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触れるだけでiPhoneが「文鎮化」、意外過ぎる理由とは?:490th Lap金曜Black★ピット

iPhoneの弱点といえば、もはや「うっかり落下」「紛失」「盗難」ぐらいかと思う今日このごろ。だが、あるものに触れただけで突然、動かなくなってしまう弱点が発見された。Tech系情報サイト「iFixit」の発信が物議を醸している。

» 2018年11月16日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 米シカゴ市近郊にあるモリス病院でシステムスペシャリストとして働くエリック・ウッドリッジ氏は、その日も新たに導入されたGE製のMRIをセッティングしていた。作業の途中、病院のスタッフから連絡があった。「スマホが何台か動かなくなった」という。

 「まさか新しいMRIからEMP(電磁パルス)が放出されているのか」。ウッドリッジ氏は動揺した。スマホのみならず、病院内のその他の機器に甚大な影響が及ぶかもしれないのだ。しかし調査の結果、意外な事実が判明した。

 「スマホが壊れた」という報告だったが、実際に調べてみると約40台のiPhoneとApple Watchが動かなくなっていた。AndroidスマホやPCなどには何の影響もなく、その他の病院向け機器についても問題は起きていない。これは一体どういうことなのか。

 故障したiPhoneの多くは完全に動かなくなった。一部のiPhoneはACアダプターを接続しても充電できず、電源が入っても通話できない状態だった。完膚なきまで破壊されている。いわゆる「文鎮化」だ。

 ウッドリッジ氏は掲示板サイト「Reddit」に助けを求めた。すると有用な情報が寄せられた。「MRIの冷却で使う液体ヘリウムが原因では?」

 ウッドリッジ氏がMRIを調べると、確かにヘリウムが漏れていた。MRIには約120リットルの液体ヘリウムが5時間にわたって注入されたが、どれほどが漏れ出したかは不明だ。MRI室の換気システムを通じて漏れ出したヘリウムガスが病院内全体に循環した可能性がある。ヘリウムガスは気化すると750倍に膨張する。全てが漏れ出していたら9万リットルものヘリウムガスが院内に漂っていたことになる。

 ヘリウムガスは無色無臭、そして無味。ヘリウム濃度の高い空気を缶から吸って声が高くなるジョークグッズなどが販売されているように基本的には無害だといわれる。大量のヘリウムガスが病院内に充満していても誰も気付かないだろう。

 ウッドリッジ氏はiPhone 8 Plusをヘリウムガスで満たされた袋に入れてみた。すると見事に文鎮化する。「これはヘリウムのせいだ」と確信した。

 不思議なことに、病院内で故障したのはiPhone 6以降の製品だけ。わずか1台だったが病院内にあったiPhone 5には何のトラブルも発生していなかった。

 この事件の原因を暴いたのが「iFixit」だ。あらゆるデジタル機器には発振器が内蔵されている。基本的にはクォーツを採用した「水晶発振器」で、特定の周波数(一般的には32kHz)で振動し、その機器が安定動作するため重要な役割を持つ。しかし、水晶発振器のサイズは最小の製品でも1×3ミリで最新デバイスに内蔵するにはやや大きい。

 iPhone 6以降では、水晶発振器の代替としてより小型の「MEMS発振器」が採用された。SiTime「SiT1512」という製品で1.5×0.8ミリだ。水晶の代わりにシリコンで動くが、この内部に分子レベルのヘリウムガスが侵入すると故障することが分かっている。発振器が壊れれば、当然それを搭載する機器も動かなくなる。

 実際、Appleのユーザーガイドにはヘリウムなどの液化ガスのある環境にiPhoneを持ち込むと故障する可能性があると書かれている。ヘリウム濃度の高い環境にiPhoneを持ち込む状況が多いとは思わないが、念のため「最新のiPhoneはヘリウムに注意」と覚えておいた方がいいかもしれないな。


上司X

上司X: 40台ものiPhoneが病院で謎の文鎮化で大騒ぎという話だよ。


ブラックピット

ブラックピット: 犯人はヘリウムガスですか。なるほど、なるほど。


上司X

上司X: MEMS発振器とヘリウムの相性が良くなかったわけだ。この結論まで、よくぞたどり着いたよな。ちなみにヘリウムが原因での故障が疑われるときは、通電せずに1日ぐらい放置しておけば直ることもあるそうだ。


ブラックピット

ブラックピット: それにしてもヘリウムガスが漏れた病院、医者もナースも声が変にならなかったんですかね。


上司X

上司X: ははは。ウッドリッジ氏もその点を指摘していてね。「iPhoneが故障するほどガスが漏れたのなら病院スタッフの声は高かったろう」って。


ブラックピット

ブラックピット: あれってヘリウムガスのせいで声帯の周波数が変わるとか、気道内での音の伝わる速度が速くなるからとか、そんな感じでしたよね。


上司X

上司X: まあヘリウムの面白い特性だ。何かのパーティの余興とか罰ゲームとかでやったことあるだろう?


ブラックピット

ブラックピット: くだらないけど面白いですよね……。僕は1人でしか試したことはありませんけど。


上司X

上司X: ほら、あれだ。何かの間違いでヘリウムガスでダック声遊びをするようなことになったら「iPhoneにヘリウムはキケンなんですよ(キリッ)」みたいなことがいえるじゃないか。


川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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