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新時代のデジタルワークプレイスを創る情報共有の在り方は?すご腕アナリスト市場予測(1/4 ページ)

デジタルワークプレイスを実践する上で欠かせないエンゲージメントの重要性と、これからの時代に必要な情報共有の在り方とは?

» 2016年04月06日 10時00分 公開
[志賀 嘉津士ガートナー ジャパン]

アナリストプロフィール

志賀 嘉津士(Katsushi Shiga):ガートナー ジャパン リサーチ部門 ソーシャル・ソフトウェア&コラボレーション バイス プレジデント

情報システム、PC関連編集者、記者職を経て現職。データクエスト ジャパン(現ガートナー ジャパン)入社後はPC産業、市場関連動向や個人、企業内個人のIT需要調査分析を担当。現在は企業向けアプリケーションソフトウェア分野で、電子メール、グループウェア、SNSなどのコラボレーション領域や、インターネット活用による新たなワークスタイルの変革など、情報活用領域全般をウォッチしている。著書に『ユビキタスコンピューティング入門』(2004年、NHK出版)がある。


 企業コミュニケーション戦略として今注目されている「デジタルワークプレイス」。チャットやSNSを始めとするコンシューマー系、ソーシャル系のテクノロジーを筆頭に、職場を新時代のデジタル技術で変えていくことを目指しているものだ。

 中でも職場内、あるいは顧客、パートナーとの間の関係性を、より信頼感ある親密なものに進化させていく「エンゲージメント」が、ビジネスの生産性、効率性をも上げていくことにつながるが、歴史ある企業文化が根をはる日本ではこれに抵抗感を覚える人も少なくない。今回は、特に企業向けチャットツールに注目して、デジタルワークプレイスの考え方と、その有効性を解説する。

会社より自宅の方が効率的? コンシューマライゼーションの現在

 会社にいるより自宅の方が効率よくITを利用できると感じる人は多いだろう。ITへの投資額は個人と会社では比べようもない差があるにもかかわらず、効率性に不満を抱いてしまうのは、セキュリティやガバナンスにがんじがらめになったエンタープライズ系ITの、いわば重々しさにある。もちろん安定、安全を旨とする企業ITでは、利便性を犠牲にしても情報漏えい防止や事業継続のための利用制限を加えるのが当然なのだが、その手堅さは時として情報流通に壁を作ることがある。

 その壁は企業の内と外との間にできるだけではない。部門と部門、部署と部署、プロジェクトチーム間、職階間など至るところに存在し、共有すべき情報がサイロ化され、活用されないまま廃れてしまうこともしばしばだ。それには情報共有のためのツールのほとんどが「ストック型」であることが関連している。

 例えばグループウェアや文書管理システム、ファイルサーバなどはストック型ツールの代表例だ。そこに情報を集中させることはたやすいが、情報をストックした人が積極的に活用を呼びかけない限り、そこから情報を発信させることは難しい。

 検索するという手段はもちろんあるのだが、実際にはメールを利用して必要な情報に関連する部署のキーパーソンに直接尋ねるか、情報のありかを教えてもらう方が、目的に最適な情報を得るにはよほど早い。そんな経験は多くの人がしているのではないだろうか。

 だが、企業内チャットを利用している場合ならどうだろう。スマートフォンを利用したチャットなら、相手が社内でPCを前にしているか否かは関係がない。たとえ相手が海外にいたとしても、要件を簡潔に送信するだけで、即座に返信してもらえる可能性が高い。

 チャットの文化が浸透している会社なら、という前提付きではあるが、効率性はだいぶ違う。もちろんチャットが使えるのは企業内に限ったことではない。社内には存在しない情報も、外部の相手に呼びかければレスポンスが期待できる。

限界を迎えるメールの効率性

 また、メールは今でもビジネスコミュニケーションの主役だが、こちらは効率性の面で限界が見えてきた。今では1日に100通以上のメールを受信することは珍しくなくなった。対応すべきか否か取捨選択するだけでも時間がかかり、いざ返信という場合でも、メールは少々堅苦しいマナーやエチケットを守らなければならず、気も使えば時間もかかる。だからと言って対応をおろそかにはできない。かつてはビジネス効率を飛躍的に上げたメールというメディアも、一面で効率性の妨げになる部分が目立つ。

 その対極にあるのがやはりチャットだ。こちらは件数こそ多いかもしれないが、ごく簡単に用件だけが伝えられ、返信するにも要点だけを即座に伝えられる。フロー速度が速く、手軽、気軽で効率的なメディアといえる。こうしたチャットとメールの特徴をまとめたのが表1だ。

メールとチャットの違い 表1 メールとチャットの違い(出典:ガートナー)

 チャット利用者であれば、この違いは普段意識はしていなくても、恐らく肌で感じてはいるはずだ。そしてチャットがその性質から人間関係にもたらす効果も感じているのではないだろうか。その効果は「エンゲージメント」という言葉で表されることが多い。

 チャットに限らず、SNSなどのソーシャルメディアも同様の効果を発揮している。ただしFacebookのように、フロー系の要素を含みながらも、本質的にはストック系のソーシャルエディアもあることには注意が必要だ。

 エンゲージメントは、コミュニケーションそのものではなく、コミュニケーションの頻度や性質によって人と人との間に生まれる信頼関係や親密感のことを指す。従来は家族、友人、恋人など、プライベートにごく親しい間柄で醸成されてきたような関係性が、チャットのような新しいフロー系メディアによって、比較的薄い関係性の他人、例えば会社の同僚、プロジェクトチームのメンバー、時にはパートナー企業の仕事関係者、また直接ビジネス上の関係はなくても同一の目的意識で活動している仲間、さらにはビジネスの顧客との間にも、自由に構築できるようになってきている。こうした広い範囲の人々とのエンゲージメントはどんなビジネス上の効果を生むだろうか。

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