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「クラウドRPA」とは? オンプレミス型との違い、3つのタイプを整理

「RPAのコストが高すぎる」「RPAの対象業務が少ないない」「開発や運用を担える人材がいない」――課題の解決を目指した「クラウドRPA」がブームとなりつつある。クラウドRPAの利用形態と、それぞれのメリット・デメリットを整理した。

» 2019年11月05日 10時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

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中堅・中小企業にとってはハードルが高いRPA

 業務の生産性向上や人手不足解消の切り札として期待を集める「RPA(Robotic Process Automation)」。2016年ころから一部の金融機関での利用が注目を集め、2017年から2018年にかけて業界を問わず認知度が高まり、大企業を中心に導入が進む。

 一方、人手不足の問題がより深刻な中堅・中小企業は、こうした動きに取り残されている。要因の1つは、RPA導入に伴うコスト負担にある。「簡単に導入できる」「開発いらず」を謳い、比較的規模の小さい企業でも使いやすいことを売り文句にするRPA製品でも、初期導入費用は100万円前後かかることが通常だ。中小企業にとっては決して少ない金額ではない。

 もう1つの理由として、「人材不足」も挙げられる。中堅・中小企業においては、RPAの開発や運用を担えるスキルを持った人材の確保・育成が極めて困難だ。

 今、こうした課題の解決を目指した新たな形のRPAとして、「クラウドRPA」というワードが注目を集めている。実際に多くの事業者が「クラウドRPA」と名の付くサービスを提供しはじめているが、その提供形態はさまざまだ。本稿は、クラウドRPAにどのようなタイプが存在し、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかを整理した。中には年間の利用料金が1万円程度で済み、さらに開発レスで利用できるものなども存在する。果たしてクラウドRPAは中堅・中小企業を救う切り札となり得るのだろうか。

「クラウドRPA」とは

 「クラウドRPA」の最大の特徴はRPAを月額課金(および従量課金)のサブスクリプションモデルで提供する点にある。

 中堅・中小企業にとって既存のRPAは、高額な初期導入コストの他、導入後の運用コストの面でもハードルが高い。そもそも中堅・中小企業では、大企業と比べてRPA化の対象となる大量の定型業務がそれほど多くなく、なかなかロボットの稼働率が上がらないため、RPAの投資対効果を得ることが難しい。

 そういった課題に対し、クラウドRPAは、RPAのソフトウェアをオンプレミスのパッケージ製品として一括購入するのではなく、月額課金のサブスクリプションモデルとして利用できるため、初期導入コストを大幅に抑えられる。場合によっては、RPAを使った分だけ料金を支払う従量課金モデルを組み合わせられ、ロボットの稼働率が低くても高いコストパフォーマンスを期待できる。

 さらに「人材不足」へのアプローチとして、クラウドRPAの多くは、ロボットが動作する環境の構築・運用や、RPAシナリオの開発・管理などの作業の一部、または全てをユーザーに代わって実施するサービスを提供する。うまく活用すれば、コストや人材の壁に阻まれてなかなかRPAを導入できなかった中堅・中小企業でも、RPA活用への道が開けるとの期待が集まっている。

 徐々に流行のワードとなりつつある「クラウドRPA」だが、これを標ぼうするソリューションは、「SaaS型」「プライベートクラウド型」「シナリオ共有型」の3タイプに大別できる。それぞれ、どのようなメリットとデメリットがあるのだろうか。

SaaS型のクラウドRPA

 「クラウドRPA」と聞いたときに、多くの方が真っ先にイメージするのがこのタイプだろう。クラウド環境でRPAが動作し、ユーザーはクラウドにログインしてロボットの開発や制御を行う。最大のメリットは、RPAを動作させるためのPCを用意したり、RPAのソフトウェアをインストール・セットアップしたりするといった、RPA導入のための作業が不要な点だ。

 初期コストを抑えられるとともに、短期間の内にRPAの仕組みを立ち上げられる。機能やユーザー インタフェースも、一般的なオンプレミス型のRPAよりシンプルで、ITの専門家でなくとも簡単に使いこなせるよう工夫が凝らされているものが多い。

 利用形態は、一般的なSaaSと同じく月額料金を支払うサブスクリプションモデルを採用する。ただし契約は年単位のケースが多く、月額料金とは別に初期導入費用が掛かることもあるため、導入を検討する際には注意しておきたい。

 低コストで手軽に始められるのがSaaS型の特徴だが、一方でデメリットもある。例えば、このタイプのRPAは、Webブラウザ内での作業の自動化に特化していることがほとんどだ。「さまざまなWebサイトをクローリングして情報を集める」「交通費精算のために路線検索サイトの情報を集める」といったような、Webサイトから情報を集めてきて何らかの処理を行うような業務の自動化には適しているが、「Microsoft Office」や独自開発のアプリケーションなどを使った業務の自動化には向かない。従って、SaaS型のクラウドRPAの導入を検討する際には、自動化できる業務とできない業務の見極めが重要になってくる。

 SaaS型RPAの代表的な製品としては「BizteX cobit」「Robotic Crowd」「keywalker」などの国産製品があり、使いやすさやカスタマイズ性、スケーラビリティなどを競い合っている。

プライベートクラウド型のクラウドRPA

 前項で紹介したSaaS型はRPAをパブリッククラウドサービスとして提供するものだが、ユーザー企業が占有できるプライベートクラウド環境をベンダーが用意し、その上にRPAの環境を構築してユーザーに提供するというソリューションも存在する。RPAテクノロジーズが提供する「BizRobo! DX Cloud」や、アビームコンサルティングが提供する「ABeam Digital Labor Cloud」などがこのタイプだ。

 RPA製品自体は、オンプレミス環境で利用されるサーバ型RPA製品と同じだ。これを、ユーザー企業が保有するサーバ環境ではなく、ベンダーが運営するサーバ環境に導入し、ユーザー企業の環境との間をセキュアなネットワークで接続することで、プライベートクラウド型のRPA環境を構築する。システム構成はオンプレミスのサーバ型RPAとほぼ同様で、使える機能も基本的には変わらない。

 オンプレミスのサーバ型RPAとの最大の違いは、月額課金や従量課金のサブスクリプションモデルとして利用できる点にある。また、サーバ環境をはじめとしたインフラの構築・運用もベンダーに丸ごとアウトソースでき、そのコストや工数の負荷も少ない。サービスによっては、単にRPAを動かす環境を提供するだけでなく、ユーザーがよりRPAを有効活用できるよう、マニュアルやトレーニングサービスなどを併せて提供している点も魅力だ。

 一方で、自社専用のプライベートクラウド環境を用意する分、SaaS型のサービスよりは導入に時間とコストがかかる。さらに、長期間に渡って利用する場合には、オンプレミス型のRPAよりコストが高くなることも注意しなければならない。導入検討に当たってはあらかじめ投資対効果をきちんと試算しておくべきだろう。

シナリオ共有型のクラウドRPA

 近年新たに登場したのが、「シナリオ共有型」のクラウドRPAだ。RPAのロボットはこれまで通り、ユーザーのローカル環境にあるPCで動作するが、シナリオはクラウド環境から出来合いのものをダウンロードして利用する。ユーザーはシナリオの開発作業なしに、簡単にRPAを利用できる。

シナリオ共有型のクラウドRPA(出典:SBモバイルサービス)

 代表的なサービスが、2019年9月から新たにサービス提供が始まった「WinActor Cast on Call」だ。これは、国産のRPA製品として高いシェアを持つ「WinActor」をサブスクリプションモデルで利用できるようにしたもの。クラウド環境でさまざまな付加サービスも提供する。

 クラウド環境には、メールの送信や経費精算など、多くの企業でよく行われる業務の自動化シナリオが開発済みの状態で登録されており、ユーザーはそのシナリオをPCにダウンロードしてそのまま利用できる。また各PCで「いつ、どのシナリオが実行されたか」という利用状況や作業履歴のログを自動的に記録し、その内容をクラウド環境で確認できることも特徴だ。

 ちなみにPCで動作するロボット自体は、オンプレミス版のWinActorと同等の機能を持ち、その全てを利用できる。

 最大のメリットは、シナリオを自社で開発する必要がない点だ。シナリオ開発スキルを持つ人材の教育や開発リソースの確保が難しい中堅・中小企業でも、手軽にRPAを活用できるようになる。

 さらに、コストを比較的低く抑えられるメリットもある。WinActor Cast on Callの場合は、年間の利用料が1万円〜数万円程度で、数千円程度のシナリオ利用料が個別に加算される。オンプレミス版のWinActorが1ライセンス約90万円であることを考えると、大幅なコスト低減につながると分かる。特にRPAの利用頻度が低い企業にとっては「使った分だけ」という料金形態によって、無駄のない利用が可能だ。

 その半面、出来合いのシナリオをそのまま使うため、企業に固有の業務に最適化することが難しいともいえる。今後はその点を補うサービスも登場しそうだ。WinActor Cast on Callは現在、複数のベンダーから自社の独自サービスを付加した形で提供されているが、その1社であるSBモバイルサービスでは、ユーザーの業務に合わせて独自にシナリオをカスタマイズしたり、複数の既存シナリオを組み合わせてより広い範囲の業務自動化を実現したりするようなサービスを提供する予定だ。その他、「メール送信」や「見積書作成」といった、使用頻度の高いシナリオをボタン1つで実行させる装置も開発中だという。各シナリオに割り当てられたボタンを押せば、Cast on Callへのログインからシナリオの実行までを完了できるようになる。

ボタン1つでシナリオを実行できる装置のイメージ(出典:SBモバイルサービス)

 一口に「クラウドRPA」といっても、その提供形態やアーキテクチャはさまざまだ。自社にマッチする製品を使いこなせれば、これまで導入に踏み出せなかった中堅・中小企業でもRPAのメリットを享受し、人手不足や働き方改革の問題解決の糸口を見つけられるかもしれない。クラウドRPAの利用が1つのきっかけとなり、自動化の効果を上げるためのBPR(Business Process Re-engineering)といった取り組みや、より広範囲な業務プロセス自動化への挑戦につながる可能性もある。

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