メディア

負担の多い業務だけを安易にRPA化するのは間違い――皆が気付かない真実とは

「日ごろ手が掛かっている業務」を基準にユーザー企業がRPA化の対象業務を選定し、必要なロボットを検討する――。こうしたケースは珍しくありません。しかし、ここに思わぬ落とし穴が潜んでいます。

» 2019年08月30日 08時00分 公開
[秋葉尊オデッセイ]

 前回は、RPAの導入効果を得るために必要な4つのポイントのうち、「導入目的の明確化」と「RPAツールの選択」について述べた。RPAの導入目的をどこに置くかを明確にせず、自社の導入目的に合ったツールなのかも精査せずに「取りあえず人気のツールを入れてみよう」と考えることのリスクを分かっていただけたと思う。今回は残る2つのポイント「適切な導入パートナーを選ぶ」「RPA化すべき業務を分析した上で決定する」について解説したい。

<ポイント3>適切な導入パートナーを選ぶ

 RPAを導入する際、多くのユーザーは導入パートナーの支援を受ける。最近はRPAのソリューションに対応しているパートナーも増えてきたので、どのパートナーに依頼するかを決めるのは重要である一方で、難しくなっている。パートナーの選択にあたって、まずは何を依頼するのかを明確にすることが必要だ。以下のような項目を考え、ユーザーとパートナーの役割分担をある程度決めてから、依頼したい内容を対応できるパートナーを選定したい。

【パートナーに何を依頼するのか】

  • ロボットの全面的な開発
  • RPA化すべき業務の分析
  • RPAツールを活用したロボット開発技術の教育
  • 上記全て

 次に、パートナーを選ぶ上で重要となる条件は何か。それはパートナーが得意としている領域だろう。重視すべき得意領域はユーザーとの役割分担によって変わってくるが、一般的にはRPAの技術に精通していることはもちろん、RPA化しようと考えている対象業務に関する知識や、業務システムについても明るいパートナーが望ましい。例えば、人事業務のRPA化を進めるのであれば、「RPAの技術」と「人事業務の知識」そして「人事システムに関する知見」を持ったパートナーが望ましいことになる。仮に、ユーザーがRPA化する業務を選定し、どのようなロボットを開発するのかを指示するのであれば、RPAの開発技術だけを持ったパートナーでも対応できるかもしれないが、現実的にはユーザーだけでそこまで対応するのは困難であり、あまりお勧めもしない。その理由は次の4つ目のポイントで触れる。

<ポイント4>RPA化すべき業務を分析した上で決定する

 RPAの導入効果を最大化する上で、「RPA化すべき業務を分析すること」は一番重要なポイントともいえる。これまで、いろいろなユーザーのRPAの導入を見てきたが、RPA化対象業務については、当然のように「日ごろ手が掛かっている業務をRPA化する」「RPA化する業務は自分で決められる」と簡単に考えているケースが非常に多い。一見ユーザーが責任を持ってRPAの導入を進める姿勢があって良いように感じるが、果たして本当にそうだろうか。

 私は、このようなユーザーの考え方がRPAの導入効果を低下させていると考えている。なぜなら、ユーザーが挙げるRPA化の対象業務は、「個人業務の煩雑さを解消する」というレベルで判断された業務であって、「業務プロセスレベルや組織レベルで業務を効率化する」視点に立っていないことが多いからだ。

 前回説明したように、個人レベルの煩雑な業務を解消するのであれば、RPA(Robotic Process Automation)ではなくRDA(Robotic Desktop Automation)で十分なはずだ。RPAを導入するのであれば、個人レベルではなく業務プロセスレベルを自動化することによって大幅に処理時間を短縮できる業務を選別して導入したい。

 どのような業務でもRPA化すれば効率化できるとは限らない。ロボットが能力を発揮しやすい業務もあれば、発揮しにくい業務もある。RPAツールによっては不得意な分野もあるので、RPA化の対象業務の選定に当たっては、その点も考慮が必要だ。

 上記を踏まえると、RPA化対象業務の選別に当たっては、業務プロセスを分析し、ROIを算出した上で、RPAの特性を考慮しながら対象業務を絞り込むまでの一連の作業が必要だと分かる。これをユーザーだけで対応するとなれば、非常に手間がかかるだけでなく、それなりの知見も必要になる。実現できるのは一部のパワーユーザーに限定されるだろう。一般のユーザーであれば専門家に任せるのが賢明だ。RPAを取り扱っている全てのパートナーが対応できるわけでもないので、「ポイント3」で述べた通り、ユーザーの要望に対応できるパートナーを探す必要がある。一部のパートナーは、RPAを導入する際の「適用業務分析」などをサービスとして提供しているので、情報収集されてみてはいかがだろうか。

 前回から2回にわたりRPAの導入効果を向上させる4つポイントを述べてきた。

RPAの導入効果を向上させる4つのポイント
(1)導入目的を明確にする RPAを何のために導入し、どこまで展開するかをあらかじめ決めてから導入する
(2)導入目的にあったRPAツールを選定する 自社の導入目的にあったRPAツールを選ぶ(RPA?or RDA?)
(3)適切な導入パートナーを選ぶ 「RPAの技術」「導入対象となる業務に関する知識」「対象業務システムの知見」を兼ね備えたパートナーを選ぶ
(4)RPA化する業務を分析した上で決定する ユーザー自身が日頃の感覚でRPA化対象業務を安易に選ばない、パートナーが提供している「適用業務分析」などを活用する

 当たり前のことばかり列挙されていると感じる方も多いかもしれない。ただ、RPAを試行錯誤で導入してきたユーザーは、心当たりがあるのでないだろうか。RPAを導入されたユーザーも、これから新たに導入されるユーザーも、いま一度原点に帰り、上記ポイントをチェック頂きたい。きっとRPAの導入効果を向上させるためのヒントが見えてくるはずである。

 なお、今回取り上げた「導入効果」は、初期導入時の効果にフォーカスしたものである。RPAの導入効果を永続的に享受し続けるためには、別の視点で対策を用意しなくてはならない領域もある。この点については、次回で取り上げる予定なので、引き続きチェックいただけることを期待している。

著者プロフィール:秋葉 尊(あきばたける)

photo

株式会社オデッセイ 代表取締役社長


大学卒業後、NECに入社。20年にわたり中堅企業や大企業に対するソリューション営業やマーケティングを担当。2003年5月にオデッセイ入社、代表取締役副社長に就任。2011年4月、代表取締役社長に就任。

ATD(Association for Talent Development)タレントマネジメント委員会メンバー、HRテクノロジーコンソーシアム会員、日本RPA協会会員を務める。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。