特集
» 2019年03月20日 08時00分 公開

FinTechの急先鋒、セブン銀行はAIでATMをどう変えるつもりか (1/3)

セブン銀行はAIによる業務再編を前提にATMを刷新する。将来は自社スタッフ全員が「電卓のように」AIを使う世界を目指すという。ATMが変わるだけで、どこまで企業が変わるかを聞いた。

[土肥正弘,ドキュメント工房]

事業でのAI活用は「技術ありき」 できることを発見する

 セブン&アイ・ホールディングス傘下のセブン銀行はコンビニエンスチェーン店舗設置型ATMの事業で国内最大手だ。600以上の金融機関と提携、全国に約2万5000台のATMを展開する。

 コンビニなど店舗内のATMは、店員の関与の必要がないフルリモートオペレーションが実現しており、銀行ATM同様のサービスが24時間いつでも利用できる。銀行口座を介さずに企業からの送金(返金など)を直接受け取れる「ATM受取(現金受取サービス)」や「電子マネーチャージ」など数々の新サービスの提供を実現してきた。2019年秋をめどにさらにスキャナー、顔認識可能なカメラを実装した新型ATMを投入する予定だ。

注:本稿は2019年2月13日の「THE AI 3rd」(主催:レッジ、2019年2月24日開催)におけるセブン銀行 セブン・ラボ 専務取締役執行役員 松橋正明氏の講演「AI導入の工夫 コンビニ銀行の事業高度化アプローチは?」を元に編集部で再構成したものである。


 同社が約3年前から注力するのが自社サービスの運営や新サービス開発へのAIの適用だ。

 コンビニATMを軸にしたサービス展開の背後にあるのが、同社独自のAI技術だ。セブン銀行 専務執行役員の松橋正明氏は「市場の“ウォンツ”からサービスを考えてきた従来の当社のアプローチとは異なり、AIは"技術ありき"でサービスや製品を考えるアプローチが適している」と語る。

セブン銀行 セブン・ラボ専務執行役員 松橋正明氏

 サービスや製品を考える際は、何らかの社会課題や事業課題の解決に必要とされるもの(=ウォンツ)を起点にするが通常の道筋だ。

 だが、ことAIに関しては「何ができるか」を描き、自社が保有しているデータを使って試行してはデータ再構成を繰り返し、トライアンドエラーにより最適解を探していくアプローチを採るべきだ、と松橋氏は語る。そもそも松橋氏はAIへの取り組み当初に、当時注目された自動車(模型)のコース学習デモを見ながら「AIは破壊的技術。これを使いこなさなければ淘汰(とうた)されてしまう」と危機感を持ったのだという。その直感がAI開発へと向かわせた。

「簡単な領域から着手」ではなく「大きな効果が期待できる領域から着手」

 ATMサービスには、提携各社のシステムとの連携開発だけでなく、営業、機器設置、システム開発/改修、運用/管理/保守などさまざまな業務が関連している。それらを理想的な姿に変えていくために、AIに何ができるかを考えた。

 同社には、AIの学習材料として現状で使える情報として、ATMの利用件数やICカードを使った取引件数、海外カード取引件数、取引金額、特定取引件数・金額、その他のATM計数データなどがあった。

 「簡単なものから始めるというアプローチもあるが、当社は業務インパクトを重んじて、効果が大きなものを選んで取り組むことにした」(松橋氏)

 現場の提案をあえて求めず、「かつてIT化に失敗したもの」「難しいができそうなもの」を、勘を働かせながら候補にした。実施の候補は図1に示したA〜Dの4つだ。

  • A 現金マネジメント:ATMの現金欠品を防止する
  • B 保守最適化:無駄な定期点検をなくし、故障の予兆が出る前に修理して利用時間を最大にする
  • C 金融犯罪対策:金融犯罪を防止し、安心・安全な利用ができるようにする
  • D チャットbot:FAQなどを自動回答して利用者の利便性を上げる

図1 AIの適用領域とした4つのテーマ(松橋氏の投影資料より、以下同様) 図1 AIの適用領域とした4つのテーマ(松橋氏の投影資料より、以下同様)

 これらテーマは2018年時点で既に公表していたもの。現在はサービスの運用を始めており、それ以外についても本番展開に向けた検証が進んでいる状況だ。本稿ではこのうち、現在本稼働を目指して検証が進むA〜Cの領域を紹介する。

 図1を見ると分かる通り、いずれも蓄積データを元に分析モデルを作るのだが、各テーマで、学習に利用するデータの性質が異なる。またその「出口」である目的も異なる。

 蓄積データを活用して分析モデルを最適化するタイプのAIの場合、精度を高めるには繰り返しデータや処理結果を評価して精度を高める必要がある。一度何らかのデータを学習させればすぐに実践で使えるわけではなく、学習させるデータの扱い方や分析手法の検討、学習モデルの最適化などの工程は、データサイエンティストらによる非常に泥臭い作業も必要だ。

 松橋氏は「未完成だった技術を試しつつ、データの有用性も検討しながら進めた」というが、「裏では苦しい局面がたくさんあった」と立ち上げ期の苦労を振り返る。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

ホワイトペーパーや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。