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自社でできる、かしこいAIの育て方――画像認識の2事例に見る

AI画像認識は魔法のつえではなく、その頭脳を育てるには労力がかかります。さらにその工程をベンダーに任せきりにしては、現場で活用できるレベルにまでAIを育てることは不可能です。「自社で頭脳を育てるなんて無理」「うちにAIスキルを持った人材はいない」――その打開策とは。

» 2019年06月28日 10時00分 公開
[中尾雅俊, 矢嶋 博パナソニック ソリューションテクノロジー]

AI画像認識のDIYを支援する

 本連載では、AI(人工知能)やAI画像認識に対する誤解を解きながら、AI画像認識とどのように向き合っていくべきかについて考察してきました。最終章では、AI画像認識は魔法のつえではなく、頭脳を育てるに当たって工数が掛かること、さらにその工程をベンダーに任せきりにせず「DIY(Do It Yourself)」のアプローチが必要だということを繰り返し述べています。

 とはいえ、AIのスキルを持った人材を全ての企業が有しているとは限りません。一体どうすればよいのでしょうか。最終回である今回は、企業におけるDIY的なAI画像認識の導入とその成功を支援するAI画像認識プラットフォームについてお話します。

AI画像認識プラットフォームとは

 パナソニック ソリューションテクノロジーでは、上述したDIY的なアプローチを支援するソリューションとして、「AI画像認識プラットフォーム」(以下、AIプラットフォーム)を提供しています。

 AIプラットフォームは、ユーザー自身がAI画像認識の一連の工程を実施できるようにするツールです。

 前回も触れた通り、画像認識を適切に行うためには、大量の教師データとさまざまなパターンの画像が必要ですが、AIプラットフォームは、動画から取り出した静止画を使うため、効率よく教師データを生成し、ユーザーの現場でさまざまな条件下の認識を試すことができます。

 例えば、ベルトコンベヤーを流れる対象物の中から特定の対象物だけを検知したいとします。現場の画像から大量の教師データを作成するためには、画像を撮影して、画像の中から対象物を切り出して、「Box」などといったラベル付けを一つ一つ実施します。この作業が、数百回から数千回の繰り返しになることも少なくありません。

 これに対し、パナソニック ソリューションテクノロジーのAIプラットフォームでは、静止画の切り出しやラベル付けをワンクリックで実施できます。具体的には、ベルトコンベヤーを流れてくる対象物をクリックするだけで、対象物だけを切り出した画像が自動で生成され、ディープラーニングの頭脳を育てるための画像(教師データの元になるデータ)を作成できるのです(図1)。

図1 AIプラットフォームによる学習画像の作成

 つまり、クリック操作(必要に応じてドラッグ操作)で学習を実施できるので、AIのスキルがなくても、画像認識のためのディープラーニングの頭脳を現場で生成できます。さらに、元の画像で足りない条件を自動で数増しして(※1)、教師データとして利用することが可能ですので、大量の画像が必要となる教師データ準備の作業が効率よく行えるという特徴を備えています(図2)。

※1 現場で対象物を認識させる際、入力画像がボケたり、ノイズ、回転など、さまざまな画像条件や対象物の状態が発生するならば、これらの条件も教師データとして与えて学習させる必要があります。これらの画像を、既に生成した教師データを元に自動で生成します。(この数増し処理のことを、オーグメンテーションといいます)

図2 AIプラットフォームによる教師データの作成

 教師データを作成したら、それをAIに学習させ、画像認識ためのネットワークモデル──つまりは、頭脳を作成します(図3)。これにより、AI画像認識のための事前準備が完了することになります。

図3 AIプラットフォームにおけるネットワークモデル(頭脳)の作成

 連載の中で、「AI画像認識の頭脳を育てるには相当の労力がいる」といった問題を繰り返し述べてきました。AIプラットフォームを利用すると、こうした労力の多くを削減することが可能です。画像認識の結果を元にデータ分析を行う場合も、パナソニック ソリューションテクノロジーのデータ解析士が支援します。つまり、ツールだけでなく、コンサルティングからサポートまでをトータルで提供できることが、AIプラットフォームの大きな特徴であるということです。

AIプラットフォームがもたらす3つのビジネスメリット

 AIプラットフォームには、大きく3つのビジネスメリットがあります。メリットの1つは、「AIやITに関する専門知識が不要」であることです。ディープラーニングやプログラムの専門知識がなくても、画像認識のための頭脳(AI画像認識エンジン)の構築が可能です。簡単明瞭な分かりやすいGUIで、学習データの作成から学習済みモデルの評価までを実行することが可能です。

 2つ目のメリットは、「ノウハウの利活用」です。AIプラットフォームには、“モノづくり”の現場で培ってきたパナソニックのノウハウが生かされています。そのノウハウに基づいて、AIを活用した業務システムの提案や改善提案が提供されます。

 3つ目は、「セキュリティ」です。AI基盤の多くは、クラウド環境上のサービスとして提供されています。ただし、製造の現場では、外部には絶対に漏らすことができない機密情報が扱われることが多く、データを外部に持ち出すことがポリシーで禁じられているケースが少なくありません。そのような閉じたネットワークにおいても、AIプラットフォームの画像認識システムは導入可能です。

図4 適用事例2つのイメージ画像

 実際の適用事例を2つ紹介します。1つは、回転するデッサン人形を撮影して、頭頂、肩関節、肘、手首といった、時間的に変化する各部位の位置を数値化するケースです。これは「ねじ止め位置に、手を伸ばしたことをチェックする」といった定型作業の工程漏れチェックに応用できます。また、熟練者と新人の作業の差を数値で比較し、作業効率の格差を生む要因を定量的に解析することにも応用できます。

 もう一つの事例は、ベルトコンベヤーを流れる箱と、その箱に付いているラベルを認識して処理するといったケースです。これは、段ボールや荷物を検知して種類ごとに数をカウントしたり、段ボール上のラベルを検知してラベル内容によって箱の行先を分岐させたりするのに用いられています。

 もう一つ、現場へのAI適用で忘れてはいけないのは、「AI利用のシステムを導入したいのは誰であり、誰がその利益を得るのか」ということです。

 現場や現場担当者の利益を目的とするならば、「システム導入でどんな利益がもたされるか」について、現場のコンセンサスを確立しておくことが大切です。また、経営メリットなど、現場以外の利益創出に目的が置かれている場合には、システムの導入後に現場に新たな負担がかからないようにする工夫が必要です。

 AIは、追加学習によって賢くなっていきます。しかし、自然に賢くなるわけではなく、AIの頭脳を育てるためには、相応の仕組みと工夫が必要になります。パナソニック ソリューションテクノロジーは、これまでに蓄積したナレッジを元に、AI画像認識によるお客さまの成功をこれからも支援していきます。

 さて、本連載も今回で最終回となりました。AI画像認識について、私たちのノウハウやメッセージが少しでも読者の皆さまのお役に立てていれば幸いです。またどこかでお会いしましょう。

企業紹介:パナソニック ソリューションテクノロジー

パナソニック ソリューションテクノロジーは本格的なICT時代の幕開け前から30年にわたり、IT基盤の設計・構築、ソフトウェア、SIサービスでお客さまの業務課題解決に努めてきました。さらにICTシステムの設計・構築を起点に、Al・データ分析、IoT、働き方改革、そしてBPOまで分野を広げています。製造業や建設・物流・金融・エネルギー・自治体など、さまざまな業界・業務の知見を基としたソリューションで、お客さまの仕事の仕方・プロセスを加速度的に変え、成長につなげていきます。

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