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脳で感じた印象を文字にする「fMRI脳情報デコーディング」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2017年12月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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「fMRI脳情報デコーディング」技術はどう生かされるか

 この技術は上述のように民間企業の映像コンテンツ評価サービスとして実用化されており、テレビCMなどの型式(ブランド型、商品訴求型など)や手法(実写、アニメーション)を問わず幅広く対応することが可能なことが分かり、動画広告素材全体としてのインパクト評価、あるいは広告主が動画クリエイティブに込めた狙いと、実際に獲得された印象との定量的ギャップ分析を行う目的で、社会実装が始まっている。

 同様の技術は他の研究機関(ATR脳情報研究所など)でも研究されており、睡眠中の人間の脳活動パターンから見ている夢の内容を解読する実験なども行われている。この研究によると、夢を見ている時にも、画像を見ている時と共通する脳活動パターンが生じているということだ。

 現時点では広告素材(動画)の改善、最適なクリエイティブ要素の提案、「出稿前の絵コンテ」による効果予測・評価などに効果的と考えられており、その目的での商用サービス利用が可能になっている段階だが、さらに購買行動にどう影響するのかまでも解析、予測可能になりそうだ。

 現在は単語を導きだすだけだが、西田氏らと他の研究機関の研究者とが共同して、脳活動から文章を生成する技術も研究途上にある。これができれば、脳卒中や筋萎縮症などにより発話できないような身体まひのある人の意思を他人に伝えられる新しいコミュニケーション手法にも活用できる可能性がある。また今回の研究は日本語を対象にしているが、異言語を使う外国人にも同様に適用できる技術であるため、異文化コミュニケーションにも利用できると考えられる。西田氏はそのような時代がそう遠くない将来にやってくると考える。

関連するキーワード

MRI/fMRI

 MRI(Magnetic Resonance Imaging、核磁気共鳴画像法)は、強い静磁場内において人間の体の水分(水素原子)に高周波磁場を加えて共鳴現象を起こさせ、発生する電磁波を計測して脳構造を画像化するための技術および装置のこと。水分が多い脳や血管のようすが克明に視覚化できる。fMRI(functional MRI)はMRI装置を用いて、脳活動に付随して生じる血流動態を観測し、脳内のどの場所で活動が生じているかを視覚化する技術のことをいう。

「fMRI脳情報デコーディング」との関連は?

 MRI装置とfMRI技術を用いて計測した知覚や印象に関わる脳活動を解読することで、知覚や印象の内容を映像や言葉などを用いて可視化するのが「fMRI脳情報デコーディング」技術である。

BMI(Brain-Machine Interface)

 脳活動を脳波(脳内の電位の動き)などで捕捉し、機械の制御につなげる技術の総称。例えば、身体まひのある患者の運動機能の回復や運動支援の目的で臨床的な応用が進んでいる。また視線の動きなどの情報も加味しながら文字を選んで、キーボードがわりにコンピュータへの入力とする研究もある。脳活動をリアルタイムに捉えられるEEGが利用されることが多く、比較的簡易な装置で脳活動が捉えられることを重視している。

「fMRI脳情報デコーディング」との関連は?

 fMRIでは非常に高い空間解像度で脳の血流動態が捉えられるが、活動の始まりからピークを迎えるまでに数秒がかかるため、時間解像度はEEGなどに比べて低い。また計測装置も大掛かりなものになる。そのため、運動機能の支援などのリアルタイムに情報処理が必要な用途には向かないが、知覚や印象などの解読目的には有効に利用できる。

word2vec

 2013年にGoogleが開発、発表したテキスト処理を行うニューラルネットワーク。多くのテキスト情報の中から、そこにある単語のそれぞれについての特徴(特徴ベクター)が出力できる。単語の意味をうまく捉えた特徴を数値で表現することで、計算に利用できるので、さまざまな用途で使われるようになった。

「fMRI脳情報デコーディング」との関連は?

 fMRIで捉えた脳活動情報と単語を対応づける「言語特徴空間」を構築するためにword2vecが利用されている。word2vecは分散した単語を、人が介在しなくても、その特徴(特徴ベクター)に基づき、言語特徴空間内に数値化して表現する。その空間内では各単語が類似性に基づき点として分散している。fMRIで捉えた特定の脳活動を、空間内の特定の1点に対応づけるのが西田氏らの脳情報デコーディング技術のポイントだ。

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