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» 2017年10月31日 10時00分 公開

ロボットが小脳を持つと何が起こるか〜「リアルハプティクス」とIoA(Internet of Actions) (1/2)

今までのロボットに足りなかったものは「小脳」。触覚と操作の記憶を流通させる「動作のインターネット」とは? リアルハプティクスの産業応用がどこまで進んでいるかを取材した。

[原田美穂,キーマンズネット]

 ハプティクスという技術をご存じだろうか。平たくいえばハプティクスは人間の触覚を拡張する技術だ。「触覚フィードバック」「フォースフィードバック」とも表記されることもある。触覚へのフィードバックを機械やソフトウェアを使って再現する技術だ。

 触覚フィードバックとは、例えば、何かのモノに力を加える動作を行う際、モノからの反作用の力を計測し、モーターなどの装置を使ってその力を機械的に再現しで伝達することを指す。こうした、モノに触れた「感触」を感じ取ることができれば、生卵を割らずに持ちながら、同じ装置で堅く重い石を落とさないようにしっかりつかんで運ぶ、といった処理が可能になる。

風船のゴムの反発感も即座にフィードバックされるので、遠隔でも「ぐにぐに」ともむ操作も可能 風船のゴムの反発感も即座にフィードバックされるので、遠隔でも「ぐにぐに」ともむ操作も可能(出典:慶應義塾大学)

今までのロボットになかったのは「小脳」の機能

 本稿では、このハプティクス技術のうち、近年産業向けに実用化が進む「加速度規範双方向制御方式」による高精度力触覚技術「リアルハプティクス」を取り上げる。リアルハプティクスでは、力触覚フィードバックを使った協調操作を行うことで、モーション制御の中でも、「位置」と「力」を協調させた複雑な動作制御を実現する。人間の脳で例えると、知覚や運動制御を統合する小脳に近い機能だ。

 このリアルハプティクスの実用化に積極的なのが、慶應義塾大学だ。リアルハプティクス研究の第一人者であり、関連特許も持つ大西公平教授(理工学部システムデザイン工学科)が所長を務める同大学先導研究センター・ハプティクス研究センター(以下、ハプティクス研究センター)は、ハプティクス技術に特化した研究開発や産学官連携を進めており、「CEATEC JAPAN2016」では義手のデモ展示で注目を集めた。2017年10月3〜6日に開催された「CEATEC JAPAN2017」では、この技術を利用した「柔らかいロボット」の産業界への適用例や開発成果を見ることができた。

例えばカテーテル操作をより精緻に――身体感覚の伝送、増幅

 1つ目の展示は「General Purpose Arm」と名付けられた「身体感覚を伝送する」双腕型ロボットだ。こちらは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と慶應義塾大学(野崎貴裕 理工学部システムデザイン工学科助教、村上俊之同学科教授、ハプティクス研究センター)による共同開発だ(NEDOでは2015年策定された政府「ロボット新戦略」を契機に現在に至るまで「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」を継続して推進している)。

 ここでいう「身体感覚の伝送」とはハプティクス技術を利用して、ロボットが触れた感触を自分の手にフィードバックしたり、あるいは逆に手の感覚を頼りに「重さ」を感じながら何かのものを動かしたり、といった操作を指す。触覚だけでなく、視覚、聴覚、移動感覚も伝送。複数の感覚器官からの情報を使って、より人間の感覚や判断に近い動作で遠隔のロボットを操作する仕組みだ。応用分野としては、産業、家庭、福祉介護、医療、農業など、人手や手間のかかる分野の自動化や省力化、人間と強調した産業での活躍が期待されているという。

 機械からのフィードバック情報は、意図的に増幅させたり抑制したりといった操作も可能だ。例えば、針の穴に糸を通すような精緻な操作が必要な場合、動作の振れ幅を抑制して伝送したり、逆にちょっとした動作を数倍大きく伝えたりもできる。例えば、この技術を医療用カテーテルの操作に応用したら、より安全で安定した医療が可能になるかもしれない。

 もちろん、医療従事者だけでなく、例えば歩行や外出が困難な方に対して、リアルハプティクスとVRなどを駆使して、外出やアクティビティーを身体感覚として楽しんでもらうような利用方法も考えられるだろう。

 この技術を利用すれば、高所や生物の生存が難しい場所でもロボットを使って人間のように活動できることから、「人の存在や行動を時空間的な拘束から解放できる技術」であるとしている。

柔らかなペットボトルに入った水を、柔らかなコップに注ぐ。どちらの重さも変化するが、つぶさずに保持できる 出典:慶應義塾大学 柔らかなペットボトルに入った水を、柔らかなコップに注ぐ。どちらの重さも変化するが、つぶさずに保持できる(出典:慶應義塾大学)
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