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ロボットが創出した“余裕”で顧客対応を磨く――成長企業・キャンディルグループを支えるRPA

» 2019年09月18日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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一般社団法人日本能率協会が2018年10月に発表した「2018 年度(第39 回)当面する企業経営課題に関する調査」の結果によると、全国主要企業の経営者が考える経営課題として、「人材の強化(採用・育成・多様性への対応)」は「収益性向上」に次ぐ2位に位置する(39.5%、複数回答)。また7位の「働きがい・従業員満足度・エンゲージメントの向上」(12.7%、同)は、直近3カ年で8.4ポイント増と、他項目にない伸長をみせている。

出典:「第39回 当面する企業経営課題に関する調査:日本企業の経営課題 2018」(2018 年 10 月、一般社団法人日本能率協会)

さらに、投資スタンスを尋ねた同調査の設問では、対象の7項目中「人材投資」「IT・ソフトウエア投資」を増やすとの回答が際だって多く、ともに7割を超えている(「かなり増やす」「増やす」「やや増やす」の合計)。

出典:「第39回 当面する企業経営課題に関する調査:日本企業の経営課題 2018」(2018 年 10 月、一般社団法人日本能率協会)

「高付加価値の業務に集中できるキャリアを提供して人材獲得競争に勝ち、優秀な働き手の定着を促したい」―。調査結果からは、そんな経営層の思いが透けて見える。なかでも、事業の拡大途上にある企業は、テクノロジーの力をうまく採り入れた実効性ある業務変革に「走りながら」取り組まなければならない。

建築業界のニーズをとらえた修繕事業などで業容を広げ、2018年7月に株式上場した「キャンディルグループ」は、PC上の煩雑な定型業務をソフトウエアで置き替えるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を2017年から本格導入。

慢性的な残業の解消に成功したほか、総労働時間の伸びを売上の伸び以下に留める生産性向上も実現している。目覚ましい成果の背景に何があったのか、担当者に取材した。

■記事内目次

1. 懸案だった事務の改善を企業体質強化の一環に位置づけ

2. 「正しく円滑な情報共有」への意識をロボットで具現化。年3万時間のリソースを創出

3. 企業経営の“攻守両面”にロボットが貢献する


懸案だった事務の改善を企業体質強化の一環に位置づけ

純粋持株会社「株式会社キャンディル」(東京都新宿区)のもと事業会社3社を擁するキャンディルグループは、「建物のライフサイクルサポート企業」を掲げ、修繕・改修・維持・管理に関連したサービスを展開。同業とのM&Aも重ね、現在のグループ従業員はおよそ1,400人。持株会社制への移行から7年で東証マザーズ上場を果たした成長企業だ。

全国56拠点で多様なサービスを提供する同グループが、1,000人超の自社技術者の手で行う施工は、月間およそ2万7,000カ所にのぼる。問い合わせ対応や技術者の手配、施工前後の報告といった事務作業が連日大量に生じることから、これまではそれらに対応した独自の基幹システムを構築して処理の効率化を図ってきた。

ただ一方で、「基幹システムから参照したデータをもとにメールで通知する」といった、システム化から派生して生じる定型業務に関しては、煩雑な手作業も少なからず残されてきたという。

「こうした作業を放置していると、企業成長に比例して負担は増す一方となります。そこで、株式上場を控えて企業体質のさらなる強化が必要となった3年前(2016年)、細かな手作業を減らす業務改革を『販管費抑制の一環』に位置づけ、集中的に取り組むこととなりました」。管理部門担当である同社取締役の藤原泉氏は、そう説明する。

ここで業務効率化の具体策として同社が着目したのが、当時金融業界での導入事例が注目されていたRPAツール「BizRobo!」だった。

株式会社キャンディル 管理部門担当 取締役 藤原 泉氏

「正しく円滑な情報共有」への意識をロボットで具現化。年3万時間のリソースを創出

テスト運用から数えて4年目に入った現在、キャンディルグループでは約90業務にBizRobo!を導入。一連の業務に複数のロボットを用いる例もあり、稼働中のロボットは合計でおよそ120体に達している。

目下、本業と兼務の2人体制で進めているロボットの開発運用を初期から担ってきた大坪夏樹氏(情報システム部システム課)は、社内の反応の変遷を次のように振り返る。

「私は過去にRPAとよく似た自動化ツールを使ったことがあり、当社に多いWebを経由した作業が得意なBizRobo!の可能性を早くから感じていました。ただ、テスト開始当時に知られていた国内の成功事例が従業員数万人規模の大手金融のものだったため、業種も企業規模も異なる当社グループに有効かどうかには慎重な見方もありました」

だが、テスト開始の3カ月後に社内の雰囲気が変わったという。「その時点で達成した導入効果を社内メールで知った経営陣から驚きの声が上がってからです。約700件の施工場所に関する画像や図面データを連日処理している部署が強く採用を希望したこともあり、会社としてRPA推進に取り組む姿勢が鮮明になりました」(大坪氏)

2019年3月現在、同社がロボット化で創出したリソースは労働時間換算で年3万時間相当に達した。投資を大きく上回る効果により、販管費抑制という目標も順調に達成されつつある。

当初の懸念をよそに、同社がここまでRPAで成果を挙げられた背景には、選択したBizRobo!と業務内容とのマッチングや、メリットを確信した経営からのサポートに加え「業務改善に向けた社内共通の課題感」があったことも大きいようだ。

大坪氏は「当社グループで最初にBizRobo!を導入した住宅補修部門では、全国35拠点の社員や独立開業した協力業者(元社員)など約700人が日々連絡を取り合っています。リペアの受注から完成までの調整作業は複雑を極め、日ごろから正確で円滑なコミュニケーションへの意識を共有していたことが、今回IT部門と現場の協働でロボット化を進められた大きな理由だと思います」と語る。

自社社員にとどまらず、社外の協力を得たケースもあるという。たとえば、受注したリペアサービスの現場図面をサーバーに登録する業務のロボット化に際しては、発注者側の担当者に対し、図面PDFのファイル名として物件単位のIDを記載するよう依頼。

このIDをBizRobo!が読み込むことで、発注者から受信した図面ファイルを社内システムにアップロードする一連の作業が完全にロボット化されたという。

業務の担当者からは、数百にのぼる添付ファイルのやりとりが迅速に・ミスなく処理できるようになり、以前よりラクになったと好評とのことだ。

株式会社キャンディル 総務部 システム課 大坪夏樹氏

企業経営の“攻守両面”にロボットが貢献する

RPAによる定型業務の代替が、総労働時間の減少を通じて販管費の削減につながったのは同社の狙いどおりだったが、ロボット化がもたらした果実はそれだけにとどまらない。

大坪氏は「ロボット導入部署の社員からは『業務が増えても作業人数は逆に少なくて済むので、そのぶん余裕を持って顧客対応できる』と喜ぶ声が聞かれるようになりました」と話す。

定型業務のロボット化で大幅な増員は回避する同社だが、戦略的ポジションへの採用には積極的だ。BizRobo!は人事部門でも活用されており、求人サイト管理の省力化にも大きな役割を果たしているという。

RPA導入を機に、既存業務の代替にとどまらない新たな業務も開拓されている。なかでも、社内向けの 帳票システムで作成した作業報告書のPDFを、発注者が閲覧できるシステムに自動転送するロボットは、多忙な社員の手では困難だった1日600件の作業を自動処理。これまで顧客が知り得なかった情報をいち早く公開することで、サービス品質の向上を実現している。

こうした変革が奏功してか、「ロボット導入部署の人員や残業時間、売上高の前後比較では、総労働時間の伸びを上回る勢いで売上が伸びていることが分かっています」と藤原氏は明かす。

経営の「守り」を固めるコスト抑制だけでなく、生産性や顧客サービスの向上、優秀な人材の確保といった「攻め」の面でも、RPAの有効性を強くうかがわせる結果といえそうだ。

M&Aによる急成長を経て、並立した基幹システムの統合を目指すキャンディルグループは、ここまで全4社のうち1社でロボット化を先行させてきた。今後は、可能な範囲でグループ内にロボットを横展開させつつ、統合後の業務フローでのロボット活用も検討していくという。

業務の「改善」に成功し、いずれ「刷新」に踏み込むとき、RPAに期待するものは何なのだろうか。最後にそう問うと、藤原氏はこう応じた。

「今後当社は、テクノロジーの力でワークスタイルを大きく変えていく段階に入ります。技術者のスキルや移動距離などを考慮したシフト調整のように属人的なスキルに頼る業務ではAI(人工知能)の活用を検討しているほか、育児や介護といった社員の家庭事情に対応できるよう、リモートワークの拡充も計画しています。

新たに採り入れていく、こうした多様なテクノロジーをつなぎ合わせ、業務に取り込んでいくのもRPAの大切な役割となるのではないでしょうか」

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