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過剰な期待は禁物、来るべきAI戦争に向けて知力を備えよすご腕アナリスト市場予測(4/4 ページ)

» 2016年09月14日 10時00分 公開
[亦賀忠明ガートナー ジャパン]
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今は勉強の時間。ひたすら力を蓄えるべし

 今回は人工知能に対する過剰な期待を否定するような内容になったが、人工知能が役に立たないという意味ではもちろんない。やがて技術の成熟度が上がれば、たとえ人間の知能にはまだ追い付かない状態でも、十分にビジネスにも生活にも役立つ関連製品やサービスが生まれてくると考えられる。

 人工知能そのものではなく、その研究開発や派生的な実践から得られた成果が、ビジネスや社会に大きなインパクトや革新をもたらす可能性がある。例えば、自律的な動作が行えるスマートマシン、スマートロボットなどは遠からず実現して社会に大きなインパクトを与えるだろう。また自然言語応答を利用したコールセンターソリューションなどは実際に提供が始まっていて成果を出している。自動走行車両などにも大いに期待できる。

 こうした「AI的なもの」が今後も続々と表れ、それぞれの分野で有効に使われていくことになるが、未来の夢と現実の技術の取り違えをしなければ、派生技術のビジネス利用は意義がある。ただしバズワードビジネスは別だ。AI、人工知能、機械学習、ディープラーニングなどの言葉を使う製品やサービスは、科学的、技術的な裏付けに基づくリアリティのある話かどうかを確認し、納得した上で利用していくと良い。

 その一方、人材投資はグローバル競争の中で非常に重要な課題になる。自社が人工知能に取り組まなくとも、既存のやり方、製品やサービスの提供や利用で十分だと考える企業は競争力をやがて失っていく可能性が高い。本格的な人工知能時代が来るまでにどれだけ人材の技術的成熟度を上げられるかが鍵になる。

 自らが取り組む気概のある人は、ぜひ人工知能を学ぶところから始めていただきたい。関連書籍もあれば、一般的にMOOCと呼ばれるオンラインの学習講座もある。AIエンジンや機械学習プラットフォームのオープンソース化(マイクロソフトのCNTK:Computational Network Toolkit、Google のTensorFlowなど)や、もともとオープンソースのツール類、無償利用できるIBM Watson APIなど、コストをかけずに使用できるツールも多々ある。

 学習の結果が売り上げに結び付くのはかなり先のことになりそうだが、やがて本格的な人工知能ビジネスの競争時代が来たときに、他社よりもノウハウや知識、実践経験がある人材がいることは大きなアドバンテージになるはず。IT部門の全員というわけにはいかないだろうが、企業に1人から数人は人工知能関連技術のスキルアップに努められるよう、組織的なバックアップも欲しいところだ。

 最後になるが、人工知能の話は車と同じように理解すると分かりやすい。一般的に、皆さんが車を買ってきてすぐに何らかの成果が出せることはない。そもそも免許を持っていなければ、運転できないし、運転できても乗らなければほとんどの人にとって車を所有、利用する意味はない。このことは人工知能についても同じである。

 すなわち、今後、人工知能の導入を検討する場合、それを操るスキルとそれで何がやりたいかを考え実行するスキルについてあわせて検討することが重要である。そうしたものもなく、ただ入れるべきか入れないべきかを考えることは早い段階で卒業する必要がある。

 スキルはつけられないのでどこかに頼むというパターンも今後起こるであろう。しかし、それは車は自分で運転できないので誰かに頼むというのと同じ話である。さらに、どこに行けばよいかも分からないので、これもまた運転手にお任せするという発想になりがちである。そうした丸投げ発想自体、そろそろ卒業すべきである。このようなことは日本のIT業界だけである。

 日本であっても、全てが丸投げではない。この業界が相当特殊であることを認識する必要がある。そもそも全てを丸投げしようにもベンダーも何をやってよいのか分からないので困ってしまうことは容易に想像できる。結局、ベンダーはユーザーが何をしたいのかよく分からないので多くのお金はしっかりといただき、何でもよいので成果を残す、という実績作りの案件が増えることになる。

 一方、それは嫌なので、ユーザーの中で、無料でベンダーにやってもらおうというケースが起こる可能性は高いが、これはもう止めるべきだ。ベンダーも無料で何でもやることを止めるべきだ。これは、ビジネスでも何でもない。お互いのためにならないだけでなく、日本の経済にとっても全くよいことであるとはいえない。

 コストがかけられない、業務に関係ないというのもよく聞くフレーズである。しかし、こうしたフレーズが出る背景は、往々にして、投資とコスト、業務とビジネスの違いが分かっていないことに起因することが多い。こうしたことでは、人工知能の背景にあるデジタルビジネスやデジタルトランスフォーメーションなど到底できないだろう。

 人工知能に関するイノベーションは、まだ始まったばかりである。今後の潜在性は破壊的である。そうしたパラダイム・シフトを起こし得るテーマを目の当たりにし、あらためて、テクノロジの捉え方はもとより、自身の仕事の意義、自身のスキル、投資とコスト、業務とビジネスの違い、ベンダーとの付き合い方など、基本的なことを捉えなおすきっかけにしていただければと思う。

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