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東日本大震災発生時、なぜ安否確認システムは役に立たなかったのかIT導入完全ガイド

東日本大震災発生当時、NECソリューションイノベータ東北支社は安否確認システムを導入していたものの、従業員の状況をうまく把握できなかったという。何がダメだったのか。同社が被災経験から得た教訓を基に説明する。

» 2019年01月07日 08時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティーワイ]

 1995年に発生した阪神淡路大震災。その時は、数十年に一度あるかないかの大震災と考えた人も少なくなかったはずだ。だが、ここ数年で東日本大震災や熊本大地震、北海道胆振東部地震など大きな自然災害が全国各地で立て続けに発生し大打撃を受けている。もはや、いつどこで地震や台風、豪雨といった災害が発生するか分からない状況だ。

 そうした事態を受け、最近はBCP(事業継続計画)対策の一環として安否確認システムの導入を検討する企業が増えているという。だが、せっかくシステムを導入してもいざというときに機能しなければ意味がない。そこで、本特集では、NECソリューションイノベータが東日本大震災から得た教訓を基に、安否確認システムの導入と運用方法について考えるべきポイントを説明したい。

東日本大震災発生時に安否確認システムが機能しなかった理由

 震災に備え安否確認システムを導入する企業は多い。しかし、いざ災害に直面すると、社員から安否情報を集めきれず、思うように機能しないケースも多い。現在、「緊急連絡・安否確認システム」を提供するNECソリューションイノベータもその1社だった。

 仙台に拠点を構える同社の東北支社は、2011年の東日本大震災で被災した。電気や水道など生活に必要なインフラは止まり何から手をつけていいか分からない状況の中、企業として考えるべきはまず社員の安否を確かめることだった。ただ、安否確認システムを導入していたものの運用がうまくいかず、グループによっては誰が出社できる状況かを一人も把握できていなかったと当時のことを振り返る。

 従業員が安否報告をする際、既定のフォーマットに沿って報告しなければならなかった。だが、それは複雑なもので、中にはフォーマットを忘れたために報告できなかった人もいた。何より、震災時は身内や家族の安否確認で手いっぱいだったため、複雑かつ多くのステップを踏む必要がある安否確認システムでの報告は後回しにされてしまったという。

 NECソリューションイノベータ東北支社では、なぜ震災時に安否確認システムがうまく機能しなかったのか。その原因は、「安否確認システムは大震災の時に利用するもの」だと考え、普段から利用しておらず“ほこりをかぶった状態”だったためだ。この経験から、いざという時に従業員が戸惑わないためにも、大きな災害時だけでなく緊急連絡ツールとして普段から安否確認システムを活用し、システムの使い方や運用フローを従業員に定着させることが重要だと気付いた。

 例えば台風や大雨、大雪の際にシステムを利用して従業員の出勤可否を確認するなど、普段から安否確認システムを活用すればツールの利用方法や報告方法が組織に浸透し、いざというときにあたふたせずに済む。こうした「普段使い」をしているかどうかで、災害時の初動対応が大きく変わる。

安否確認システムはビジネスリスクをどこまで抑えられるか

 NECソリューションイノベータによると、災害対策ツールとしてだけでなく普段の緊急連絡手段として同社が開発、提供する「緊急連絡・安否確認システム」を求める企業が増えているという。それらの企業はどういう経緯でシステムを導入しようと考えたのか。ある製菓メーカーとグローバルで事業を展開する製造系企業での導入事例を基に説明しよう。

 ある製菓メーカーが拠点を構える地域は、冬であってもそれほど雪が積もることはない。だが、ある年の冬、工場が立地するエリアは過去にない記録的な大雪に見舞われ、従業員が出勤できる状態ではなかった。折しも、ちょうどその時はホワイトデー商戦で繁忙期であった。この状況では製造ラインが動かせるかどうかも分からず、商品を期日までに納品できるかという懸念もあった。経営判断に必要な情報を収集できず、対応に苦慮したという。

 今後このような事態を防ぐため、安否確認システムを導入して社員やパート、アルバイトなど従業員全体の出勤を確認できる体制を整えた。それにより、予期せぬ事態が起きた際も何らかの対策を取れるようになったという。

 次に紹介するのは、グローバルで事業を展開する製造系企業だ。この企業では、世界規模でビジネスを展開するため、従業員が海外へ出張することもしばしばあった。ある時、現地の空港で大きな事故が発生し、その空港はすぐに閉鎖された。だが、従業員との緊急連絡手段を設けていなかったため、自社の社員がその事故に巻き込まれているかどうかも分からない。そこで、緊急時でも円滑に連絡を取り合える“ホットライン”が必要だと気付き、安否確認システムを導入したという。

 このように安否確認システムは、単に災害対策だけではなく、ビジネス上のリスクにスピーディーに対応するためのコミュニケーションインフラとしても機能する。

命の次に大切なスマホのバッテリーをムダに消耗させないために

 このように、現在多くの企業で利用されている「緊急連絡・安否確認システム」だが、これは、開発元であるNECソリューションイノベータ東北支社が東日本大震災での被災経験を生かして開発したものだ。

 開発に当たり、まず同社は震災時を振り返って課題点を洗い出した。あの時何に困り、苦労したのか。課題点を「安否確認、通知発信」「状況回答」「状況確認」「その他」に分け、まとめたのが以下の表だ。

表1:震災時の課題とその経験を基に実装した機能(資料提供:NECソリューションイノベータ) 表1:震災時の課題とその経験を基に実装した機能(資料提供:NECソリューションイノベータ)

 この中でも特に困ったのが、携帯電話やスマートフォンのバッテリー切れだった。遠くへ避難したときでもすぐに関係者と連絡が取れる携帯電話やスマートフォンは、命の次に大切だったという。そのため、震災時のバッテリー切れは致命的だ。

 だが、安否確認のためにバッテリーを消耗しては、本末転倒だ。そこで、できるだけバッテリー消費を抑えられないかと考え、NECソリューションイノベータの「緊急連絡・安否確認システム」では、バッテリー消費が比較的少ないメールで安否状況の報告ができる仕組みを採っている。

 システムから送られた安否確認メールに記載される選択肢「無事、出社可能」「無事、出社不可」「負傷、出社可能」「負傷、出社不可」より該当するものを選び、送信するだけで、従業員はその状況を簡単に報告できる。

 なお、メールベースで状況を報告するシステムを導入する際は、従業員の利用する端末が、スマートフォンかフィーチャーフォンかどうかの確認が必要だ。フィーチャーフォンを利用する従業員がいる場合は、安否確認システムがフィーチャーフォンに対応しているかどうかも併せて確認する必要がある。

図1:安否状況回答(資料提供:NECソリューションイノベータ) 図1:安否状況回答(資料提供:NECソリューションイノベータ)

 次に、従業員から送られた安否状況の回答を集中的に管理する仕組みが必要だ。大規模な震災となると、PCが利用できない可能性が十分に考えられるため、管理者が安否回答状況をスマートフォンやフィーチャーフォンなどで確認できるかどうかも重要になる。

 その際、注意したい点がシステムを運用する管理者を限定しすぎないことだ。システムをできるだけ広く開放し確認できる体制を組むことで、「誰が出社できるか」を誰も把握していない状況を防げる。また、集計データは今後のBCP対策を考える上で重要な分析資料となるため、データとして活用できるようレポート出力機能を持つシステムを選ぶといいだろう。

図2:送信状況確認(資料提供:NECソリューションイノベータ) 図2:送信状況確認(資料提供:NECソリューションイノベータ)

“使えない”安否確認システムにしないために

 安否確認システムを導入したものの、従業員が使い方を理解していなかったり、メールアドレスの変更により安否確認メールが届かなかったりと、安否確認が機能しない事態を防ぐためにも、日常から教育や訓練など何らかの施策を打つことが重要だ。

 前半では、安否確認システムを緊急連絡ツールとして日常的に利用することが大切だと説明したが、そのためには従業員が状況報告用の安否確認メールを確実に受け取れるようにする必要がある。安否確認メールが届かない事態を防ぐためにも、メールアドレスを変更した際は、管理者および従業員がすぐに登録情報を更新するよう癖付けたい。

 また、対策はシステム面以外にも考えることがある。いくら事前に対策を考えても実践できなければ意味がない。いざというときに、焦らず対応できるよう災害を想定した「通し訓練」を年間計画に組み込みたい。NECソリューションイノベータでは、部分的な訓練と災害を想定した全体的な通し訓練を年に2回に分けて実施しているという。

 本特集では、東日本大震災での課題点と安否確認システムを導入する上で考えるべきポイント、平常時の対策について説明したが、今回説明した点を参考に、自社に適した安否確認システムの導入と災害対策についてあらためて考えたい。

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