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コネクテッドカープラットフォームの本命となるか、「AGL」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2017年10月18日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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AGLで何が変わるのか

 AGLは自動車業界のソフトウェア開発のためのエコシステムの1つとなる。共通プラットフォームとして定義された部分の改変も禁止されてはいないので、共通機能を利用しながら独自機能の追加・拡張が自由にできる。これにより、自動車の情報系システムをより低コスト、短期間で開発可能になり、自動車ユーザーは新技術や新サービスが利用できる製品を安く購入できる可能性があるわけだ。

 AGLには国内外の企業が多数参加しているが、中でも日本企業のプレゼンスが大きい。プラチナメンバーはトヨタ自動車、マツダ、スズキ、デンソー、パナソニック、ルネサスエレクトロニクス。ゴールドメンバーは本田技研工業、NTTデータMSE。シルバーメンバー、ブロンズメンバーには日本の他の自動車メーカーやシステムベンダー、ダイムラーやフォードなどの海外自動車メーカー、インテル、オラクルなどのグローバルIT企業も参加しており、コネクテッドカー時代のメジャープレイヤー候補が勢ぞろいしている状況だ。

 なかでもトヨタ自動車はAGL実装に積極的で、2018年にAGLのコードを70%使用し、AGL仕様を満足する情報システムを搭載する新型カムリを発売すると発表した(2017年5月)。これはパナソニックがTier1サプライヤーとなり、ルネサスがプロセッサを提供した初めてのAGL搭載車となる。なお、これに先だってトヨタ自動車はデンソーをTier1サプライヤーとしてAGLの成果を活用したプリウスPHVを発表しているが、こちらはAGLの正式な仕様策定のためのフィードバックとして貢献した形となっている。今後は、レクサスなど他の車種にもAGLを適用していく考えだ。

 なお、車載インフォテインメントシステムとして近年話題となっているアップルのCarPlay や グーグルのAndroid AutoとAGLは必ずしも競合するものではない。CarPlayの場合は、スマートデバイスありきの発想で車両搭載機器と連携させることを主眼としており、Android Autoはスマートデバイスとは別の車載用Androidプラットフォームを開発している。

 実際には、AGLでは双方の技術との連携・相互運用性を高めるスマートデバイスリンク機能などの拡張が既に行われており、音声認識APIや各種の無線通信、セキュリティなどの機能が続々と追加されている。つまりCarPlayやAndroid Autoで使えるアプリケーションやサービスは、AGLベースの車両でも新規開発の範囲を最小化して使えるように、今後も要素技術がそろえられる可能性が高いというわけだ。

 取材したNTTデータMSEの車載プラットフォームビジネスを推進するプラットフォーム戦略室の担当者は「車載システムでは小メモリで十分な性能で稼働できる能力が必要であり、場所や地域によって違う周囲環境に対応し、起動が速く、エンジン停止とともに終了できるといった特性も求められる。デバイスの寿命、ログ量の適正な絞り込みなど考慮すべき条件も多い。ソフトウェア評価も車両に搭載した場合の条件を前提に行う必要がある。そのような特殊性がある車載ソフトウェアには組み込み系システム開発の経験がモノを言う。当社は組み込み系システム開発実績を生かし、AGLの商用化に向けた仕様策定や開発方針に関する提言を行うとともに、AGLベースのコネクティビティ機能を実装してデモ展示を行っていき、その成果をオープンソースとしてAGLに展開していく」と述べる。参加各社がこのような得意領域を生かした貢献を行うことで、AGLはさらなる広がりを見せてくれるだろう。

関連するキーワード

制御系システム(自動車の)

 自動車の運行・安全に関わる制御機能を担うシステムのことを言う。狭義ではエンジン制御、AT制御、ABS制御、エアバッグ制御、ステアリング制御などを指すが、ドア制御、ミラー制御、ライト制御、情報パネル制御、エアコン制御などの「ボディー系」制御機能を含むこともある。これに対して、運転者や同乗者の情報取得や利便性、エンターテインメントに関わる機能に関するシステムをインフォテインメント系システムと呼ぶ。

「AGL」との関連は?

  AGLは現在のところインフォテインメント系システムのためのプラットフォームとして実用化を目指している。とはいえ車両状況の視覚化のためには車両の各種センサーからのデータを常時受け取る必要があり、またテレマティクスによって得た情報をもとにした自動制御や運転者の判断による制御を行うには制御系、ボディー系システムと緊密な相互通信が不可欠だ。未来の自動運転車両につながるADAS (Advanced Driving Assistant System:先進運転支援システム)を始め、各種ECUが連携する車両システムにはAGLが中核的な役割を果たすと思われる。

GENIVIアライアンス

 欧州の自動車メーカーが主導する車載インフォテインメント用の標準プラットフォームを提供する非営利組織。こちらも組み込みLinuxを利用していて、GENIVI開発プラットフォーム(GDP)を主要な成果物としている。AGL同様にさまざまなコンポーネントやミドルウェアが実装されるが、必ずしもメンバー外に全てが公開されているわけではない。また単一の仕様とするよりも、多様なプラットフォームに対応可能な仕様作りがなされている。

「AGL」との関連は?

 GENIVI側は「AGLとのハーモナイズ」を宣言しており、AGLとのコンポーネントの共通化などのコラボレーションが進んでいる。AGL側ではTizen IVIのコンポーネントを活用しているのと同様に、GENIVIのコンポーネントも活用してパッケージ化していくことを表明している。

CAN/MOST

 車内ネットワークの古くからの主流はCAN(Controller Area Network)プロトコルだが、インフォテインメント用途には、広帯域でマルチメディア活用に適したMOST(Media Oriented System Transport)が標準プロトコルとして普及している。

「AGL」との関連は?

 AGLの要件仕様書1.0から、ミドルウェアとアプリケーションAPIを利用してCANおよびMOSTバスとの接続性と相互運用性をサポートしている。

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