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住友林業の泥臭いRPA活用ジャーニー、月額3万円で自動化ロボット貸し出し

業務自動化ロボットRPAを導入している住友林業情報システムが、活用事例を余すところなく共有した。チーム「バックオフィス三銃士」の結成、全グループへのロボット販売。遊び心と工夫を忘れない同社の試みを紹介する。

» 2017年08月30日 10時00分 公開
[溝田萌里キーマンズネット]

 2016年末から話題となったお仕事自動化ロボット「RPA(Robotic Process Automation)」現在では、人力でやらざるを得なかったバックオフィスの作業に嘆く企業の注目を集め、各社での導入も進んでいる。

成田裕一氏 住友林業情報システムICTビジネスサービス部シニアマネジャー 成田裕一氏

 住友林業情報システムもそうした企業の1つだ。同社がRPAに出会ったのは、ブームに先立つ2014年。ICTビジネスサービス部 シニアマネジャーの成田裕一氏は、ECサイトの説明会に赴いた際、RPAソリューション「Biz Robo!」のチラシに目がくぎ付けになった。業務を効率化するという面も去ることながら、「これは商売になる」と直感したという。

 住友林業情報システムでは、Biz Robo!のパイロット導入期間を含め、3年にわたるRPA活用の中で創意工夫を積み重ねてきた。グループ企業に対して、Biz Robo!で作成した自動化ロボットを販売するなどの試みもその1つ。また、同社の1部門ではRPAロボットを作成するチーム「ロボ・ラボ」、通称「バックオフィス三銃士」を結成し、1人が作業を1つ自動化するごとに、胸バッチに歯車のマークを付けるというこだわりもある。

図1 自動化ロボット制作を担当するバックオフィス三銃士 図1 自動化ロボット制作を担当するバックオフィス三銃士

 7月27日に開催された「RPA summit2017」では、住友林業情報システム ICTビジネスサービス部 シニアマネジャーの成田裕一氏が登壇、RPA導入の経緯や活用のためのポイントなどを余すところなく共有した。「泥臭いお話になるかもしれませんが」と成田氏が切り出した同社のRPA活用の道のりに注目したい。

RPAのおさらい

 RPAはソフトウェアとしてPC上で動作して、これまで人間が行ってきた作業を自動化する。自動化によって業務の効率性や利便性が高まるということに加え、RPAが大きく注目されるのは訳がある。

 1つ目は、これまでシステム化するには費用対効果が少ないと諦められていた、人事、経理財務、調達、営業事務などの作業の自動化が安価にできることだ。システム化には数千万円という費用がかかると想定されていた部分を数百万円にまで抑えられる点が注目を集めている。

 そして、2つ目は、プログラミングの知識がない業務部門でも自動化ロボットを作成できることだ。RPAは、対象業務のプロセスをシナリオ化することで、ロボットがその通り実行するという仕組み。ロボットを作成するとはそのシナリオを作ることを意味するが、その際プログラミングが必要ないことが大きなメリットだといわれる。

2ステップで確信、「RPAは売れる」

 RPAの導入は、スモールスタートを推奨されることが多い。住友林業情報システムもまずは1部門でのBiz Robo!のパイロット導入を行った後、グループ企業への試験販売という試みに移行している。各段階ではRPAの実際のメリットなど、さまざまな検証を行った。

ステップ1:パイロット導入で大成功 育児を抱えた時短勤務者が増加

 住友林業情報システムは、住友林業グループ全体のSIerとしての役割を担う。2014年からは、ICTビジネスサービス部門内のIT関係業務を受託するチームにおいてパイロット導入し、1年間かけて検証を行った。業務の洗い出しと要件定義によって、データ入力やデータのシステム間連携、非正規データの収集と分析、大量のデータの分析の3種類の業務が対象となった。

 成田氏によればこのパイロット導入の大きな目的は、「本当に短期間で簡単に自動化ロボットを作成できるのか」「費用対効果は高いのか」の2点を検証することだった。結果的に双方が証明された上、従業員の反響も大きかった。

 まず「短期間で簡単に」という点について、プログラミングの経験のないバックオフィス業務担当の3人でチームを構築した。後述する「業務を切り分けて機能別に自動化する」という工夫をすれば、2時間で1つの作業を担当するロボットを作成することもできたという。

 また、費用対効果については図2のような台帳を用意し、これまで人力で行っていた作業時間を時給換算し、それにかかっていたコストをどれだけロボットが削減したか可視化した。現在、21の業務を対象に60以上の自動化ロボットが稼働している同部門では、月間で換算して130時間以上の作業時間が削減されていると成田氏は話す。

図2 月間130時間以上の人手作業が削減 図2 月間130時間以上の人手作業が削減

 RPA導入により従業員からは、作業の効率化によって時短勤務者の割合が増えた、自動化のシナリオ作りをすることで業務が可視化された、成功体験からマネジャーの意識も変わり、新しい仕事を受託する際にはRPAでの自動化を検討するようになった、などの声が寄せられた。その中でも「自動化によって工数の多い作業のミスが減ったことが一番喜ばれている」と成田氏は話す。

図3 時短勤務者の評判も高い 図3 時短勤務者の評判も高い

ステップ2:月額3万円でロボットを売ってみよう

 「パイロット導入で効果が確認できたので、次のステップとして住友林業グループ全体に、Biz Robo!で制作した自動化ロボットを試験販売する試みをはじめた」と話す成田氏。試験販売先として、園芸用土の販売を行うグループ会社の、「営業所別の在庫受け払い処理業務」を選んだ。成田氏によれば、人が3日ほどかけて各営業所から集めた情報をコピ&ペーストで再度Excelにまとめ、計算するという大変工数のかかる業務だったという。

 このロボット試験販売の目的は、「どのような形態と値段なら、ユーザーはロボットを買うのか」を検証することだったと成田氏は話す。

 具体的にどのような条件で販売したのか。提供形態は、利用者へのヒアリングを基に住友林業情報システムが自動化ロボットを制作し、利用者に貸し出すという形をとった。この仕組みでは、利用者が前もって投資した金額を数年間で燃焼するのではなく、毎月の経費として計上できるので気軽に導入しやすくなると成田氏は語る。

 レンタル代は、自動化ロボット1体に対して月額3万円とし、3年間は使う規約を設けた。金額の提示では、費用対効果が数字で見えやすいこともあり、ユーザーの納得感が大きかったという。ユーザー側がメリットを感じなかった際に3年経てばいつでも止められるため、導入に失敗した場合の傷も浅く、さらにハードルは低くなったと成田氏は話す。

 この試験販売の成功を経て、2016年末から住友グループ全体にロボットの販売を開始し、さらに保守や監視、SLAに関しても運用の工夫を重ねているという。

住友林業情報システム流、RPAはこう使いこなす

「情報システム部門が中心」も悪くない

 Biz Robo!といったRPAソリューションを導入する場合は、現場の業務に近い業務部門が主体となることが多い。一方で、同社の場合、中心として導入を進めたのは情報システム部門だった。

 理由の1つは、自動化ロボットを作る際にセキュリティを意識する場面があるためだ。例えば、会計システムといった機密性の高い情報にアクセスし、データを収集する作業を自動化する場合に、権限設定は情報システム部門が関与しなければならない問題だ。また、組織体制の変化など、企業の変動に耐え得るような自動化ロボットを作成する必要性を鑑みても、情報システム部門の知見は必要だと成田氏は話す。

 さらに、一般にRPAの課題として挙げられる「野良ロボット」問題、すなわち業務部門が勝手に作った自動化ロボットがあふれて統制がきかないといった状況にならないためには、ロボットの管理やインフラ状況を常に情報システム部門が監視する必要もあるという。これらのことを考えて、情報システム部門が中心となるメリットは大きいと成田氏は強調した。

スイミー式、ロボットは小さく作って長くつなげよう

 さらに成田氏は、同社が複数の検証によって導き出した自動化ロボット作成のコツを惜しみなく紹介した。例えば、1つの業務を自動化したい場合、業務フロー全体にわたって1体のロボットに作業代行させるのではなく、業務フローを細かく切り分け、切り分けたフローの一部分を自動化ロボットを当てていく手法をとると効率が良いという。成田氏は、この手法によって得られたメリットを2つ説明している。

 1つ目は、制作の負担が軽くなるということ。1つの業務を自動化ロボット1体で完結させる場合、業務に必要な作業をツリーのように並べて、ロボットが動作するシナリオを作成しなければならない。業務全体のシナリオを作成しようとすれば制作期間が長くなることが問題だ。この方法では、制作時間が20日にも及ぶことがあるという。

 一方で、図5のように1つの業務を小さな作業に切り出し、そのうちRPAに得意な分野の作業を任せるという方法をとれば、1体の作成にそれほど時間はかからない。例えば、入金振り込み業務を自動化する場合、「銀行のシステムにログインする」「口座情報の金額を調べる」「銀行システムをログアウトする」「調べた口座情報を印刷して次の工程に渡す」といった作業の一部分だけをロボットに実行させるといった具合だ。機能別に作成した小さいロボットは他の作業で汎用(はんよう)的に使いまわせる場合もあり、全体的な作業負担はさらに減ると成田氏は話す。

図5 機能別に作業を自動化し、小さいロボットをつなげて1つの業務に 図5 機能別に作業を自動化し、小さいロボットをつなげて1つの業務に

 2つ目のメリットは、利用者へのヒアリング時間が削減されるということ。通常の導入フローでは、まず現状の業務を分析するところから始まり、その工程を改善しながら自動化を進めるため、工数がかかる。他方、住友林業情報システムでは、業務スタイルは現状のまま、それを幾つかに切り分けた作業1つ1つに自動化ロボットが適用できるか検証していく。

 「このように部分最適化をする手法であれば、導入前の打ち合わせ時間が少なく済む。利用者にも喜ばれる」(成田氏)

ツールの組み合わせで作業を効率化

 成田氏は運用のコツも共有した。具体的に挙げたのは、1つの業務を自動化ロボットで完結させるのではなく、その他のツールを組み合わせるという方法だ。

 同社では、Excelが得意なツールとして「xoBlos」、文書などのデータ管理に関しては、「eBASE」、単純な作業や入力チェック、またデータをそれぞれのツールに引き渡すなどの作業は「Biz Robo!」で作成した自動化ロボットに担当させているという。「自動化ロボットで全て行うことも可能だが、場合によってはサーバの負荷が増える。それぞれの作業を得意なツールに任せれば、全体のパフォーマンスも上がり、サーバの負荷も緩和する」(成田氏)

図6 xoBlos、eBASE、RPA「Biz Robo!」3つのツールを組み合わせて自動化 図6 xoBlos、eBASE、RPA「Biz Robo!」3つのツールを組み合わせて自動化

 段階を踏み、RPAに関する成功体験と知見を積み重ねてきた同社。「社内でも、ロボットを作成するチームを拡大すべく、研修を行っている。バックオフィス三銃士では足りず、30人士が必要になってきたからだ」と語る成田氏。

 今後は、住友林業グループでの利用を促進するとともに、取引先や販売先のターゲットを広げ、同社の有力なビジネスとしてRPAを活用していきたいと話した。

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