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もう一度、基礎からおさらい「ナレッジマネジメント」の今IT導入完全ガイド(2/3 ページ)

» 2016年04月18日 10時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

 情報共有やナレッジ継承に関する問題意識や取り組み自体は古くから存在している。日本企業の間で大きく取り沙汰されるようになったのは、1990年代半ば以降に「ナレッジマネジメント」というキーワードが経営手法として脚光を浴びてからだ。

暗黙知から形式知へ、「SECIモデル」

 直接のきっかけとなったのは、一橋大学大学院の野中郁次郎教授と竹内弘高教授が著した「The Knowledge-Creating Company」(邦題:『知識創造企業』)という書籍だ。両氏はナレッジマネジメント全体の取り組みを4段階のプロセスで説明している。

 1つ目の段階は「共同化(Socialization)」で、組織のメンバーがそれぞれ自身の中に抱え込んでいる知識、すなわち「暗黙知」を他のメンバーとの間で共有する取り組みを指す。続く2段階目が「表出化(Externalization)」で、共同化で抽出した暗黙知を組織の他のメンバーが容易に再利用できるよう「形式知」として整理する。

 そして、次の「連結化(Combination)」のプロセスで、整理した形式知同士を互いに組み合わせて新たな知識を創造する。そして4段階目の「内面化(Internalization)」において、こうして創造された知識が組織内に浸透することで新たな暗黙知が生み出される。

 この一連のプロセスのことを、それぞれの頭文字をとって「SECIモデル(セキモデル)」と呼ぶ。ナレッジマネジメントの取り組みが最終段階に達した組織では、このSECIプロセスを絶えず回し続けることによって個々の従業員が持つ暗黙知を組織全体の形式知へと昇華させ、その結果また新たな暗黙知を生み出していくという知識の再生産プロセスを獲得できるとしている。

SECIモデルSECIモデル SECIモデル(出典:『知識創造企業』(野中郁次郎、竹内弘高))

 こうした暗黙知から形式知への変換は、人材流動の激しい欧米の企業ではかなり以前から行われてきた。従業員がいつ辞めても後任者へ業務知識を確実に引き継げるようにするためだ。ところが終身雇用が一般的で人材の移動が欧米ほど激しくない日本においては、業務知識は長い時間をかけて先輩から後輩へ、あるいは上司から部下へと現場の仕事を通じて引き継がれてきた。

 つまり、必ずしも暗黙知を完全な形式知へと転換しなくとも、ナレッジの継承はある程度行われてきたのだ。1990年代後半に取り沙汰されたナレッジマネジメントにしても、バブル崩壊後の長い不況期の中で企業が再浮上を図るための新たな経営手法として注目を集め、多くの企業によって取り入れられたものの、その理想形にまでたどり着いた例はほとんどなかったといわれている。

 しかしながら、その後の規制緩和による人材の流動化や、団塊世代の一斉リタイア、育児や介護による休職や離職といった社会情勢の変化に伴い、情報共有やナレッジ継承の取り組みの重要性が再び叫ばれるようになった。今日では「ナレッジマネジメント」という名前こそあまり耳にしなくなったが、かつてとは異なる動機や背景から情報共有やナレッジ継承に取り組む企業が増えてきている。

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