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仕事を奪う略奪者なのか? 業務効率化に寄与する「RPA」の現実

仕事を奪う略奪者として警戒される向きもある「RPA」。その実態について迫りながら、RPAがどう役立つのか、ポイントを解説する。

» 2017年03月15日 10時00分 公開
[安部慶喜アビームコンサルティング]

アナリストプロフィール

安部慶喜(Yoshinobu Abe):アビームコンサルティング 戦略ビジネスユニット 執行役員

製造業、卸売業、サービス業、運輸業、銀行、保険、エネルギー業界など、各種業界向けに、経営戦略立案、制度、業務改革、組織改革、ERP導入、法制度対応、成功報酬型コストリダクション、新規事業支援など、幅広い領域でコンサルティング業務に従事。RPAサービス全体責任者として、多数の企業へのRPA導入を実現。


 AIやIoTに続くキーワードとして最近注目されているRPA(Robotic Process Automation)。このRPAと呼ばれるソリューションは、業務の効率化に大きく貢献してくれるものとして多くの期待を集めているが、一部ではAIの議論同様に「われわれから仕事を奪っていくのでは」と過激に反応する方もいるようだ。これはある意味真実ではあるものの、本質的な答えとはいえない。そこで今回は、RPAがそもそもどういった位置付けにあるのか紹介していきながら、RPAのソリューション動向について概観していきたい。

RPAの基礎知識

 RPAは、文字通り「ロボットを用いて業務プロセスを自動化するための仕組み」であり、これまで人間が行ってきた作業を人間に代わって実行してくれる業務自動化技術およびツール群を指す。

 ともすれば生産現場で動く工業ロボットやPepperなどの人型ロボットのようなイメージを持つ人もいるが、RPAはあくまでソフトウェアそのものであり、サーバやPCなどコンピュータの上で動作する。ただし、財務会計パッケージや営業支援ツールなど、いわゆる業務特化として正規化されたソフトウェアとは異なり、人が行う業務は全てこのRPAの対象となるのが特徴だ。

 人がやっている作業と同じことを行うという意味で、RPAは仮想労働者(デジタルレイバー:Digital Labor)とも評されている。もっと分かりやすく言えば「絶対に命令通りにしかしない、ものすごく処理速度の速い部下」というのがRPAの本質だ。

 実はAIとの違いもよく話題になりがちだが、RPAの大きなくくりの中にAIやIoTなどの一部が入る部分はあるものの、現段階ではAIが持つ機能を使ってRPAに何かの判断をゆだねることはない。命令されたプロセス通りに動いていくものがRPAであり、いわばAIが頭脳であればRPAは手足といったイメージだろう。

 実際にAIとRPAを組み合わせる例としては、機械学習を行うAIエンジンに対して手足となるRPAが情報を与え、そしてAIからもたらされた答えを業務で使う際に再びRPAを利用する、といった例が分かりやすい。

将来のRPA 図1 将来のRPA(出典:アビームコンサルティング)

 AIでも業務支援という意味では同じことができそうだが、シーンによってはRPAの方が便利に活用できることもある。

 例えば不正をしている人を見つけるという作業をAIとRPAに任せてみたとしよう。AIの場合、99%の人は不正はしていない「らしい」という答えを導き出してくれるが、それが本当に正しいかどうかの保証が別途必要になる。そうなると、99%の人に対してもサンプルチェックを行うことが求められる。

 対してRPAの場合は、不正かどうか判断するルールに基づいて振り分けるだけであり、正しい人が90%いて残り10%が判断できないといった答えの出し方になる。つまり、判断できない10%だけをチェックすれば済むことになり、AIに比べて確認作業が少なくて済むということも出てくる。

 AIが必ずしも全ての業務に有効なわけではなく、場面によってはRPAの方が省力化に寄与することもあることは理解しておこう。

RPAが注目されるわけ

 RPAが注目される理由の1つに、Industrie4.0をはじめとした第4次産業革命の流れの中で、IoTやビッグデータ、AI、ロボットなどの技術革新が前例のないスピードで進み、大きなインパクトを与え続けていることが挙げられる。日本の経営者もこうした流れに追随し、何か新しいことにシフトできる機会をうかがっているのが本音だろう。

 ただし、AIなどはまだまだ研究段階のものも多く、すぐに日常業務に役立つものには至っていない。そこで注目されたのが、目に見える成果が短期間のうちに生み出せるロボットとしてのRPAだ。これから売上を伸ばしていくためにも、生産性を高めていくことが必要であり、その効果がはっきり出せるという意味で、RPAに寄せる期待も大きなものになっている。実際に当社でRPA案件の状況を見ると、2016年下期では前期に比べて10倍以上の伸びを示している状況だ。

RPA取り組み会社数の増加 図2 RPA取り組み会社数の増加、アビームコンサルティングのRPA案件関与者数(2016年下期は1月現在)(出典:アビームコンサルティング)

 また、長時間労働という社会問題に対して労働時間を削減していく流れが日本企業にあり、働き方改革に取り組む企業が増えたこともRPAが注目される1つのポイントだ。残業時間を減らすといっても業務量を減らすわけにもいかず、人も増やせるほどの体力もない。

 そこで業務改革に取り組もうとするが、効果が出るまでには多くの時間がかかってしまう。だからこそ、短い期間で実装し、すぐにでも効率化としての効果を出すことができるRPAに多くの企業が注目しているのだ。しかもRPAによって削減できた時間を、自身の業務を高度化するために使うことができれば、事業の拡大を現状の人員のままで行っていくことも可能になるはずだ。

 実は、ネガティブにコストを減らしたい、人員を削減しないといけないという企業よりも、バックオフィス業務を高度化し、売り上げを伸ばすための業務に時間が確保できるようにしたいという企業の方がRPAは向いている。

これまでとは異なるRPAのアプローチ

 RPAが今注目されているのは、もちろん業務の効率化に寄与するためだが、業務効率化のためのアプローチとしてはBPRを思い浮かべる人も少なくない。多くの企業はこれまでのBPRをはじめとしたさまざまな業務改革に取り組んできているはずだが、これまで行ってきたBPRのような動きとRPA的なアプローチは、一体何が違うのだろうか。

 業務改革の中で業務をまとめ、標準化をしていくことで業務の効率化を図るBPRの場合、各部署にヒアリングをかけて業務の棚卸を行い、理想的なプロセスから現場とのギャップを埋めていき、最終的には標準プロセスを作り上げていく。このプロジェクトは一般的に数カ月〜1年あまりを要する大掛かりなプロジェクトになることが多く、プロジェクト完了までには多くの時間と手間が発生する。

 しかし、RPAは日常的に行われている業務そのもののプロセスを見直すことなく、そのままロボットが同じ作業を自動化していくアプローチだ。つまり、現状の業務をロボットに覚えこませ、それをそのままソフトウェアで実行していくだけであり、プロジェクトそのものは短期間のうちに完了させることができる。実績ベースでみると、2カ月程度あれば複数のロボットを現場に実装できるレベルだ。しかも、仮想労働者であるRPAであれば、人の何十倍もの仕事をしてくれる。

 BPRは確かに大きな効果を生むことも多いが、短期的にRPAで自動化を進めていくことで、まずは省力化としての効果を出していくことが大切だ。そして業務をロボットで行っても負荷がかかるものがあれば、その部分のプロセスを再検討してシステム化していうというアプローチが理想的だろう。

RPAプレイヤーの傾向

 さまざまなプレイヤーがRPAをソリューションとして提供し始めているが、ツールという面で見ると大きく2つの出自のものが挙げられる。1つが多くの単純作業を効率化するために用いられてきたコールセンターシステムからきたもの、そしてもう1つがRPAをコンセプトに起業したベンチャーが開発したものだ。

 市場ではこの2つが半々で市場をけん引しているが、さらにRPAと呼べるレベルかどうかは微妙ながら、デスクトップツールとしてテンキーの自動入力を行うフリーウェアなども少なくない。ただし、あくまで個人で利用するレベルのものにとどまっており、全体の運用管理やセキュリティの面で企業が利用するには心もとないものが多い。

 なお、技術的にはクリックするオブジェクトなどをもとに画面操作をトレースし、業務フローをプログラムとして認識することになるが、この認識の方法が画面上の座標によって位置を認識するものと、オブジェクトによって認識するものに分かれる。

ビジネスシーンで活用されるRPAの実態

 RPAの適用範囲だが、実際にはPC上で行うものでルール化できる業務は全て対応することが可能だ。既にPC上でシステム化されているものは当然あるはずだが、実際にはシステム化するほどのボリュームがない業務や複数システムにまたがる業務、そして流れややり方の変更が多く発生する業務などは、いまだに手作業で行われている部分が多い。そんな業務に対しても、ルール化できるものであればRPAを適用することが可能だ。

RPAによる業務解決の方向性 図3 RPAによる業務解決の方向性(出典:アビームコンサルティング)

 実際に業務についてルール化できないと回答する現場も少なくないが、実際に業務を棚卸してみると、複雑な判断処理ではあるもののルール化できるものがほとんどであるというのが実ビジネスでの感覚だ。人の顔色を見て判断するようなものは確かに感覚的なものであり、それをルール化するのは至難の業だが、PC上の処理から離れない限り、何か制約があってロボット化できないというモノは少ないと考えられる。

 例えば勤怠データから不正や入力ミスを見つけるという業務が実際にあり、これも当初は怪しいという判断が人事部の感覚でしかなく、ルール化できないと考えられていた。しかし実際にヒアリングをかけてみると、前後の数字や数週間の流れなどから人事部内の知見で怪しい人をこれまで見つけてきており、このポイントをルール化することでRPA導入が成功した事例もある。

 不正かどうかの判断は人が行うが、そのリスト作りは全てRPAがルールに基づいて行うことで、大きく省力化に役立ったという。もちろん、if文を使って条件分岐できるため、ルール化できる判断であればRPAにも可能だ。

 ちなみに、ルール化できないものの例では、高額な交通費を請求している人物ランキングの中から、普段の行動や人柄が怪しいと思われている人だけに狙いを定めて調査し、結果として不正を見つけるといった業務が挙げられる。この場合「怪しい」というのは普段の行動や判断する人の好みなど完全に属人化してしまっており、この場合は当然ながらRPAの対象にはなり得ない。

RPA導入を検討する部署

 RPA自体はあらゆる企業に適用できるソリューションだが、その中でどんな部門がRPAに取り組んでいるのだろうか。これまでの状況を見ていると、情報システム部門よりも業務部門が導入から運用管理までを行っているケースが多く、われわれに寄せられれている案件の8割以上は業務部門が実際に運用しているのが実態だ。

 また相談に来るのは、業務改革を行うプロジェクト担当者や働き方改革などを手掛ける部門が多く、経営企画や業務改革室、人事部などが主なターゲットになっている。ただし、問い合わせした部署が導入するのではなく、全社改革としてどこか特定の部署をターゲットにまずは導入していくことが多い。

 実際にどんな処理をRPAが実行しているのかについても見てみると、主にシステム同士をつなぎ合わせる業務やシステムからデータを取り出して加工した上で別のシステムに渡す業務、特定のシステムからデータを抽出し、会議に使える形に加工する業務などが具体的に多くなっているところだ。これら業務の多くは、Excelを用いて手作業にて行っているケースが多く、こういった部分をロボットが担うことになる。システムの周辺業務に対してRPAは期待されているのが現状だ。

RPA実装の手順

 RPAは、システム開発のように要件定義を行った上で構造化し、それをプログラミングしていくといった手順で実装されるのではなく、実際の手順を記録し、それをトレースしていくことでプログラムとして自動化の仕組みが生成される。

 ただし、オーソドックスな作業手順を覚えこませることはできるが、イレギュラーな処理に対しては事前に定義してあげる必要がある。例えばメールに添付されているファイルを読み込んで何かに転記するという処理があった場合、10件に1件はメールが添付されていないケースがあれば、その処理をスキップするのか、メールの宛先に対して添付されていないことを通知するのかといった処理を定義する。

 また、Excelを上から順番に見ていきながら処理し、Nullの部分で処理をやめるようにした場合でも、たまたま1行だけNullになってその後からまた情報が記述されているようなシートがある場合、単なるNullという定義だけではない別のツールを設定してあげる必要がある。

 結局のところ、入れたらすぐに使えるわけではなく、多少の業務設計が必要にはなることは頭に入れておきたい。入れてすぐに改善できる魔法のツールではないのだ。

 なお、RPAのツールの中には、クライアント側にてスタンドアロンで動作するものもあれば、サーバ側にロボットを配置することで集中管理できるものも存在している。そうすれば、クライアントごとに環境が異なる「野良ロボット」を排除することも可能となるため、例えば経費精算などの省力化にロボットを活用するのであれば、集中管理可能なクライアントサーバ型のRPAが便利だろう。

RPA選びの勘所

 新たな技術などの実装が進むRPAは、まだ発展途上の段階にあるといえる。それでも、既に導入したことで結果を出している企業も増えつつある状況だ。そんなRPAを選ぶ際には、どんな視点で見ておけばいいのか、そのポイントについて幾つか紹介してみよう。

技術的な違いからの選択

 RPAを実装する際には、実際の操作を画面上の座標で認識するのか、オブジェクト単位で認識するのかの違いがあると紹介したが、それぞれの特徴についてもあらためて理解しておきたい。

 座標の場合は、上下左右の位置を座標として捉え、その座標部分をロボットがクリックする、といった命令がプログラムとして設定される。この方式の場合、画面上にあるどんなオブジェクトでも認識することは可能だ。ただし、PCの解像度が変わってしまうと位置が変わってしまうため注意が必要になる。Officeのバージョンアップでも解像度が変わってしまうため、それだけでロボットを作り直す必要が出てくる。

 対して、オブジェクトそのものを認識するものは、確かにオブジェクトとして認識できるものとできないものがツールによっては出てくるが、画面の解像度などが変わってもオブジェクトとしての認識は変わらず、きちんと動作させることができる。ビジネスで利用する場合、どちらかというと後者のソリューションのほうが向いていることが多い。

 なお、最近では90%はオブジェクトで捉え、それで認識できない残りの10%は座標で捉えるといった、双方の技術が利用されているものも出てきている。

RPAが動作する場所の違い

 RPAによって作られたロボット、いわゆるプログラムがどこで動くのかという部分も製品選びのポイントになってくる。そもそもロボットは、個人が所有するクライアント上で実行されるものと、サーバサイドで実行させるものに分かれているが、プログラムの管理という面ではサーバサイドの方が集中管理できるためメンテナンスの面でもメリットが大きい。

 また、クライアント側で動作するものは画面を占有する必要があり、RPAで業務を実行している間は他の作業ができないケースもある。昼休みの間や夜にPCを立ち上げたまま夜中に実行するといった運用が必要になるため、クライアント側で動作するものの場合は運用上の注意が必要になる。

 なお、RPAの中には、複数のサーバで運用することが必要なシステムからきたものもあれば、ユーザーツールとしてライトに提供されているものもあり、構成だけみても大きな違いがあるケースもある。大量処理させるのであれば当然複数サーバで動かす方が効率はよくなるため、RPAに何をさせたいのかによってツールそのものを見ていく必要はあるだろう。

導入するパートナーの力量

 RPAは業務効率化を実現するためのツールとして有効だが、どの環境に入れても効果を発揮するわけではなく、業務に合わせた使い方をしていく必要がある。業務部門が中心となって使っていくツールなのか、システム部門が構築していくツールなのかによっても選択が大きく変わってくるため、自社の開発、運用体制もしっかり見据えながら、実装部分についてのアドバイスを行うパートナーをしっかりと見定めていく必要があるだろう。

 なお、ツールでは数千万レベルのコストがかかるものもあるが、月額のサブスクリプションモデルで利用できるサービスメニューを備えたサービスを提供するベンダーもある。提供形態の違いについてもきちんと見極める必要は当然あるが、よく事前のコンサルティングに多くの費用が発生するサービスも少なくない。

 しかし、せっかくの業務効率化に多額コストをかけるのは本末転倒だ。「削減するのに高いお金をかけても意味がない」ということを念頭に、パートナー選びからしっかりコストを意識して選んでいく必要がある。

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