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Wi-Fi6、5G……押さえておきたいネットワーク機器市場の潮流

スイッチやルーターなどネットワーク機器は成熟した市場の1つではあるものの、モバイル環境の広がりによって無線LANを中心に市場そのものは活発だ。5Gの動きも含めた、ネットワーク機器市場の今を見てみたい。

» 2019年11月01日 08時00分 公開
[草野賢一IDC Japan]

アナリストプロフィール

草野賢一(Kenichi Kusano):IDC Japan コミュニケーションズ グループマネージャー

国内ルーター、イーサネットスイッチ、無線LAN機器、ADC(アプリケーションデリバリーコントローラー)、SDN、NFVなど国内ネットワーク機器市場の調査を担当。ベンダー調査に加え、ユーザー調査やチャネル調査にも携わり、それらの調査結果をベースに、国内ネットワーク機器市場の動向を検証、市場動向の分析および予測を提供する他、さまざまなカスタム調査を実施している。IDC Japan入社前は、エンジニアとしてユーザー企業のネットワークの設計、構築を担当。商品企画にも携わる。


目次:Wi-Fi6、5G……押さえておきたいネットワーク機器市場の潮流


ネットワーク機器市場の動き

 スイッチやルーター、無線LAN機器を中心に、ネットワーク機器の動向を見てみたい。今回は、2019年7月に発表した「国内ネットワーク機器市場シェア」の調査をベースに紹介する。現在大きく市場をけん引しているのは、無線LAN関連のソリューションだ。

Wi-Fi6動向も視野に活発な動きを見せる無線LAN

 働き方改革に伴う柔軟なワークスタイルへの対応を背景に、デスクトップだけでなくノートPCを積極的に採用する企業が増えている。ノートPCの中には、既にRJ45の物理的なイーサネットインタフェースを持たないモデルも多く、ネットワーク接続は内蔵されたモジュールによる無線LAN接続を前提にしたデバイスが増えつつある。

 実際に家庭内ではスマートフォンを接続するために無線LAN環境を整備している方も多く、無線LANに対するアレルギーは以前に比べて格段に減っている。今では企業内で無線LAN環境を整備することに特別な理由はいらないだろう。

 社内のネットワークを刷新するタイミングや拠点の新設、移転のタイミングで、新たに無線LAN環境の整備に着手する企業は少なくない。今では、自治体や金融機関も一般的に無線LANを利用しており、従来のセキュリティに対する懸念も払拭(ふっしょく)されてきた。ペーパーレス化の促進やWeb会議ソリューションなどコミュニケーション環境の強化の一環として、無線LAN環境を整備したいというニーズも関係しているだろう。

 製品の視点で見ると、2020年に正式に策定される予定のIEEE 8 02.11ax、いわゆるWi-Fi6(Wi-Fi CERTIFIED 6)の規格に準拠した製品が数多く登場している。Wi-Fi6とは、理論値で最大約9.6Gbpsという高速通信に対応した規格。

 既に2018年ごろから市場にはWi-Fi6に準拠したアクセスポイント(以下、AP)が投入されており、今後発売されるものはWi-Fi6対応のものがほとんどだろう。現段階でIEEE802.11axは正式な規格となっておらず、ドラフトの状態だが、認証自体は既にWi-Fi Allianceによって開始されているのが現状だ。

 APだけではなく、既にデバイスのWi-Fi6対応も進められている。例えば、iPhoneシリーズも、iPhone11などの最新機種でWi-Fi6対応が行われている。ノートPCも多くのWi-Fi6対応モデルが登場した。利用者が多い環境でも各端末の通信速度が低下しにくい特徴を持つWi-Fi6だけに、特定の無線空間を多くのデバイスが行きかうような密集した環境などには、いち早く導入が進められていくだろう。

無線LANとの関係が問われるイーサネットスイッチ

 イーサネットスイッチは、サービス事業者やエンタープライズなどを中心としたデータセンターネットワークに利用される製品群と、企業内LANを中心としたキャンパスネットワークに利用される製品群の2つに大別できる。

 データセンター向けについては、クラウド事業者を中心に投資が進むが、クラウドシフトが進む現在でも、オンプレミスのシステム更改に合わせてネットワークの入れ替えが発生している。そうした意味で、市場は比較的堅調な成長を見せる。

 一方でキャンパスネットワーク向けのイーサネットスイッチは成熟度合いが高いので、一見して特別なことがない限り大きな伸びは期待できないように思えるが、実際は2017年実績と比べて伸びを示している。一体なぜなのか。

 要因の一つとして、無線LAN導入の際に有線LANの見直しが進むという流れが考えられる。企業LANのスイッチ周りを積極的に変更していくというモチベーションが低い状況の中、無線と有線を将来的に統合管理したいというニーズが少なからずあるようだ。

 また、有線部分が100Mbps対応のみでは有線部分にボトルネックが発生することを懸念して、無線LAN導入を契機に有線LANを見直すという動きも出始めている。経済状況がさほど悪くない今、予算的にも引き締める必要性がなく、無線LAN導入が有線LANの見直しが進んでいるのではないか。

 無線LANに関連した話題では、APに対して給電を行うPoEスイッチのポート当たりの電源容量が限界を迎えたために、新たなAPを導入するタイミングで、より給電能力の高いPoEスイッチに入れ替えるという動きも出ている。PoEの規格としては、1ポート当たり15.4ワットの給電が可能な「IEEE 802.3af」や1ポート当たり30ワットの給電が可能な「IEEE 802.3at」などが存在するが、次世代として「IEEE 802.3bt」と呼ばれるハイパワー版のPoE規格が注目を集めている。この規格は1ポート当たり90ワットの給電が可能で、新たなAPであっても十分対応できる。まだ大きなトレンドにはなっていないが、今後話題になるだろう。

2024年のISDN終了やSD-WANが関係するルーター

 ルーター市場は、今回調査した2018年度の実績を見ると、さほど大きな動きはない。確かにSD-WANソリューションが脅威になる可能性はあるものの、現状市場に大きく影響するような状況にはなく、比較的安定した市場を維持している。

 ルーター市場でのトピックといえば、2024年に終了が予定されているINSネットの「デジタル通信モード」への対応だろう。ルーターやTAがISDNインタフェースに対応している機器として挙げられるが、保守切れなどでこれらを入れ替える場合、ISDN対応のものを引き続き導入するかどうかがポイントだ。

 製品を提供するベンダーも、いつまでISDN対応のモデルを提供し続けるのかを議論しており、ISDNの代わりとなる新たなWAN回線を検討しなければいけない時期に差し掛かっているのは間違いない。ISDNの代わりに4Gをはじめとしたセルラーを企業WANの回線として利用するケースも出てきており、これから本格的な普及を迎える5Gの高速性に期待する向きもある。

 なお、ソフトウェアによって分散した拠点を集中的に管理可能なSD-WANに関するソリューションは、いわゆる拠点内にCPE(Customer Premises Equipment)を設置して制御する仕組みだ。

 さまざまな仮想ネットワーク機能をインストールした上で機能を自由に選択できるが、uCPE(ユニバーサルCPE)は、ルーター装置の一部として提供されるものもあれば、x86サーバが搭載されたLinuxによって実現しているものもあり、どのような形でSD-WANが構成されていくのか、画一的な方法が定まっているわけではない。ルーター市場にどう影響が出るのか、注視する必要がある。

中堅中小企業をターゲットにしたベンダー動向

 今回のレポートでは、企業向けネットワーク機器市場において、シスコシステムズが無線LANを原動力に半分近いシェアを占めるとともに、続くアライドテレシスとヤマハも、それぞれイーサネットスイッチとルーター市場という安定基盤を持ちつつ、無線LANを軸に成長を続けていることに触れている。

 多くのベンダーは、大企業向けから中堅中小企業向けにターゲットをシフトさせている。中堅・中小企業では、いまだ無線LANを導入していない企業も多く、ある意味ホワイトスペースなマーケットともとれる。中堅中小企業向けのソリューションがこれからも多く登場するだろう。

 海外ベンダーの動きとしては、Extreme NetworksがAerohive Networksを買収し、クラウド管理型のWi-Fiソリューションを組み込んだ。これを皮切りに、2015年にはFortinetがメルー・ネットワークスを、2018年にはArista NetworksがMojo Networksを、2019年にはJuniper NetworksがMist Systemsを買収するなど、データセンターネットワークに強みを持つベンダーが無線LAN専業機器ベンダーを吸収している。クラウド管理のWi-Fiも含めて、無線LANを軸にキャンパスネットワーク市場を見据えた動きと捉えられる。変動が激しい市場だけに、その動向にも注目したい。

 なお、日本では、データセンター事業者を中心にホワイトボックススイッチの導入が進んでいるが、その多くのケースはPoCの段階にあり、全面的な採用に至るかどうかはこれからの動向次第だ。

 気になる動きとしては、ホワイトボックススイッチなどで大きなシェアを持つEdgecore Networksを傘下に持つAccton Technology Corporationと、旧日立電線から2016年に独立したAPRESIA Systemsが代理店契約を2018年に結んだこと。EdgecoreのホワイトボックススイッチとAPRESIAがパートナーシップを組む複数のネットワークOSを組み合わせたソリューションが市場でどう展開されていくのか、今後の動きが期待される。

ネットワークの世界で大きな潮流となる5Gはどうか

 企業WANを含めたネットワーク市場に関する大きな話題の一つが、5Gの動向だろう。企業でも5Gへの関心は高まっており、特にWi-Fiと5Gの使い分けについて興味を持つ人は少なくない。

 確かに5Gを企業のWAN回線として活用できる可能性はあるものの、これまで同様、屋内はWi-Fiが、屋外は4Gや5Gなどのセルラーネットワークが担うことになるだろう。ただし、5Gをどう使うのかはこれから議論が進められる。今すぐ企業ネットワークに影響するような段階ではない。

 国内での5G通信サービス市場予測においては、2020年の商用サービス開始時点でエリア自体はそこまで拡大せず、2020年に開催される大型インベント後に事業者側が本格的な投資を始めると見込む。

 もちろん、一部事業者が当初の計画を前倒してサービス拡大に取り組む意欲を示しているが、市場が大きく成長するには至らないだろう。5Gサービス基盤に用いる5G RAN、5Gコアネットワーク、ルーター、イーサネットスイッチ、光伝送装置で構成される5Gネットワークインフラストラクチャ市場は、2023年の段階でも金額ベースで4000億円程度、モバイル通信サービス市場における5Gサービスの回線数は14%程度と予測している。

 ただし、企業におけるネットワーク設計の視点では、工場内や特定の範囲で利用が可能なローカル5GについてWi-Fiとのすみ分けを検討する余地はあるだろう。セキュリティをどう確保するのか、帯域の低遅延性や安定性などをどこまで制御できるのか、そしてもちろんコストはどの程度なのか、誰が運用管理を行うのかといった観点から、これまでとは違う視点で企業ネットワークの最適解を模索できる。

ネットワーク機器市場で求められる製品選びの視点

 市場自体は堅調に伸びているネットワーク機器市場だが、機器選びを考える上でどのような視点が必要だろうか。

 今回触れた無線LANやルーター、スイッチ関連でいえば、大前提としてアクセス周りは無線LANを中心に検討することになるだろう。その無線LANを生かしたネットワーク構成や有線との統合も含めた運用管理の在り方なども議題に挙がるはずだ。

 また、SaaSをはじめとしたクラウド利用が進むことから、インターネットに抜けるトラフィックが従来よりも増加し、ネットワーク全体のアーキテクチャを見直すことも視野に入れておきたい。

 特にSaaSの利用時に、レスポンスの課題が出た際は、アプリケーションそのものの問題なのか、無線LANなどのネットワークに問題が発生しているのか、あるいはプロキシをはじめとしたゲートウェイの処理に問題があるのかなど、これまでより見るべき範囲も広がる。

 ブラックボックスが増えれば課題の把握が困難になるので、できる限りネットワーク全体を可視化しながらユーザー体験を損なわないよう、UX(User eXperience)の視点からネットワーク全体を考えていくことが求められるだろう。

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