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三井住友銀行が挑むデジタル変革の裏側――AIを活用した業務改革

業務の効率化に頭を抱える企業は多く、三井住友銀行もその1社だった。ヘルプデスクや人事総務、顧客応対など行内には合理化すべき業務が多くあった。これらを効率化するために同社が選んだ選択肢とは。

» 2019年05月08日 08時00分 公開
[岡垣智之キーマンズネット]

 最近は異業種企業が金融事業に参入する動きも見られ、既存の金融事業者はそれに対する打ち手を考えなければならない。そうした背景の中、三井住友銀行はITやデジタル技術を活用して組織を変えるために、2015年10月に「ITイノベーション推進部」を立ち上げ組織化した。

 部門メンバーにはIT系企業やベンダーでの実務経験者を加え、行内のデジタル改革に臨んだ。最近は行内のデジタル化推進のみならず、SI(システムインテグレーター)であるJSOLと協業し、AIを取り入れたソリューションの外部展開など新しい事業ポートフォリオの創出にも挑戦しているという。三井住友銀行 ITイノベーション推進部事業開発グループ長の古賀正明氏は、同行のデジタル変革の取り組みについて語った。

進む欧米金融機関での銀行業務の効率化、日本の銀行はどうか

三井住友銀行 古賀氏 三井住友銀行 古賀氏

 ITイノベーション推進部に課せられたミッションは「将来のSMBCグループの事業ポートフォリオを見据えた事業開発」「SMBCグループの業務やサービスの高度化および効率化」だった。

 この2つのミッションのうち、特に行内業務の効率化は急務だった。古賀氏は「欧米の金融機関はいち早くデジタルを活用した業務効率化と生産性の向上に取り組んでいるが、日本の銀行は後れを取っている状況だ」と説明した。対顧客業務と行内業務をいかに効率化するかが鍵となった。

 行内業務の問題点として上がったのが、PCヘルプデスクや人事総務系部署での電話による問い合わせ対応だった。

 PCのヘルプデスクでは、主にOA機器に関する質問が寄せられるが「行員が求めている情報にたどり着けない」「対応者の知識やスキルによって応対精度が異なる」「問い合わせ可能時間に制限がある」といった課題があり、人事総務系の部署も人事規定や冠婚葬祭に関する行員からの問い合わせに対して、同じような課題を抱えていた。

AIで銀行業務をどこまで効率化できるか

 三井住友銀行はこうした応対業務をチャットbotで効率化しようと考え、日本マイクロソフトと共同で「SMBCチャットボット」を開発した。行員が求める情報とチャットbotが提供する情報にミスマッチが起こらないよう、AIを取り入れることで質問内容に対する回答の「揺らぎ」をなくし、回答精度を向上させる仕組みにした。また、対応履歴を基に管理者に対して追加すべき質問事項をサジェストするなど、運用負担を支える機能も備える。

図:SMBCチャットボットの概要図 図:SMBCチャットボットの概要図

 ただ、中には回答を定型化するのが難しい問い合わせもあり、ロボットだけでは100点の回答を提供できないときもある。その場合は、対応を有人チャットに切り替えカバーする。もちろん、有人チャットに切り替えた場合でも応対内容は全て記録され、学習データとしてチャットbotに取り込める。

図:SMBCチャットボットのフロー 図:SMBCチャットボットのフロー

「AIの活用は人員削減が目的ではない」三井住友銀行が考える技術活用とは

 チャットbotによる応対の自動化は人員削減のために活用するものと語られがちだが、こうした技術を活用する目的は人員削減が本意ではないと古賀氏は言う。

 「AIやチャットbotといった技術は、人材を削減するために活用するものと思われがちですが、当社は顧客接点を増やすための手段だと考えます。対社内では従業員との接点を増やすためです。行内の問い合わせも、チャットbot導入前は月に数百件程度でしたが、導入後は従業員からの問い合わせ件数が約3倍〜5倍にまで増えました。チャットbotが組織と従業員をつなぐ役割となっています。また、作業をロボットに任せること自体が重要なのではなく、効率化できた時間を新たなビジネスに充てるなどいかに有意義に活用するかを考えることが重要なのです」(古賀氏)

 また現在は、デリバティブ商品や法人向けサービス内容など本来知っておかなければならない知識をチャットbotで確認するなど、行員の知識を埋めるための手段としても活用されている。

 SMBCチャットボットに手応えを感じた三井住友銀行は、2018年5月にJSOLを販売パートナーに選びこのチャットbotを外販しようと打って出た。2017年に銀行法が改正され、銀行も外部企業と協働することが許され新たなビジネスにチャレンジしやすい環境ができた。そこで、三井住友銀行も新しい事業ポートフォリオを作ろうと考えたという。山梨中央銀行では、JSOLを介してSMBCチャットbotの試行導入が決まった。2019年1月より行内照会応答業務での試行利用を実施しているそうだ。

 このSMBCチャットボットの外販を機にJSOLとも関係性を深め、チャットbot以外にもAIを活用した金融機関向けサービス「AI業況変化検知サービス」を三井住友銀行とJSOLで共同開発し提供している。入出金や残高といった企業の口座動向をモニタリングし、AIが業況変化を予測、検知するといったものだ。古賀氏は「今後も引き続きJSOLと協働して、さらなる新しいビジネスを創出したい」と締めた。

本稿は、2019年4月3日〜4月5日にかけて開催された「AI・人工知能 EXPO」(主催:リード エグジビション ジャパン)における三井住友銀行の講演内容を基に編集、構成した。


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