実践的サイバー防御演習「CYDER」って何？：5分で分かる最新キーワード解説（3/3 ページ）

これからの課題は？

　出張して受講する時間とコスト（交通費や宿泊費は自前）にもかかわらず、2016年度の自治体向け演習には全国1788の自治体のうち約680から合計1300人以上の応募があった。定員オーバーで受講できない組織もあった。

　そもそもの枠がこれでは少ない。枠の設定は国の予算によるが、NICTによると大幅増額する要求を行った。増額されれば枠を増やすことも可能になりそうだ。本来なら1組織のインシデント対応スタッフ全員が受講できるのが理想だ。

　また、演習期間もごく短く、反復しての演習や別課題での演習などがほぼできていない。こちらは自治体などの受講する側の都合もあり、特に小規模な市町村では、別業務を兼務しているスタッフを、地域ブロック内とはいえ長期間、出張させることが難しいのだ。

　実機での演習の実施にはチューターが受講者の傍で指導することが前提なので、望ましいスキルセットを身に付けるために必要な演習時間と、受講者が現実的に確保できる演習時間との間にかい離があり、解決が難しい問題だ。

　また、民間企業への対象の拡大も課題の1つだ。サイバー攻撃の対象になるのは官公庁や自治体、重要インフラ企業が非常に多いことから、公的機関の人材育成が優先されることは当然だが、現時点では重要インフラ企業について、特に地方においてほとんど手が回っていない。

　また、現実的にはこれらの組織と取引などの関係がある一般の民間企業から窃取した情報を用いて対象の公的組織攻撃の材料にすることが十分に考えられる。その意味では、企業規模の大小を問わず、サイバー攻撃防御体制が必要だ。

　税金を使ってその演習や人材育成を行うことに異論があるだろうが、現実に本番環境を使っての模擬演習は難しく、限定的な模擬環境では不十分な場合も多い。セキュリティ専門会社によるペネトレーションテストや標的型攻撃対応訓練などが利用できるといっても、インシデントハンドリングのプロセスの多くをカバーするサービスはまだ少ないようだ。

　企業システムの管理担当者向けの同様の演習が低コストで提供されるなら、積極的に利用したい企業は多いだろう。現在の対象組織だけでも対応しきれていない状況から、一般の民間企業への提供はたとえ視野に入っているとしても、だいぶ遠い先のことになるだろう。この面での前進を望みたいところだ。

関連するキーワード

CSIRT

　危機管理のためのインシデントマネジメントを統括する組織。国際組織、国や地域の代表組織、行政機関や民間企業などの内部のCSIRTがある。国際的には「国際CSIRT」、CSIRTネットワークである「FIRST」などがあり、日本ではJPCERT/CCと、内閣サイバーセキュリティセンター（NISC）が国としてのCSIRTになる。中央省庁ではCSIRT整備が進み、地方自治体や企業にも設置の動きが近年加速する。

「CYDER」との関連は？

　直接関連するものではないが、CYDERの目的がサイバー攻撃で生じるインシデントに対応できる人材の育成であるところから、組織内CSIRT担当スタッフの実践的な訓練の場として有効に活用できる。

インシデントハンドリング

　CSIRTの役割であるインシデントマネジメントの重要な一部分を占める業務であり、本文中の表に掲げたような業務のことをいう。セキュリティインシデントの発生を把握し、優先順位を付けながら分析、対処を行う。外部業者や関係機関などとのコミュニケーションを行い、適切なタイミングで報告や公表を行いつつ、収束までの管理を行う。

「CYDER」との関連は？

　CYDERは主に標的型攻撃のケースを想定して、インシデントハンドリングの具体的プロセスを学ぶ演習だ。

トリアージ

　もともとは災害時などの負傷者を深刻度や緊急度によって分類、仕分けして治療や病院などへの搬送の優先順位を決めることをいうが、インシデントハンドリングにおいてはインシデントの影響の大きさなどの深刻度と緊急性を判断し、対処の優先順をつけることをいう。対処が必要なインシデントか否かを含め、一次分析が必要になる。分析結果の判定には、一般的にはあらかじめ基準を用意する必要がある。

「CYDER」との関連は？

　CYDERにおいてもトリアージは重要な演習項目の1つとなる。