙動が相互に関連し、時に依存しあう場面は、交通だけでなく、水道、電気、ガス、通信などさまざまなインフラ領域、あるいは複数企業の受発注・生産・物流をはじめとするビジネス領域でも急速に増えるだろう。

 そこで、スマートシステムに搭載されたAIが相互に連携し、目的に沿って、時間やエネルギーなどのリソースを有効に活用しつつ、コストを抑えながら全体の利益を最大化するような最適解を「自動交渉」によって導き、自動制御や人間の意思決定に結び付ける技術開発が注目されている。それが「自動交渉AI」だ。

スマート化した社会インフラをAIが静かにコントロールする

 NECデータサイエンス研究所の森永 聡氏は、「高度な自動制御が実現すれば、従来は必要以上にとっていた安全マージンを最小にできる」と説明し、同社のAIを応用した自動制御の事例として水道施設のスマート化を挙げた。

 「需要に合わせて水質劣化のない水を供給するには、地域や時間帯、季節別の需要動向をはじめ、気象やイベント、水道網の老朽化状態を加味した供給力の現状など、多要素にわたるビッグデータを分析したうえで、取水から浄化、配水、給水までの一連の水供給プロセスを適切に制御する必要がある。また都市部などの水需要の増加や、施設・水道網保守費の増加に対応しつつ水道料金を維持するには、電力コストを最小にする工夫もいる」(森永氏)

 こうした多要素を勘案して水道施設や機器の運転計画を立てる役割は、従来は熟練技術者に任されていた。しかし将来の人材不足が心配されることから、NECデータサイエンス研究所は熟練技術者による予測と制御のノウハウを、各種ソースからの異種混合学習を通してAIに取り込んだ。

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