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» 2016年08月10日 10時00分 公開

「ナノサイズ3Dプリンタ」でマイクロサイズの工場も実現できるか5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

[土肥正弘,ドキュメント工房]
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エバネッセント光造形技術の応用

 この研究で開発されたエバネッセント光を作り出して露光をコントロールする技術を利用すると、さまざまな産業応用が考えられる。

 実証済みの応用例は、エバネッセント光による半導体ウェハの微細欠陥の計測だ。ウェハに存在するナノサイズのスクラッチなどは最終製品の動作不良を引き起こす大きな要因になり、製品の歩留まりを低下させる。そこで早い段階でウェハの不良を効率的に見分ける計測技術が必要とされる。

 欠陥はウェハ表面にあることもあれば、内部に隠れていることもあり、電子顕微鏡などの計測デバイスでは全ての欠陥を検出できない。実験ではシリコンウェハに光学オイル(Immersion Oil)を介して光を当て、全反射を起こさせてウェハ表面にエバネッセント光がにじみ出るようにした。

 光ファイバープローブでウェハ上をスキャンし、結果を分析すると、表面上のナノスケール欠陥の有無や程度が分かる。また、検出ニーズの高い表面近傍の内部欠陥についても、下から透過する光の変化を検知するため、エバネッセント光分布の変化として計測できるというわけだ。

 エバネッセント光は、超微細加工が必要な全てのデバイスのさらなるコンパクト化、高密度化に寄与する潜在力を持つ。半導体の超微細加工の合理化や、超高密度光メモリの製造などに結び付く可能性がありそうだ。他の超微細部品、薬剤、高分子の高機能性デバイスなどと組み合わせて、これまでにないナノマシンやマイクロマシンの創造に寄与することも十分考えられる。

 さらに、高橋教授はもっと大きな夢を描く。それはそれ自身がマイクロサイズの「工場」の構築だ。米粒程度のサイズでありながら、材料の搬入や加工、計測、検品、搬出までの生産ラインを内部に備えた「セルインマイクロファクトリー」だ。

 机の上に超小型の加工機械などを配した「デスクトップマイクロファクトリー」は現在期待が高まっているが、高橋教授が目指すのは最終的には1ミリ四方以下の、人間が関与せずに稼働可能な自動化工場だ。さまざまな方法で作られた超微小デバイスが工場の施設、設備となる。

セルインマイクロファクトリー検討基礎実験装置 図8 セルインマイクロファクトリー検討基礎実験装置。高橋研究室 大学院1年 増井周造氏(出典:東京大学先端科学技術研究センター 高橋研究室)

 これまで工場で生産するものは、最終製品としては,どんなに小さくても基本的に人がつかめるものに限定された.しかし、将来的には人がつかめないような微細な製品が世の中に現れると高橋教授はいう。例えば、生物の体内で機能するマイクロロボットだ。

 セルインマイクロファクトリーは微細な部品群を作り、組み立て、最終製品としてマイクロ機能デバイスを製造するのがその目的だ。現在、第一段階として、材質自体が機能と結び付いた機能性マイクロビーズ(蛍光マイクロビーズや光触媒ナノ粒子など)を、設計に基づいて自由に融合する「多機能マイクロ構造体」の量産を目指した開発が進む。

 既に10マイクロメートルのパーティクル(粒子)を光の力だけで「つかんで移動」し、やはり光を用いて狙ったパーティクル同士を接着する技術は現実のものになった。

 マイクロサイズやナノサイズのデバイスの修正加工はあまりに微細すぎてこれまでは無理だったが、それを実現する特殊ナノ工具自体をセルインマイクロファクトリーで製造することも可能だ。

 エバネッセント光3Dプリンタによる部品がセルインマイクロファクトリーでの生産に用いられることもあるだろう。また、ラインの作成など、面的に造形できる良さが生かせる可能性もある。

 将来の超微細デバイス生産は、セルインマイクロファクトリーが担うことになるかもしれない。その動力を常に供給できれば、機械による機械の自動生産、自動保守も不可能ではない。すると自ら新陳代謝を行う機械生命体が誕生するかもといったSF的空想も広がる。ナノテクノロジーの領域でも、やがて予想もしないシンギュラリティ(技術的特異点)がやってきそうだ。

関連するキーワード

近接場光

 光の波長よりも小さい穴を抜けた光が伝搬せずに、穴の部分にまとわりつくように存在する特殊な光が「近接場光」。エバネッセント光はこれとよく似ているが、屈折率の違う媒質の界面で光が全反射した時、屈折率の低い方の媒質側ににじみだす、やはり伝搬しない光のことをいう。

「ナノサイズ3Dプリンタ」との関連は?

 近接場光はナノスケールの観測ができる近接場光学顕微鏡、分光分析、光加工、光ディスクメモリへの応用が実現または考えられ、エバネッセント光も同様の応用用途がある。特に半導体の欠陥や異物検知、計測、界面の観察などに用いられる。エバネッセント光の1つの新しい応用領域として光造形技術がある。同技術を利用すると、面的に造形できるナノ分解能3Dプリンタとして応用可能だ。

光硬化樹脂

 紫外線などの光を当てると硬化する樹脂。製品のコーティングや光造形3Dプリンタの素材などによく使われる。

「ナノサイズ3Dプリンタ」との関連は?

 エバネッセント光造形3Dプリンタでも光硬化性樹脂を利用して造形する。

デスクトップマイクロファクトリー

 部品や機械製造はひたすら小型化、軽量化が図られている。環境、省エネの観点からも小型の製品を製造するのに必ずしも大型の工場は不要であり、手のひらサイズの加工機械を製造、それらを机の上程度の大きさの中に配置して一貫した生産が行えるようにした「工場」のこと。

「ナノサイズ3Dプリンタ」との関連は?

 ナノスケールの造形や表面加工が求められることが多くなり、デスクトップマイクロファクトリーよりも小さいサイズの「工場」も必要になる。そこでナノスケールの工具や加工機械で生産ラインを組み立てる、セルインマイクロファクトリーの実現が期待される。

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