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RPA導入のコツ、ロボコンを勝ち抜いた強者ロボットから学ぶ

従業員が工夫を凝らして創り上げたRPAロボットを発表し、順位を競うメタルワンのロボットコンテスト。上位に輝いたロボットは?

» 2019年02月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 従業員が工夫を凝らして創り上げたロボットを発表し、順位を競う「ロボットコンテスト」が開催された。ロボットといってもヒューマノイドロボットではなく、業務をソフトウェアで自動化するRPAロボットである。

 RPAの特長は、業務担当者がプログラミングの知識なしにロボットを作れることだ。しかし、実際にはソフトウェアを操作する基本的な知識と作成ノウハウが必要で、忙しい現場ではなかなか開発に手が回らないのが実情である。

 多忙な従業員の“RPAやる気スイッチ”を押す方法として、大手鉄鋼商社のメタルワンはRPAロボコンに取り組む。本稿は2018年末に開かれた「第2回 ロボットコンテスト」最終審査会の模様をお伝えする。栄光を獲得したロボットには、RPA活用のヒントが詰まっていた。

役員を前にした“真剣勝負”年末のプレゼン大会

 メタルワンは、2017年よりロボットコンテストを開催している。多忙な従業員が楽しみながらRPAに取り組み、商社ならではの細かく煩雑な業務を自分たちで効率化できないかを競う。

 2018年開催の「第2回 ロボットコンテスト」は、前年を上回る168件のエントリーが集まった。最終審査会は、あらかじめ選出されたトップ10のロボットの作成者が審査員となった役員にプレゼンを行い、順位と表彰を競う場だ。

 会場には100人以上の社員が観客として詰めかけ、熱気の中で審査が進んだ。作成部署の代表者が業務の課題とロボットの効果、今後の取り組みを発表する。

 「代行(部長代行)がパソコンみつめ数時間。まだぁとせかす、背後に部長――」

 5・7・5のリズムで業務の課題を伝える発表者もいて、笑いを誘いながらプレゼンを行う。審査員からも時に鋭い指摘をしつつ、楽しそうに質疑応答が交わされた。会場は終始、和やかな雰囲気だったが、プレゼンには自分たちの手で業務の課題を解決しようという熱意が込められ、取り組む姿勢は真剣そのものである。

「コラボレーション」が鍵、トップの座に輝いたのは?

 審査の指標は明確だ。「削減時間」「アイデア」に加え、第2回では新たに「コラボレーション」という項目が重視された。ロボットは創意工夫が凝らされており、実際の効果も高い。以下では上位のロボット2つを紹介する。自社のRPA活用のヒントにしてほしい。

1000時間の作業を削減、Excelマクロを生かす会計ロボット

 1位を獲得したのは、「赤黒勘定消込」という煩雑な会計業務を自動化するロボットである。

 赤黒勘定とは、いったん計上した伝票の金額を修正したい場合に、元の伝票を書き換えず、その内容を打ち消す伝票(赤伝票)と訂正後の金額の伝票(黒伝票)の2つを起票して計上し、訂正の記録を残しながら会計情報を修正する方法である。

 赤黒勘定消込は、Excelのシートで元の書類の金額とそれを打ち消す赤伝票の金額が一致しているかを突き合わせて確認し、数字を消し込む作業を指す。月次決算確定のために必須の作業だが、伝票の量が多く、年間作業時間は約1200時間にも上った。

赤黒勘定消込作業の概要 赤黒勘定消込作業の概要

 ロボットは、この作業全てを自動化する。Excelマクロと連動させたことがポイントだ。具体的にはRPAが勘定明細をダウンロードしてExcelシートに転記し、Excelマクロが消し込むべき明細を自動的に選択する。元の金額と、それを打ち消す赤伝票の金額が「プラスマイナスゼロ」であれば、ロボットが金額の一致を確認し、消し込み作業を行う。人手で15分かかる仕事を1分で完了できる。

 ロボットにより、年間約1000時間の業務時間削減ができる見込みだ。今後、他の部署とのコラボレーションによって、赤黒勘定消込作業を発生させる「伝票訂正業務」自体も自動化を実現させる見込みだ。

予実管理の残業に終止符を打つロボット

 予実管理の資料を作成するロボットも評価が高かったものの1つだ。全社で残業を増やしていた業務にアプローチした。

 同社では四半期に1度、社内会議のために、予実管理の資料を作成する。営業管理部と各事業部が連携し、それぞれ予算システムの決算データをダウンロードし、そのサマリーと分析結果、確定予算を記入する。企業戦略にかかわる重要な資料だけに手順は変えられず、締め切りまでの残業が問題になっていた。

予実管理資料の作成 予実管理資料の作成

 そこで、人の代わりにシステムからデータをダウンロードして、サマリーを作成するロボットを作成した。データのダウンロードは、1組織当たり約5分、全228組織で57時間分かかる計算だ。ロボットを夜間に稼働させて作業を終わらせ、無駄な待ち時間をなくしたことがポイントだ。

 担当者は、「残業を解消でき、QoL(Quality of Life)を向上できる。人間が注力すべき戦略策定などに時間を振り向けることで営業強化につながる」と効果を話す。今後、ロボットを部門横断的に利用して、業務の標準化と効率化に貢献したいと語った。

RPAで成功体験、効果が全社に広がる

 業務を一番に知る担当者が作ったロボットは、現場の悩みに答える実用的なものばかりだ。審査項目として「コラボレーション」があるように、部署を超えて協力しあい、全社の業務を効率化できる可能性を持ったロボットも多かった。「他の人が活用できるようにマニュアル作成などをはじめたい」「グループ会社にもコラボレーションを広げて、削減効果を2倍、3倍としていきたい」と意気込む発表者も多く、「同じ業務プロセスをとる他の商社に、ロボットを展開して新規ビジネスを開拓したい」という声も聞かれた。

 さらに、発表を通じて担当者の業務が皆に可視化され、RPAに関する知識やノウハウが共有されていたことが印象的だ。そのアイデアを活用したい、こんなアイデアはどうかといった議論も生まれていた。コンテストが経営層を含め他部署の業務やRPAに対する理解を深める場になっていた。

 回を重ねるごとにノウハウが積み重なり、社内外でRPA活用が広がる――そう期待が膨らむような会だった。

 表彰式では、全てのロボットが表彰され、発表者みながうれしそうな表情をうかべていた。

 メタルワンの代表取締役社長 執行役員 兼 CEOを務める岩田修一氏は「当社のこうした取り組みを今後も見守っていただきたい」と締めくくる。同社のRPA活用のエンジンとなっているロボットコンテストから今後も目が離せない。

「第2回 ロボットコンテスト」ファイナリストの皆さん(後列中央は代表取締役社長 執行役員 兼 CEOの岩田修一氏)

 ロボットコンテストの成功の背景にはロボコン運営事務局の存在がある。コンテストの裏側で、どのような苦労があったのか。開催までのさまざまな創意工夫や取り組みをこちらの記事で紹介する。

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