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» 2014年01月08日 10時00分 公開

5分で分かる最新キーワード解説:超高密度記録を生む「光スイッチング磁石」とは? (1/3)

レーザー光を当てることで波面の角度を変える「光磁石」によるスイッチング技術。驚きの超高密度記録への期待も高まる新技術とは?

[土肥正弘,ドキュメント工房]

 今回のテーマは、赤と青のレーザー光を当てると光の「波面」の角度が変わる「光磁石」によるスイッチング技術だ。東京大学の大越慎一教授らのグループが世界で初めて開発した「キラル構造」を持つ光磁石材料により、1平方インチ当たりで数十TBの記録が可能な光磁気素子が誕生するかもしれない。

「光スイッチング磁石」って何?

 光スイッチング磁石は、光によって磁性の状態を変える物質のこと。光によって磁性の状態を変える「光磁石」研究の中で発見された。熱も磁場も電流も用いない光スイッチングに成功したことで、光磁気記録デバイスや光センサー、光コンピュータ、光通信などへの応用が期待される。

 光磁石はレーザー光を当てるだけで常磁性体から強磁性体へと変化する。これまで光記録方式として光磁気ディスク(MO)やBlu-rayディスクなどが用いられてきたが、これらは全部、レーザー光を材料に照射し、光吸収による熱を利用して材料の結晶状態を変化させる方法だった。

 青色レーザーの使用やレーザー光の絞り込みなどの技術により、市販Blu-rayディスクでは1平方インチ当たり19.5Gbitという高密度記録が可能になった。しかし、熱を用いるこれまでの技術では次世代の飛躍的な記録密度向上ができないという壁にぶつかっている。

 そこで全く新しい光磁気記録技術の研究開発が続けられている。中でも光磁石は、その課題解決の有望な方法だ。特長は、熱ではなく、磁場でもなく、光そのものによって磁性の変化を生む点だ。記録や書き換えのためのレーザー強度が小さくて済み(=消費電力が少ない)、現在よりもはるかに高密度な情報記録ができる可能性がある。

光磁石材料で発見された「光スイッチング」現象

 これまで開発されてきた光磁石の材料(光磁性体)は、レーザー光によって物質に電荷移動を引き起こすことで物質が持つスピンの状態を変化させ、一定方向にスピンをそろえることで磁気を生じさせるメカニズムを持っていた。一方、今回の研究では電荷移動ではなく、レーザー光によって物質のイオンのスピン状態を直接変化させる方法に挑んだ。

 以前から金属イオンに配位子と呼ばれる分子やイオンが結合した「錯体」には、光や温度、圧力により「スピンクロスオーバー」と呼ばれる現象が起き、物質の磁気的性質を変えられる(イオンのスピンが低スピン状態と高スピン状態との間を行き来する)ことが分かっている。錯体としてさまざまなものが合成されてきたが、大越氏らが開発に成功したのは「オクタシアノニオブ酸鉄(II)ブロモピリジン」という物質で、キラル構造(不斉構造)と呼ばれる3次元構造を取るものだ。

光磁石の「キラル構造」のイメージ 図1 光磁石の「キラル構造」のイメージ(出典:東京大学)

 研究グループはこの物質にレーザー光を当てて物性変化の状態を見た。すると、波長473ナノメートルの青色レーザー光を当てると磁性を持つ光磁石(15ケルビン=マイナス258度の磁気相転移温度、保磁力3000エルステッド=一般的なフェライト磁石の保磁力と同程度)になり、その状態でさらに波長785ナノメートルの赤色レーザー光を当てると磁性の強さが変化する(12ケルビン=マイナス255度の磁気相転移温度、保磁力2100エルステッド)ことが分かった。

 さらに波長473ナノメートルの青色光を当てると強い磁力の状態に戻り、青色と赤色のレーザー光を交互に当てると、強い磁力の状態から弱い磁力の状態に繰り返し変化させることができた(図2)。

波長の違うレーザー光照射による光磁性の制御 図2 波長の違うレーザー光照射による光磁性の制御(出典:東京大学)

 実験と分析により、照射するレーザー光の波長によりスピンクロスオーバー現象が生じて磁力の状態が変化することが確認された。このようなキラル構造の物質での光スピンクロスオーバー現象はこれまで報告されておらず、これが世界初の発見だ。

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