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業務部門だけで仕事を改善、「ノンプログラミング業務アプリ開発ツール」とは

プログラミングスキルがなくても業務アプリを作成できることが特徴の「ノンプログラミングWebアプリ開発ツール」。通常のアプリ開発ツールと何が違うのだろうか。便利さのポイントを解説しよう。

» 2016年05月23日 10時00分 公開
[原田美穂キーマンズネット]

 プログラミングスキルがなくても業務アプリを作成できることが特徴の「ノンプログラミング業務アプリ開発ツール」。通常のアプリ開発ツールと何が違うのか。便利さのポイントを解説する。

「ノンプログラミング業務アプリ開発ツール」とは?

 読者の職場の多くでは、経理や財務、顧客管理などの「基幹業務」は、業務支援ITシステムやアプリケーションが導入されていることだろう。IT投資を一定以上行える場合は、複数のシステムであってもマスターデータを統合したり、1つの入力で必要な情報を網羅、集計したりといった「仕組み化」が実現しているかもしれない。

 各部門では「業務支援」が実現していれば、理屈の上では、「ムダな仕事が減る」はず。しかし実際には、各部門に定型的な基幹業務システムでは網羅できないものがたくさん残っている。

 例えば、「担当者別の集計をしたい」「特定の項目の数字で抽出したい」と、日々必要な情報は変わることがある。きっかけは、サービス品質向上やちょっとした問い合わせへの対応を効率化するため、あるいは部門内での情報共有や状況把握に役立てるためかもしれない。

 こうした「スキマ仕事」の多くは、担当者が個別にExcelファイルなどで集計していることが少なくない。Excelは手軽な半面、データベース化されていないため、「最新情報か否か」「元データは何か」といったことが判別しにくく、確認作業に時間を割くようなムダが発生しがちだ。

 実は、いま、世界的な大企業では、日々のちょっとした業務の改善や顧客や部門の利用者が「できたらいいな」と思うアイデアを迅速にシステム化していこうという機運が高まっている。

 例えば小売り大手の米アマゾンドットコムでは、一日に1000回ものアプリケーションの改修とリリースを繰り返せるような体制が整っている。「どんどん作ってリリースして、だめなら変えればいい。使わないなら閉じればいい」という発想で、顧客にも社内の業務アプリ利用ユーザーにもよいサービスを提供し続けて企業全体の価値を高めていこうという考えだ。

 もっとも、こうしたアプリケーションの開発手法は、巨大なITインフラ投資と潤沢な技術者リソースがあればこそできる話で、多くの企業ではやはり、見積もりを取って稟議(りんぎ)を出して、予算を確保して、要件定義をして……と、かなり骨の折れる準備をしなければならないので、簡単にはまねができず「ITによる企業価値向上」「現場業務の改善」を諦めがちだ。

 こうした状況を打開する救世主として注目されているのが「ノンプログラミング」をうたう業務アプリ開発ツールだ。これらは提供形態によって「クラウド型データベース」「ノンプログラミングWebアプリ開発ツール」などと呼ばれることもある(本稿ではこれらを含めて「ノンプログラミング業務アプリ開発ツール」と表記する)。

アプリ開発ツールと何が違う?「ノンプログラミング業務アプリ開発ツール」の特徴

 「ノンプログラミング業務アプリ開発ツール」は通常のアプリ開発ツールと何が違うのだろうか。ここでは、一般的な業務アプリケーションやその開発とノンプログラミング業務アプリ開発ツールが提供する環境の違いを整理しておこう。

 ノンプログラミング業務アプリ開発ツールでは、業務アプリケーション開発につきもののデータベース設計や管理が不要で、HTMLやアプリケーションプログラミングの知識がなくても使えること、部門で決裁できる範囲で導入できることなどが特徴だ。

 一般的な業務アプリケーションは、「アプリケーション」「アプリケーションサーバ」「データベース」「データベースサーバ」などの要素で構成される。

 例えば、Webブラウザで操作するタイプの業務アプリケーションは、データベースの設計を行った上で、JavaやC#などのプログラミング言語を使い、適宜データベースサーバを介して特定のデータを呼び出すなどの処理を記述、HTMLなどでUIを記述していく。

 データベースの設計では、「ER図の作成」や「正規化」などの専門知識が必要になる。部門のいちユーザーがデータベースごとのデータ型やバイト長を理解して定義しなければならない。アプリケーションでは、操作によって動的に画面を変更したり、出力内容を変更したりする場合は、その都度、プログラムを分岐して記述しておかなくてはならない。専門知識が必要なため、開発会社や開発部門に委託するしか方法がない。

 これは、パッケージソフトウェアをカスタマイズする場合でも大きな違いはないだろう。これに加えて情報システム部門に対しては、新規に社内インフラ内に「アプリケーションサーバ」「データベースサーバ」を用意してもらう必要がある。つまり、一業務部門担当者が手を付けるには相当にややこしい。

 一方のノンプログラミング業務アプリ開発ツールでは、上述のような一般的な業務アプリケーション開発で必要になる複雑な作業が不要だ。ソフトウェアを購入するかクラウドサービスのアカウントを取得すれば、後はマウス操作で画面を作成すれば使える。

図1 業務アプリ開発の一般的な流れとノンプログラミング業務アプリ開発ツールの工数の違い 図1 業務アプリ開発の一般的な流れとノンプログラミング業務アプリ開発ツールの工数の違い

通常の業務アプリケーション開発

  • 情報システム部門やSI会社が必要
  • サーバ調達費、開発費、運用費用も調整が必要

ノンプログラミング業務アプリ開発

  • 構築にかかる費用がすくないため、部門予算内で検討可能
  • 開発も部門内で検討できる

 ノンプログラミング業務アプリ開発ツールが業務部門の現場で注目されている理由は、データベースの設計に関わる煩雑な作業が要らず、各種サーバ設定などのIT知識が必要な作業がないため、迅速に導入でき、かつ利用者自身の手で業務に合わせて作り込める点にある。大げさにいえば、アマゾンドットコムのような巨大企業でなくても、業務改善や顧客サービス品質向上に向けたツールを、部門担当者の意思だけで導入できる環境が整ってきたというわけだ。

 情報システム部門にとっては、ガバナンスがとれていれば、拾いきれないような現場のこまごまとした要望を現場にまかせることができるようになる。

ノンプログラミング業務アプリ開発ツール導入のシナリオと注意点

 部門内で業務アプリ開発を完結させるには、どのような選択肢が考えられるだろうか。ここでは、2つのシナリオで見ていこう。

Excelで作りこんだデータや帳票をデータベース化したい

 既にExcelで蓄積されているデータがあるならば、まずはExcelを取り込んでデータベース化することを検討したい。特に、Excel帳票型のデータが多数ある場合は、定型フォーマットである帳票の特性を生かせばデータベース化は効率よく実行できる。

 例えば「顧客名」「金額」「消費税」「合計」などの項目は入力される値が「数字」「文字」などと定型であるため、帳票集計はデータベースに取り込んでしまえば自動化しやすい。多くのノンプログラミング業務アプリ開発ツールではExcelファイルそのまま、もしくはCSVファイル形式で取り込むことができる。

 一度データベース化してしまえば、複数人での同時アクセスやデータ集計といった従来業務の自動化だけでなく、新たな業務効率化のための道具としてのデータ利用も検討できるだろう。

 多くのノンプログラミング業務アプリ開発ツールはExcelファイルのデータを取り組む機能を持っている。しかし、ツールによっては、Excelファイルそのもののデータをきちんと整理しておかないとうまく自動的に取り込めない場合があるので注意が必要だ。

 レイアウトを作り込んだ帳票をCSV形式で取り込むようなケースでは、事前に項目名のずれなどを解消しておく必要があるだろう。

 Excel帳票のデータベース化では、帳票を利用する範囲が部門の外に及ぶ場合には注意が必要だ。関係する取引先が多い場合、形式変更を周知する必要があるのはもちろん、実施する形式変更に「関係者が対応できるか」を慎重に図る必要がある。 

 特に入力すべき項目名を変更したり、入力画面デザインを変更したりした場合は一時的に混乱が生じる可能性も考慮しておき、場合によっては、取引先には従来通りの形式で提出してもらいながら、自部門では効率よくデータベースに取り込んでいく方法を検討した方がスムーズに定着するケースもあるだろう。

日報や営業資料、手書き書類をデータベース化、オンライン登録したい

 ノンプログラミング業務アプリ開発ツールには、Excelの集計だけでなく、例えば帳票提出やデータ入力のワークフローを「現場」で直接行わせるための仕掛けが用意されているものがある。

 社外からアクセスすることを想定する場合は、Webアプリケーション化やモバイルアプリとして配布できるものを選択するとよいだろう。従来の報告書などの帳票提出を外部からアクセスできるデータベース化するだけでなく、モバイル端末を使って「現場」の画像や音声などを登録したり、あるいはペンタブレットを使って顧客に契約書にサインしてもらったりといった、プラスアルファ機能を持たせることもできる。

社外からアクセス可能な業務アプリを作成する場合の注意点

 社内に構築した業務アプリにモバイル端末からアクセスできるようにする場合は、業務で利用するデータにインターネット越しでアクセスすることになるため、導入費用の負担などは事業部側が持つにしても、外部サービスの業務利用については情報システムやセキュリティの担当者に確認が必要だ。

 クラウド型のノンプログラミング業務アプリ開発ツールを採用する場合には、そもそも全てのデータをインターネット経由で外部のデータセンターに格納するが、多くの場合は、ISO27001などの第三者機関の認証を受けた高いセキュリティレベルで提供されているため、場合によっては「自社で運用するよりも安全」と判断できるケースもある。導入する際にはセキュリティレベルや利用用途、取り扱うデータの内容を整理して早い段階で情報を共有しておくことをお勧めする。

 前編では、業務改善の方法として、部門内で実現できるノンプログラミング業務アプリ開発ツールを利用する方法と注意点を紹介した。後編では主要なノンプログラミング業務アプリ開発ツールの特徴を紹介する。

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