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社員のスキルを把握できているか? IT時代に見直したい3つのこと

「今後5年間でテクノロジーの進展が仕事に与える変化をどう捉るか?」という質問に、日本人の32%が「脅威」と答えた。技術が発展し、労働をとりまく環境が変化していく中、企業や労働者何をすべきだろうか。

» 2017年05月30日 10時00分 公開
[溝田萌里キーマンズネット]

 AIやロボティクスといった技術が発展し、労働をとりまく環境が変化していく中で、企業や労働者はどのように対応すべきだろうか。テクノロジーの進展を日々目にして、脅威を感じる人も多い。昨今では、「AIに仕事を奪われる」と危機感をあおる情報が出回り、戦々恐々とする方もいるだろう。

 とはいえ、この感情は世界のスタンダードではないようだ。アクセンチュアの調べでは、日本は世界に比べ、テクノロジーの変化に対してネガティブな反応を示す層がやや多い傾向にあるという。図1は、2016年11月から12月まで、日本人992人を含む、G20加盟国10カ国の労働者1万527人を対象に行った「雇用・働き方の未来」に関する意識調査の結果だ。

図1 テクノロジーの進歩に対する日本人の意識 図1 テクノロジーの進歩に対する日本人の意識

 「今後5年間でテクノロジーの進展が仕事に与える変化をどう捉えているか?」という質問に対して、日本人の32%が「脅威」と答えている。本稿では、こうした労働をとりまく日本人の意識とともに、昨今の労働環境の変化を確認する。加えて、日々起こる変化に対応しつつ、事業の生産性をいかに高めていくか、アクセンチュアの提言を見ていこう。

 「今後5年間でテクノロジーの進展が仕事に与える変化をどう捉えているか?」という質問に対して、日本人の32%が「脅威」と答えている。本稿では、こうした労働をとりまく日本人の意識とともに、昨今の労働環境の変化を確認する。加えて、日々起こる変化に対応しつつ、事業の生産性をいかに高めていくか、アクセンチュアの提言を見ていこう。

成長意欲は高いが、実行に移せない日本人

 AIなどの技術進歩を含め、日本の労働を取り巻く環境は刻々と変化している。とはいえ、どう変化に対応すべきか分かっている人は少ないのではないだろうか。アクセンチュアの調査結果によると、日本人は適材であり続けるための意欲が高いにもかかわらず、実行に移せない傾向にあることが明らかになっている。

 以下の図を見ると、「適材であり続けるために、日常的に新しいスキルを獲得することをどう捉えるか」という質問には、86%の人が「重要」と答えている(図2)。全体の平均から見れば低い数字にとどまっているが、少なくとも8割の日本人が成長意欲を持っていると分かる。一方で、「新たなスキルを学ぶために、今後半年の間、個人の時間を割ける状態になっているか」という質問には「なっていない」と回答する人が37%に上った(図3)。

図2 スキルアップへの意識調査 図2 スキルアップへの意識調査
図3 習得すべきスキルを分かっているか 図3 習得すべきスキルを分かっているか

 人材のマネジメントも難しくなっている。AIやロボティクスが自動化できる業務を代替するようになると、人間が行うべき業務の再分配が必要になる。それだけではなく、人口減少と高齢化の波によって1人が生涯の中で働く期間は伸び、企業や事業の寿命を追い越すようになった。そのため、1人が1つの企業にとどまらず、複数の企業で働くことが当たり前になりつつあり、人材の流動性は高まっている。また、働く人の価値観も多様化している。

 「職業人生が長期化し、価値観も多様化する中で、企業のかじ取りは難しくなってきている」とアクセンチュアの戦略コンサルティング本部マネジング・ディレクターの高砂哲男氏は語る。変化に対応しつつ、事業の生産性を高めるために何ができるのか。同社は、個人のスキル、付加価値を最大化するということを目標に3つの施策を提言している。

個人の付加価値を最大化する「リスキル」

 高砂氏は、個人の付加価値を高めるというテーマで3つの施策を提起するが、とりわけ1つ目の施策であるスキルの再構築が重要だと主張する。

 同社は、これを「リスキル」と呼ぶ。なぜリスキルが必要なのだろうか。それは、同社が「仕事にどのスキルが必要なのかという認識が日本では曖昧であり、スキルの生かし方も分かっていない」と考えるためだ。確かに「人に仕事がつく」という言葉が表すように、日本では仕事が属人的になる傾向にあり、仕事別に必要な能力が見えにくい。実際に、自分のスキルがその会社でしか生かせない、会社特有のものと考える人も多いという。

 高砂氏は、リスクルートワークス研究所が2015年に、日本、米国、中国、タイを対象に行った調査を挙げ、自分のスキルは「どの会社でも生かせる?」「この会社だからこそ生かせる?」という設問に対し、日本では「この会社だからこそ生かせる」と答えた人の割合が44%に上ったことを示した。これは、20%前後にとどまるその他の国と比べて、多い数字である。

図4 日本人の44%が自分のスキルは「この会社だからこそ生かせる」と回答 図4 日本人の44%が自分のスキルは「この会社だからこそ生かせる」と回答

 「これでは個人の能力を最大限に発揮することはできない」というのがアクセンチュアの考えだ。同社は仕事に必要なスキルを整理・見える化し、AIやロボティクスと人間の領域を再分配し、「リスキル」で事業を加速させることを提言する。

 例えば、自社の承認ルールや営業システムの操作方法など、いわば「業務をするための業務」は機械で自動化すべき領域である。一方で、仕事の裏側にある論理的思考や計画を推進するスキルなど、会社や業界を横断して活用できる能力は、人間が注力して習得していくべき領域だ。

 リスキルでは、こうしてスキルを整理し、より前者に近いものは機械によって自動化し、あるいは機械によって学習の支援をしつつ、後者に近いものに労力や時間をかける仕組みを作っていく。

 実際に、幾つかのリスキルに成功した企業の事例もあるという。例えば、アクセンチュアでは、約1万7000件のポジションを再定義してリスキルを行い、退職者を出すことなく付加価値の高い業務に移行させることに成功したとしている。

 また、大量の店舗を有する某企業においては、モバイルトレーニングアプリを活用し、学習の効率化を実現させた。季節や顧客によって何を入荷するのかといったノウハウを学ぶにあたって、機械がデータを基にあたりを付けたパターンを提案することで、学習スピードを上げたという。その結果、生産性は10%から25%にまで上がり、育成コストは30%から50%削減した。離職者も20%から40%まで減少している(図5)。

図5 テクノロジーを活用して、社員の学習効率をアップ 図5 テクノロジーを活用して、社員の学習効率をアップ

働く環境を整備し、人材獲得のパイプラインを強化

 2つ目の施策として同社が語るのは、能力を発揮しやすい働き方を整備することだ。現在の日本ではキャリアプランの自由度が低く、柔軟に働く制度が整っていないという現状がある。「就きたい職種に就けない」「自分のスタイルに合った働き方ができない」といった不満はそこかしこで聞く問題だろう。

 そこで、アクセンチュアでは、多様なキャリアパスを実現させる幾つかの仕組みづくりを行っている。例えば、同社は、世界中で募集しているポジションを検索し、応募することを可能にすると主張する(図6)。同時に、事業の形をルーティン型からプロジェクト型に移行し、さまざまな能力を持った社員がコラボレイティブに働けるような場を整える。時間や場所によってパフォーマンスが制限されないよう、リモートワークといった制度を導入するなど、働き方への柔軟性も高まってきた。

 このように、多様なキャリアパスを実現する制度や場を整備することで、柔軟に個々のスキルを組み合わせて、個人のスキルを最大限に発揮することを図るとアクセンチュアは話す。

図6 社内で多様なキャリアパスを用意する 図6 社内で多様なキャリアパスを用意する

 また、同社は3つ目の施策として、人材獲得のパイプラインを強化し、社内だけでなくプロジェクトに必要な人材を多方面から採用することを試みている。今後は、HRtechなどのツールを使って、これを実現していく方向だ。

図7 社外からもプロジェクトに必要な人材を獲得 図7 社外からもプロジェクトに必要な人材を獲得

 スキル革命というテーマでこの3つの施策を具体化するためには、相当な労力が必要なことが予想されるが、本稿では幾つかの面で成功例があるということも見てきた。AIや機械が進歩し、労働環境も日々刻々と変化していく中で、1つの指針となるかもしれない。

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