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AI対応の期待膨らむクラウドコンタクトセンターの現在地

顧客接点が多様化するなか、最適な顧客体験、いわゆるユーザーエクスペリエンスを生み出すコンタクトセンターが注目されている。このコンタクトセンターの領域にもAI技術の実装が期待されているが、どんな形で実装されているのだろうか。そんなクラウドコンタクトセンターの今に迫る。

» 2019年03月18日 08時00分 公開
[酒井洋和てんとまる社]

 電話はもちろん、メールやチャット、SNSなど多様化する顧客接点への対応が求められる中、顧客対応の窓口として統一した顧客体験を作り出すコンタクトセンター基盤の構築は、経営的な視点からも重要だ。

 柔軟なシステム構築が可能なクラウド型のコンタクトセンターが市場の中で存在感を高め、導入を検討する企業も増えている。今回は、クラウドコンタクトセンターの動向について概観しながら、その魅力に迫ってみたい。

クラウドコンタクトセンターの今

 顧客の問い合わせ窓口としてのコールセンター機能はもちろん、ユーザーの接点となるあらゆるチャネルを連携させて最適な顧客体験を作り出すオムニチャネルの基盤となるコンタクトセンターは、今や顧客接点の重要なインフラとして欠かせない存在だ。顧客接点となり得る電話やメール、チャット、SNSなど複数チャネルでの顧客対応を統合して行うことで、顧客体験価値を最大化していくことを目指している。

クラウドコンタクトセンターに備わった機能概要

 今回取り上げるのは、クラウドサービスとして利用できるコンタクトセンターシステムだ。PBXやCTIをはじめとしたコンタクトセンター基盤の一部を借り受け、席数や使用量に応じた月額料金を支払うサブスクリプションモデルで利用できる。

 主な機能としては、PBXやIVR(自動音声応答)、ボイスメール、電話会議などのUC機能をはじめ、メールやWebチャット、SNSなどへの対応が可能なオムニチャネル機能、そして各種モニタリングや管理者(いわゆるSupervisor:SV)によるオペレーター支援、通話録音などのコンタクトセンター機能などがあり、別途AI実装やCRM連携などインテグレーション可能な機能が備わっている。

図1 コンタクトセンターに備わっている機能 図1 コンタクトセンターに備わっている機能

クラウド化が進むその理由

 あらゆる業務基盤がクラウドサービスとして提供されている今の時代にあって、コンタクトセンターの基盤もその例外ではない。特にクラウドサービスが多くの人から支持されているのは、市場の変化が激しいなかで事業展開への柔軟な対応が求められているためだ。数年後の事業予測が難しいなかで、オンプレミスでコンタクトセンター基盤を整備することは、かえって事業の足かせになりかねない。小さく始めることができ、万一のときも撤退しやすいなど、基盤そのものの扱いやすさが受けている。また、少子高齢化の中でオペレーター人材の確保が難しくなっていることも、クラウドが支持されているポイントの1つだ。自宅など分散された環境であっても品質の高いコール対応業務に関わることができるため、柔軟な働き方を提示することで人材確保につなげることが、クラウドであれば容易になる。

数週間で立ち上げられるという魅力

 オンプレミスとの大きな違いは、センターを稼働させるまでの時間が短期間で済むことだ。インフラそのものを借り受けるクラウドサービス全般にいえることだが、いわゆるPBXや業務を動かす各種サーバ群の調達は不要であり、実際の業務も自社の運用に適したコールフローの設定をするだけ。もちろんCRM連携で顧客情報をポップアップ表示させるなどインテグレーションが必要であればその限りではないが、数週間のうちにコンタクトセンターの立ち上げを行うことができるのは大きな魅力だろう。

 ただし、いくら環境整備が迅速に行えると言っても、明日すぐに使い始めるというわけにはいかない。カード決済後すぐに利用できるような環境があれば理想的だが、電話回線の調達など環境整備そのものにも多少の時間が必要になる。

突発的な呼量の増加にも対応可能

 天候の影響で自社のサービスに影響が出た、テレビに自社の商品が紹介されて予想外の問い合わせが発生した、予期せぬ出来事に巻き込まれて会社が炎上してしまった…想定外の出来事で問い合わせ窓口に多くの顧客が殺到し、回線がパンクしてしまうなんてことも十分考えられる。そんな緊急対応が必要な場面にも柔軟に対応できるのがクラウドの良さだ。パフォーマンス不足に陥ることなく大量の処理をクラウド側で吸収してくれるのはもちろん、コール対応の席数を一時的に増設することも可能だ。なお、従量課金で通話時間など使った分だけの費用が発生するサービスもあれば、あらかじめ多めの席数を安価なコストで確保しておき、緊急対応時に席数を増やすサービスもある。

 最近では企業の不祥事などによりトップが謝罪に追い込まれるケースが増えており、顧客からの問い合わせを受け付けるコンタクトセンター側では緊急の対応が求められる場面も出てくるはずだ。ただし、席数などを増やすことはできても、人員確保や緊急用のコールフローを急きょ設計して対応することは難しい。その場合は外部で臨時の窓口そのものから人員確保、実際の対応まで行うことが可能なコールセンターエージェンシーなどに相談し、個別に緊急対応体制を構築するパターンが多い。

コンタクトセンターの機能

 ここで、コンタクトセンター内のオペレーターに提供されるエージェント画面を見てみよう。今回の例として楽天コミュニケーションズが提供する「コネクト・ストーム」では、画面上位にはコールの状況や待ち時間などのリアルタイムなキュー情報が掲載されており、左のブロックにはメール、チャットなどの対応履歴や電話番号履歴などが表示され、クリックすることで履歴詳細情報が確認できる。実際に通話内容を聞き直す場合は、その詳細情報の録音ボタンで確認が可能で、ダウンロードも可能だ。もちろん、CRMと連携することで、顧客情報をポップアップにて表示させることもできる。他にも、オペレーター自身の状態を通知するエージェントステータスタブもある。

図2 エージェント画面例 図2 エージェント画面例

コールフロー作成機能

 着信時、電話番号や待ち時間、エージェントスキルなどを加味したさまざまな条件を起点に、IVRや各種音源送出、実際のキュー着信などのアクションが行われるという、一連のコールフローがGUIにて簡単に設定できる。特に個別のインテグレーションが必要なソリューションの場合、SIerなどがノウハウを駆使してコールフローを設定していかなければならないが、クラウドサービスの場合は、Web画面からドラッグ&ドロップのみの簡単な操作で、それらをつなげるだけでコールフローが作成できるものも多い。複数のコールフローを設定しておけば、場面に応じて簡単に切り替えることができるだけでなく、臨時のフローから日常のフローへ戻すことも容易だ。

図3 コールフロー作成機能 図3 コールフロー作成機能

SV支援機能

 通常の運用では、一人のSVが複数のオペレーターを支援しながら顧客対応することになるが、その支援に向けた機能も実装されている。よく実装されているのが、オペレーターが電話対応中にSVが顧客に聞こえないようにアドバイスできる “ささやき”機能だ。他にも、顧客とオペレーターの会話をモニタリングし、必要に応じてエスカレーションするといった機能も実装されている。エスカレーションするためには、オペレーターのスキルが適切に管理、把握できている必要があるため、スキル管理といった機能も備わっている。

レポート機能

 顧客対応におけるKPIなどを可視化するためのレポート機能。ダッシュボード的にリアルタイムな情報が可視化できるものや、週や月別に対応状況の履歴が把握できるヒストリアル系のレポートが出せるソリューションが多い。この状況を見ながら、オペレーターの配置や増員も含めた日々の改善活動が行われていくことになる。なかには、CSVで情報を取得したうえでExcelなどを駆使してレポート作成せざるを得ないものもあるため、できればソリューション内できちんと分析、見える化できるものを選択したい。

図4 ヒストリカルレポート例 図4 ヒストリカルレポート例

外部連携機能

 コンタクトセンターソリューションと外部を連携させるための機能。外部にある顧客DBと連携させることで着信時に顧客情報をポップアップさせたりCRMとの連携で過去の取引履歴も含めた情報をエージェント画面に表示させたりするなどの連携が一般的だ。また、CRM側に対するコールログの提供や録音したデータをテキスト生成するためのツール連携なども行われるケースも多くなっており、特にSalesforceとの連携を求められるケースが多い。最近ではLINEや楽天グループが提供するViberをはじめとしたメッセンジャーとの間で、チャット連携や無料通話連携などを行いたいという要望も増えている。

クラウドコンタクトセンター最新動向

 ここで、クラウドコンタクトセンターに関する最新動向について見ていきたい。最近はAIを活用したソリューションの実装が期待されているなど、新たなテクノロジーを取り込む動きも出てきている。

AIを実装したIVRやチャットボットが話題に

 コンタクトセンターの機能として求められているものに、テキストによる会話が可能なルールベースのチャットボットや、音声による自動応答機能であるIVRがあるが、最近ではAIによってチャットボットやIVRがさらなる進化を遂げようとしている。IVRの場合、基本的には事前に選択肢を用意し、その数字を押すことで最適なオペレーターにつないでくれるようになるが、例えば料金について知りたいと音声で発言するだけで、AIが自動的に音声を認識し、その意図を理解したうえで必要な担当者につないでくれる。もちろん簡単な問い合わせであれば、AIだけで回答するといったことも可能になる。また、チャットボットにもAIの機能が実装されることで、これまでのルールをベースにした会話から、書かれたテキストにあった最適な解決策をAIが回答してくれるようになるなど、オペレーターにつなげる前にある程度の解決が可能になることも。オペレーターの業務負担を軽減するだけでなく、問い合わせに対する解決率も向上することが期待される。

声で本人認証を行う声紋認証にも期待が集まる

 最近ニーズとして強くなってきているのが、顧客の声をキーにして本人確認を行う声紋認証だ。従来は名前や生年月日、電話番号など複数の情報をもとに電話口で本人確認が行われてきたが、オペレーターの作業負担軽減はもちろん、最適な顧客体験につなげるために導入を希望する企業が増えている。特に保険業界などでは、保険を扱う代理店からの受電が多いため、代理店担当者の声で認証することで代理店情報をポップアップし、問い合わせ対応を効率的に行っている事例もある。また日々売り買いが頻繁に発生する証券業界でも、声紋によってKYC(Know Your Customer:顧客確認)がシンプルに行えるようになり、売買のたびごとに発生していた本人確認のプロセスが軽減できるようになったという事例もある。

コンタクトセンター領域にも迫るAmazon

 2018年12月にAmazonからから「Amazon Connect」と呼ばれるコンタクトセンターサービスの提供が開始された。100%クラウドベースで構築されており、日本語でオペレーターが英語を母国語に持つ顧客に話しかけると、リアルタイムにテキストで記述されるだけでなく、同時翻訳によって会話が成り立つようになる。すでに複数のインテグレーターがAmazon Connectをベースにしたソリューションを提供しているが、Amazonが持つさまざまなAI技術がサービス内に実装できる可能性も考えると、今後の動向が注目されるところだ。

サービス選びの勘所

 最後にクラウドコンタクトセンター選びのポイントについて紹介しておきたい。

今後実装予定の機能とロードマップの実効性を意識

 現状のクラウドコンタクトセンターのソリューションは、電話やメール、チャット、音声録音、SV支援といった基本的な機能はほぼどの製品でも網羅されており、機能的には大きな差別化が難しくなってきているのが実態だ。そこで注目したいのが、今実装されている機能ではなく、将来的に実装予定の機能拡張の部分。AIを活用したIVRやチャットボット、声紋認証といったこれからの機能は多くのソリューションで実装が予定されているところだが、それがいつ実装されるのかという点はしっかり見ておきたい。実装する予定があるのであれば、どんな技術をいつどういう形で実装するのかの具体的なロードマップは知っておくべきで、それが本当に実現可能な動きなのかも見極める必要があるだろう。

重視されるセキュリティやデータ保全も含めたBCP対策

 顧客との重要な接点となる基盤がクラウドにあることで、セキュリティが重要なポイントになるケースは多い。金融機関であればPCI DSSやFISC安全対策基準などが標準的な基準として話題になりやすいが、そもそもインターネット接続自体を行わずに利用したいというケースも当然出てくるはずだ。だからこそ、システム構成が柔軟に対応できるサービスを選択したい。また、顧客情報は社内のCRM内に設置し、APIなどを使って必要なタイミングに参照するだけといった仕組みが必要になるケースもあり、柔軟にインテグレーションが提供できるソリューションを選択すべきだ。なお、複数拠点での冗長化することで事業継続に向けた対策を検討する必要があるが、サービス側でどこまで実装されているのかはしっかり見ておこう。標準的なサービスでセンターの冗長化まで対応してくれているとメリットは大きい。

業界ごとのノウハウを持つことでの実績は重視したい

 コンタクトセンターの業務は、業種によってフロー設計やシナリオづくりがそれぞれ異なってくる。社内にそのノウハウがあればいいが、ある程度コンタクトセンターソリューション側にも業界特有のノウハウ提供は求めたいところだろう。だからこそ、自分が所属する業界へ導入した実績などがあればぜひ見ておきたい。なお、今回取材に協力いただいた楽天コミュニケーションズでは、対外的な実績もさることながら、金融からeコマースまで、グループ全体で手掛ける事業が数多くあり、それらのコール業務の多くを請負っている。業界固有のノウハウは蓄積されている点で、一見の価値はあるだろう。

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