特集
» 2016年10月19日 10時00分 公開

すご腕アナリスト市場予測:基幹系システムのクラウド移行は進むのか? 日本のIaaS、PaaS事情 (1/4)

企業のクラウド活用は一般的となったが、IaaSやPaaSの活用領域は想像以上に狭い。その理由と領域拡大のために必要なものとは?

[安井 望,デロイト トーマツ コンサルティング]

アナリストプロフィール

安井 望(Nozomu Yasui):デロイト トーマツ コンサルティング パートナー、デロイトエクスポネンシャル ヴァイス・プレジデント(デジタルテクノロジー担当)

ジャパンテクノロジーリーダー。製造業を中心に、業績管理、原価管理といった経営管理業務の再構築プロジェクトに多数従事。サプライチェーンマネジメント(SCM)の分野でも計画系を中心に業務改革プロジェクトを多く手掛けてきている。企業グループ全体におけるマネジメント最適化、業務/システムの最適化などに主眼を置いて、戦略立案から、デジタルを含むテクノロジーを活用した経営改革、サプライチェーン改革の実行までをトータルに支援している。


 IaaS、PaaS、SaaS導入は企業システムにとってもはや当たり前。しかし実際の活用領域は想像以上に狭く、基幹系システムの移行は進まず、SIerへの丸投げ体質から脱却できないガラパゴス化したIT環境が長年続いている。基幹系アプリケーションの多くがクラウドベースに移行完了した海外企業との差は大きく、今後グローバルな競争力を維持、強化するために戦略的なIT環境改革が今こそ必要だ。今回は、国内企業がクラウド活用に後れを取っている要因と、現実的にクラウド活用を進展させる要因について考えてみる。

進まない基幹系システムのクラウド移行

 IaaS、PaaS、SaaSは既に一般的な用語となり、システム構築に際してオンプレミス以外のプラットフォームの検討は当然の前提になってきた。しかし検討の結果、クラウドサービスの利用が選ばれるケースは、実はそう多くない。特に基幹系システムに関してはオンプレミス構築が選ばれることがほとんどだ。

 グローバルではSAPやOracleなどの基幹業務アプリケーションの新規導入やマイグレーションの7〜8割がクラウドベースで運用されているのだが、日本での当社の導入実績としてはほぼゼロなのが実情である。海外に比べてなぜクラウドへの基幹系システムの移行が遅れているのか。まずそれを考えてみたい。

 まず指摘したいのが情報システム部門の役割意識が、海外と日本とで大きく異なることだ。CIO(情報統括役員)に課せられる責任も違う。

 海外企業の情報システム部門が最も重要視するのが事業の競争力拡大のためのIT活用である。これを強化するために、ビジネス環境の変化に追随できるIT環境の変化対応力の速さを求めている。新規事業や新サービスが確実に、安定して提供できることは当然の前提で、その上でスタートアップや改善のスピードを大切にしているのだ。CIOはその先頭に立ち、新しいテクノロジーを全社的なビジネス競争力を上げるために活用することに力を注いでいる。

 その対極にあるのが日本の情報システム部門だ。日本企業の情報システム部門は伝統的に「保守」が最優先に考えられてきた。システムを安定して稼働させることが情報システム部門最大の役割とされ、CIOも現状の業務遂行と新規業務がシステム面で停滞しないことを優先してきたといえるだろう。

 基幹系システムの更改や刷新などの際の業務プロセス改革にはCIOが大きな役割を果たしはするが、運用開始の後は、どちらかというと運用開始後の安定運用ばかりを優先し、経営課題にチャレンジするということは後回しになってしまいがちだ。そういう意味では経営の意思決定に積極的に関与しているとはいえないCIOが多く見られるのが実情だろう。日本のCIOは他の上級管理役職と兼務することが多く、人物そのものの影響力はあっても、CIOとしての自覚や存在感が薄いことに加えて、ITに関する知見が不足していることも指摘できそうだ。

 このような役割意識のままでは、情報システム部門の現場もCIOも、常に新しいテクノロジーに気を配り、導入を検討することに真剣になれない。「オンプレミスで安定して稼働しているものをあえてクラウドに移行する理由がない」という意識が強いのだ。クラウドの魅力や効用も知りながら、本格的な導入に踏み切れない1つの理由がここにある。

 ちなみに、海外企業ではビジネスの大きな節目でCEOが交代するため、新しいCEOはそのときの最新のIT技術を使って新たなビジネス展開を試みることが多い。決まった年数でバトンがタッチされるだけの大部分の日本企業とは大きな違いである。かつてはそれがオンプレミスシステムからクラウドへの移行であった。クラウド利用率の違いは、このような事情も影響している。

理想的な状況において、IT部門が優先すべきと考えられるもの 図1 理想的な状況において、IT部門が優先すべきと考えられるもの(出典:デロイト トーマツ コンサルティング「2015 グローバルCIOサーベイ」)
       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

ホワイトペーパーや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。