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海のうねりが電力を生む「海流発電」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2014年05月21日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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海流発電の可能性

 2015年には要素技術開発がひとまず終了する予定だが、IHIではNEDOプロジェクト以降の実用化の青写真も持っている。

 まずは、その後数年をかけて、タービン2基を連結して合わせて定格出力2メガワット、耐用年数20年を想定する海流発電システムのプロトタイプ(実証モデル)による発電実証実験を行う。さらにその後は、実証プラントで実際の稼働状況を見ながら改善しつつ実績を積み、2020年には実用化、2030年には多くの発電機を集めた数百メガワットクラスの発電ファーム実現をもくろむ。

 なお、ソフトエネルギーの設備利用率は、例えば太陽光の場合で10%超、陸上風力の場合で20%超、洋上風力発電で30?40%程度といわれているのに対し、海流発電は60〜70%と試算される。また、1年を通して安定した発電量が期待できるので、ベースライン電力としての役割が果たせると考えられる。

 原子力発電の未来が不透明な中で、新しいソフトエネルギーの実用化は心強い。NEDOのプロジェクトではその他の海洋エネルギーの実証研究や技術開発が並行して進んでおり、実施期限は2015年度まで。続々と公表されていくであろう成果に注目したい。

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海洋エネルギーによる発電

 海流発電以外で、日本で盛んに研究されているのは波力発電だ。主に風によって引き起こされる短周期の波の位置および運動エネルギーを利用する。波が高く大波が少ない海域で有効で、NEDOのプロジェクトでは機械式、ジャイロ式、空気タービン式、越波式の波力発電技術の実証研究が行われている。

 次に有力なのは潮流発電で、これは潮の満ち干きによって周期的に流れの方向が入れ替わる潮流の運動エネルギーを利用する。流速が速くなる入り江、湾口、海峡などで有効で、欧米や韓国などで開発が盛んだ。NEDOプロジェクトでは着定式、浮体式潮流発電技術の実証研究と、油圧式、橋脚利用式の潮流発電技術研究開発が行われている。

 また、海洋温度差発電は主に熱帯海域が適切と考えられる。NEDOプロジェクトではこれについても技術研究開発が進められている。

 他にも潮の満ち干きの海面高低差を利用する潮汐発電がある。例えば世界初の潮汐発電所(フランスのランス発電所)では、1967年に建設されて以来、24基で最大出力240メガワット、平均出力約68メガワット、年間では約600テラワット時もの発電を行う。しかし、日本には適地がほぼない。

 海水と淡水の塩分濃度差の化学エネルギーを利用する海洋濃度差発電もあるが、まだ実験室内での研究にとどまっている。

「海流発電」との関連は?

 海流発電は、実用化された他の海洋エネルギー利用発電方式に比較して、広い海域で年間を通じて安定した発電出力、高い発電効率と設備利用率が見込めることから、大規模で低コストなベースライン電力となる可能性を秘めている。

洋上風力発電

 風車を数多く設置するには広い面積が必要となる。そこで風力発電設備を洋上に構築する「着床式」洋上風力発電が、近年、特に欧州で盛んだ。また、海岸から離れた外洋では、海底は深いが強く安定した風が得られる場所が多いことから、海底に固定しない「浮体式」洋上風力発電もノルウェーやデンマークで実証実験が行われている。

 日本ではNEDOが国内2カ所で着床式の実証研究施設を建設するが、着床式建設の適地が日本では少ない。浮体式は今後有望な方式として注目され、研究開発も盛んだ。2013年11月には「福島県沖浮体式洋上ウィンドファーム実証実験事業」で建設された「ふくしま未来」浮体式洋上風力発電ファームの実証研究が始まっている。これは世界初の大規模事業だ。

「海流発電」との関連は?

 発電ユニットが海中に沈んだ状態か、海上高くそびえるかの違いはあっても、基本構造がよく似ている。送電方法など、利用される要素技術にも共通点が多い。

海洋温度差発電

 NEDOの次世代海洋エネルギー発電技術開発事業で海流発電と並んで研究開発対象とされる発電方式だ。熱帯海域の温かい表層水と冷たい深層水の温度差による熱エネルギーを利用したバイナリー発電の一種である。

 世界初の実用実証施設は沖縄県久米島にある沖縄県海洋深層水研究所の出力50キロワットの発電プラントで、2013年4月から実験が開始された。NEDOプロジェクトではさらに発電コストの低減と発電性能の向上に資する要素技術の開発が進めている。

「海流発電」との関連は?

 技術的に関連は薄い。原理はシンプルでありながら、コスト面での問題から実用化研究が進まなかった歴史には似たところがあり、また天候などに左右されずに安定して利用できて環境負荷がほとんどないところにも共通点がある。

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