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パーソナル情報管理の新手法「分散PDS」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2015年10月21日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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分散PDSでビッグデータを活用できるか?

 メリット豊富な仕組みである半面、昨今注目のビッグデータ分析はどうなるのかと疑問を感じた人も多いと思う。顧客などのパーソナルデータの総体から何らかの分析結果を得るには、しばしばデータの集約が必要だ。

 分散PDSと同時に考えられているのが「集中PDS」だ。これは、事業者とユーザーの間に「メディエーター」と呼ぶ機関を設け、そこにPLRからのパーソナルデータを集約する仕組みだ。例えば、メディエーター自身が個々の情報内容を見ることはDRMによって禁止し、サービス事業者はそのデータを自社内に保有せずに分析作業だけを行う。本人の開示条件に基づいてデータが流通し利用されるので、ユーザー側としては意図しない利用がされない安心感があり、事業者側は情報保有のリスクを避けながら分析結果を手にできる。

 また分散PDSと集中PDS(メディエーター)を併用すると、従来企業が顧客を選別して行ってきたダイレクトマーケティングも変革を迫られそうだ。従来は、企業側が集めたパーソナルデータに基づいてDMやメール、Webサイトでのレコメンドなどのパーソナルマーケティングが行われたが、顧客側がPLR上の個人データと企業が発信する情報とのマッチングを行い、自分にとって最適な商品やサービスをアプリからレコメンドしてもらうことが可能になる。

 例えば、ユーザーが「私のパーソナルデータのうち○○を開示するので□□のサービスを受けたい。○○円くらいは支払ってもよい」という要望(RFP)をメディエーターに伝える。メディエーターは各事業者の発信情報とユーザーの要望とを照らし合わせ、「××社の□□サービスは△△で利用できる」という情報をユーザーに返す(図4)。こうした仕組みを人工知能によって自動化することもPDS研究の視野に入っている。

ユーザーと事業者の間を仲介する「メディエーター」のイメージ 図4 ユーザーと事業者の間を仲介する「メディエーター」のイメージ(出典:東京大学 橋田研究室)

 この仕組みはユーザーが企業の商品やサービスの情報を自分主導で取ってきて管理するという意味で「VRM(Vender Relationship Management)」と呼んでよい。PLRとのマッチングなどを行うVRMアプリによって、従来のターゲティング広告を超える効果が生まれる可能性がある。

 以上、分散PDSの仕組みと応用イメージを紹介した。既に橋田教授開発による介護記録用PLRアプリが恵信福祉会の有料老人ホームなどでタブレット端末で運用され、2015年8月からはデータの本人(家族)による管理が本格的に始まった。また、医療関係SNSのPLRによる拡張や、診療所と介護施設をPLRで結ぶ活動などが行われ、「自律分散協調ヘルスケアプロジェクト」のコア技術として今後ますます利用が進むものと思われる。

関連するキーワード

PDS(Personal Data Store)

 分散PDSでは、個人が特定事業者に依存せず本人のデータを管理して他者と安全に共有できる。本文中で紹介したPLRだけでなく、個人端末間のP2P通信でパーソナルデータを共有する方式や、特別な情報保護を行うサーバを介して情報共有を行う方式などもある。

 どれもがユーザーが自分自身のパーソナルデータを管理して流通を自分の判断で制御できることを目的にする。集中管理であれ、分散管理であれ、ユーザー自身がデータ提供や利用の主導権を握ることを目指す。

 ビッグデータを利活用するには、集中管理型のPDS(メディエーター)を介在させ、個人とメディエーター間の情報のリクエストや提供を行うのに分散PDSを用いるのが合理的だ。両タイプのPDSを利用することによりパーソナルデータの流通が促され利用価値が高まる。

「分散PDS」との関連は?

 端末主導の分散PDSであり、パーソナルデータを本人が持つPLRアプリ搭載デバイスで管理にし、そのデバイスにもクラウドストレージにも暗号化してデータを保管する。

VRM(Vender Relationship Management)

 ベンダー(業者)関係性管理と訳す。CRMは企業が顧客との関係性を維持、発展させる仕組みとしてよく知られているが、VRMはユーザー側が製品やサービスを提供するベンダーとの関係性を作り出すという、真逆の考え方だ。ITの世界では企業が特にソリューションベンダーとの間での生産的な協力関係を作り出すために有効な管理概念としてベンダーマネジメントが議論されることがあるが、それとよく似た概念だ。

「分散PDS」との関連は?

 分散PDSでは、ベンダーが発信する各種情報(製品情報、キャンペーン情報、イベント開催情報など)を個人ユーザーが管理するパーソナルデータと照らし合わせ、ユーザーが自分自身に最適なベンダー、製品、サービス、イベントなどを抽出して購買や参加申し込みなどができる。このようにユーザー主導でベンダーとの関係性が作れるという意味でVRMが実現される。

EHR(Electronic Health Record)

 「電子健康記録」「生涯医療記録」と呼ばれるもので、ヘルスケア関連のパーソナルデータを蓄積し、共有、活用できる仕組みのことを指す。従来の大規模データベースに安全な形でパーソナルデータを蓄積、保管して活用しようという仕組みであり、集中PDSの一種である。政府では「医療情報連携基盤」として、医療情報が関係各機関で遅滞なく共有、連携できるようにする取り組みを行っている。

「分散PDS」との関連は?

 2014年現在でEHR利用者は対象地域人口の2%以下にとどまる。単一の集中型サービス内で情報がクローズしてしまう方法では、ユーザーのメリットを生みにくいことが背景にあると思われる。

 分散PDSは情報を組織ではなく個人が管理する。本人が必要と思えば、本人の判断で利用したいサービス業者にパーソナルデータを開示できる。これはユーザー側にメリットを生みやすく、普及しやすいと考えられる。ただし分散PDSは集中PDSとしてのEHRを置き換えるようなものではなく、連携してユーザーに利益をもたらすものだ。

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