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人事・人材管理システムの利用現状(2019年)/後編

「ベテランが抜けたけれど若手は育たない。業務の平準化はしていない」そんな企業が増えつつあるようだ。人材枯渇の危機的状況が明らかになった。

» 2019年07月11日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 キーマンズネットは2019年5月30日〜6月13日にわたり、「人事・人材管理の動向調査」を実施した。全回答者数105人のうち情報システム部門が34.3%、製造・生産部門が19.0%、総務・人事部門が11.4%、営業・販売部門が9.5%などと続く内訳であった。年商規模での分類では、500億円以上が41.0%と最も多く、続いて10〜100億円未満26.7%、100〜500億円未満21.0%、10億円未満11.4%であった。

 今回は「人材管理や人事管理で顕在化した課題」や「顕在化した課題への対策状況」「人事労務上の課題」など、企業が直面している人事課題を把握するための質問を展開した。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。

従業員の高齢化、止まらない離職者、求人には応募来ず……顕在化する人事課題

 前編では人事管理や人材管理にシステムを導入している割合が59.0%と過半数を占めていることなどに触れたが、後編では「そもそも企業で今どのような人事労務上の問題を抱えているのか」「どのようなニーズが生まれているのか」などを深堀りしていきたい。

 まず、全体に対し「数年前と比べて人材管理や人事管理で課題が顕在化したものがあるか」を尋ねたところ「従業員の平均年齢が高まった」61.0%、「必要な人材を確保できなくなった」40.0%、「従業員満足度やモチベーションが低下した」25.7%、「コミュニケーションが難しくなった」24.8%、「求人への応募が減った」16.2%、「離職率が高まった」15.2%などと続く結果となった(図1)。

 少子高齢化が進む日本の人口構成比からすると、企業においても同様に平均年齢が高くる傾向には一定の納得感がある。

 一方で、昨今は人材の流動性が高まりつつあるため、人材不足を経営課題に挙げる企業が増えている。ハローワークが公表した2019年4月の有効求人倍率は1.63倍と2018年度までで9年連続で上昇していることに加え、総務省が同月に公開した完全失業率は2.4%と減少傾向を継続しており、企業が必要な人材を確保しづらくなってきていることが見て取れる。特に中小企業では大手有名企業に求職者が流れ人手不足が続く厳しい状況に追いやられるなどの可能性も高く、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇にもつながりかねない危険性をはらんでいることが懸念される。

図1 人材管理や人事管理で顕在化した課題 図1 人材管理や人事管理で顕在化した課題

人が足りないのに対策していない企業が3割、では対策実施企業は何をしているか

 このように昨今顕在化してきた人事・人材の課題について、各社はどのような対策を取っているだろうか。

 調査では「特に対策はしていない」が30.5%、「対策に向けて調査中」が22.9%と、なかなか対策を講じられていない現状が明らかになった(図2)。

 一方で人材不足対策に取り組む企業では「給与体系の変更」21.9%、「休暇制度やインセンティブ制度の拡充」21.0%が上位に挙がった。続いて「求人方法の変更」14.3%、「雇用契約の見直し」13.3%、「目標管理制度の導入」12.4%、「管理組織の変更」11.4%、「副業の推奨」3.8%と続く結果となった。

 人手不足を課題に挙げる企業では、研修などによる教育や能力開発によって人材育成を行ったり、ITを上手に活用して生産性を高めることで課題解決を図る企業も少なくないが、早急な改善にはつながりにくい。そこで雇用形態や給与体系の見直しや休暇制度、インセンティブ制度の拡充など労働条件を改善することによって現従業員の定着を図ったり、制度面での改善を採用に生かし、他社との優位性をもって求人への応募を増加させるような戦略をとる企業も出てきているようだ。

図2 顕在化した課題への対策状況 図2 顕在化した課題への対策状況

働き方改革は「成功」に見える組織にも新たな問題の陰

 最後に、より広く人事労務上の課題をフリーコメントで聞いた。まず注目したいのは「働き方改革」に取り組む企業の評価が分かれた点だ。

 「働き方改革が進まずサービス残業に」「テレワーク時での労務管理が問題」「働き方改革に向けた有効な労働管理ができていない」などの声に代表されるように働き方改革に取り組み始めたは良いが、社内の制度や体制、文化が追い付いておらずなかなかうまくいっていないケースを課題に挙げる企業も少なくなかった。

 他にも「働き方改革が進んでおり良好な状態だが、業務特性として慢性的にいわゆる『3K』状態となる部署がある。そういう部署の社員と働き方改革ができた部署の社員の不公平性の是正が課題」など、社内でうまく機能している部門とそうでない部門が存在しており、そこに不感が発生している状況が聞こえた。

 一見うまくいっていそうな組織でも「新たな問題」が生まれているケースがあることも分かった。

ベテランのノウハウ消失がついに現実に 組織崩壊か、それとも……

 人材不足を課題に挙げる声はやはり多かった。従業員の高年齢化はもちろん「ベテラン退職からのノウハウ継承に失敗する組織が出てきた」という、数年前懸念されてきた事象が実際に起こりだしていることが明らかになった。この他、役職者や経験者の離脱を危惧する声は多く寄せられた。

 この他、「部門長が既に嘱託である」といった声もあった。技能職を中心に見れば、嘱託契約が必ずしもネガティブでないケースもあるが、働き方改革の枠組みとは異なる雇用形態である可能性が高い点は留意したい。

 また人材不足と人材の流動性の高まりを象徴する声としては、「人材育成ができる人材がそもそもいない」「中途ばかりなので新卒への対応がうまくできない」といった声が散見された。ベテランの離脱などで、企業を支えてきた暗黙知や技能継承の余地がなくなりつつある企業が少なくないことが見て取れる。

 標準化できる仕組みは他者がまねしやすく、競争力の源泉とし難いことが多い。だが一方で、企業文化や暗黙知、個人の技能に依存した企業の強みを維持し続けるのが難しい状況が生まれつつあるようだ。

 少子高齢化の日本にとって人材確保はどの企業でも直面する経営課題となることは明白で、早期に対策を講じる必要があるだろう。

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