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BtoBメーカーの業界再編、三菱商事グループ3社が選択したIT基盤「合従連衡」策とは(2/3 ページ)

» 2018年09月12日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

安く素早く使うには? あえて統合パッケージを使わない選択

 同プロジェクトでは柔軟性やコスト抑制のため、スクラッチ開発ではなく、標準業務支援パッケージ製品を「使う」方法で新基幹システム構築を推進する方針を掲げた。

 この方針を貫くため、「ユーザーの要望はユーザー自身が実現するようにした」(服部氏)というように、プロジェクトマネジメントをシステム部門ではなくユーザー部門が担当した。プロジェクト最大の特徴は業務全体を包括するERPパッケージがある中で、同社は全業務領域を1つのパッケージに統合しなかった点にある。移行ではその詳細を見ていく

MCフードスペシャリティーズ 情報システム室 今木寿人氏 MCフードスペシャリティーズ 情報システム室 今木寿人氏

 現在、新基幹システムの管理を担う同社情報システム室 今木寿人氏は、「オールインワンパッケージの場合は業務領域によっては改修が多く発生し、利用しない機能を含む製品を導入することになり、無駄が多い」と、その理由を説明する。業務に応じて最適なパッケージを採用する方針であれば「各パッケージの標準機能を活用して機能改修の費用を抑えることができる」という考えだ。

 実際のシステム構成は、オラクルが提供するERPパッケージ「JD Edwards(以下、JDE)を中心に、周囲に7つのサブシステムを配置する形とした。EDI*/FAX VAN**からのEDIデータ受け取りやFAXの送受信、JDEとサブシステム間のデータ連携には「DataSpider」を利用する。

*EDI:Electronic Data Interchange、電子データ交換。

**VAN:Value Added Network、付加価値通信網。


新基幹システムの構成図 図1 新基幹システムの構成図

パッケージ活用は導入から運用までのコストメリットがあり、柔軟性がある一方、課題もある。今木氏は3つの課題を示した。

 ・システム間データ連携(インタフェース)の責任分界点が曖昧になる

 ・一方のバージョンアップや機能改修が他のシステムに影響を及ぼす「相互干渉」が起きやすくなる

 ・内部統制要件に応えるには、連携に人の手を介する部分をなくす(禁止する)必要がある

 今木氏らは、これら課題をデータ連携ツールで解消するアイデアを採用した。

 図2にあるように、連携元、連携先に連携プログラムやデータ取り込みプログラムを持ち、その間をデータ連携ツールでつなぐ。データ連携ツールではシステム間のコードの変換、型や桁のエラーチェック、重複連携防止の3つの処理のみを実装した。データ連携ツール側にビジネスロジックの実装を行わないルールを作ることで責任分界点を明確にすると同時に、障害発生時の問題切り分けが容易になるように設計している。

 この方式でのデータ連携を実施したことで、個々のシステムの独立性を維持しながらも、内部統制上の要件である、自動連携によるデータ改ざん防止を実現した。

図2 データ連携手法の確立 図2 データ連携手法の確立

 ここで同社はデータ連携ツールにDataSpiderを選定している。その理由は4つある。1つは同社内での利用実績だ。以前の基幹システムでも同製品を利用しており、不具合発生が低いことは確信できていた。また、他のクラウドサービスを含む2製品も候補に挙がっていたが、機能面の制約や対象システムとの親和性に問題があったという。

 基本的にはJDEと全てのサブシステムとの連携にDataSpiderが使われている。ただし、大量のデータを対象としたバッチ的な処理ではパフォーマンスを出しにくいため処理内容によっては他の方法を利用することもあるそうだ。

3分ごとの同期、即日納品の運用プロセスにも柔軟に対応する

 データ連携システムの開発を担当したMCフードスペシャリティーズ 情報システム室 友松純一氏は、現在、システムの維持管理とグループ企業へのデータ連携システムの横展開を推進する。新基幹システムでは業務領域別に合計88のインタフェースを用意しているという。

MCフードスペシャリティーズ 情報システム室 友松純一氏 MCフードスペシャリティーズ 情報システム室 友松純一氏

 「受注などの即時での反映が必要な業務では、3分間隔でシステム間を連携している。マスター(JDEで一元管理)の各サブシステムへの配信も3分間隔だ。購買や在庫取り寄せ手配などは1時間ごとにまとめて連携する。この他、会計や管理会計業務は日次、原価は月次で実績が確定したタイミングに連携する。

 また、外部のVANを利用したEDI連携では30社以上と情報交換を行っているが、当日11時までの受注分を当日発送するルールで運用しているため、倉庫や仕入れ先の締めに間に合うような連携を行い、締め切り時間後の「発注取り消し」などで現場が混乱することがないよう調整している。連携先の細かな要件に対応しやすいのも、データ連携型のシステムならではだろう。

現場要求に応じた連携サイクルの例 図3 現場要求に応じた連携サイクルの例

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