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もの作りを劇的に変える3Dプリンタ市場概観すご腕アナリスト市場予測(4/4 ページ)

» 2015年07月16日 10時00分 公開
[三谷智子ガートナー ジャパン]
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3Dプリンタの低価格化と技術進歩で広がる用途

 ホビー、デザイン、設計の試作品、モックアップ製造、部品製造、金型製作といった用途が現在のところはほとんどを占めている。その用途によっては、必ずしも自社で3Dプリンタを導入する必要はなく、出力サービスを提供する業者にCADデータを持ち込めば済んでしまう場合もある。

 各地に店舗を展開するプリントサービス会社のキンコーズは既に3Dプリンタを使ったサービスを開始しており、オンラインでデータ入稿すれば、樹脂や石こう製の出力物を2〜3日で手にできる。同業他社も3D出力サービスに乗り出しており、今後はさらに身近なサービスになりそうだ。

 ただしサービスビューロー利用の場合には、利用している3Dプリンタの方式や機種を確認しておくことが望ましい。主に精度と納期、コストがビューロー選びのポイントになるだろうが、自社の3D CADシステムでのデータの作り方によっては、出力機種に合わないこともあり得る。特に高精度を求める場合には、環境や実績をよく調べて利用すべきだろう。不安な場合には、3Dプリンタ専門のコンサルティングを提供しているアスペクトのような業者に相談してみるのも一手だ。

素材は多彩に、用途は拡大

 技術の進歩により、利用できる素材が多様になってきたことから、用途も大きく広がっている。小麦粉やソース、チーズなどを素材にしてピザを作り、さらにクッキーやチョコレートを作ることは既に行われており、今後も食品への応用は広がると考えられる。白金などの貴金属そのものを素材とする研究もあり、ガラスやグラフェンといった従来は考えられなかった素材も利用可能性がでてきている。

 特に医療分野では期待が大きい。硬度の高いプラスチックなどを利用した人工骨への応用は既に始まっているし、透明な歯科矯正器具により、従来のように針金を使わず違和感の少ない矯正を行う取り組みも行われている。義手や義足、骨折時のギプスなどにも応用例がある。ギプスの場合は網状なのに固くてかぶれないプラスチック素材のものが使われている。また臓器模型をリアルに製造し、手術などのトレーニングに利用することも行われている。簡単なカメラで人体などを3Dスキャンし、データ化する技術が開発されており、この分野の動向は見逃せない。

 また、今後多様な製品が登場するウェアラブル機器や、装飾品、スポーツ用の防具などは、装着感や質感が快適であることが強く求められる。量産品であっても一般的に十分に快適な使用感が得られるよう、試作段階で形状や構造を多くの角度から検討することに3Dプリンタは活用されるだろう。

 また、多種多様な形状の製品ラインアップを用意することも、3Dプリンタでの製造を前提とすれば可能だろう。加えて、顧客の体に合わせた商品製造も今後は可能になる。オンキョー&パイオニアイノベーションズは個人の耳の形状に合わせたイヤフォンの受注生産を始めることを発表した。コストがネックになって普及には時間がかかりそうだが、コスト課題が解決すればコンシューマ向けのカスタマイズ製品が種々提供されることになるだろう。

 強度の問題や出力できるサイズが限られる問題から、大きなサイズのものへの適用はこれからの課題の1つだが、車のボディや家屋、果ては宇宙ステーションへの応用も考えられており、ゆくゆくは解決に向かうものと考えられる。

銃製造などのリスクには注意が必要

 先日、3Dプリンタで殺傷能力がある銃を製作した男性が銃刀法違反で逮捕される事件があった。3Dプリンタが普及すれば、データさえあれば何でも作れる環境になる。このような犯罪や不祥事のまん延は何としても防がなければならない。

 また、知的財産権の侵害も問題だ。大規模な機密情報漏えい事件が続く中で、製品の設計データがいつなんどき外部に漏れないとも限らない。3Dプリンタは、データさえあれば文字通り本物と寸分変わらないものを作ることができる。これも懸念される大きな問題だ。

 この問題に関して、法律や個人の良識に任せるばかりでなく、ベンダーとしても策を講じることを目的の1つとして、2014年6月にアスペクトなど業界11社が共同して「3Dプリンター振興協議会」が発足している。

 同協議会は「3Dプリンタによる新しいものづくりの啓発」「3Dプリンタ技術や応用開発事例の伝搬」「銃や武器、知的財産権を侵害する製造等の違法行為の防止活動」を活動の3本柱にしている。協議会の具体的な違法行為防止活動はまだ明らかではないが、業界全体で対応すべき課題として捉えられるようになったことは大きな進歩。今後の活動に注目したい。

 以上、今回は3Dプリンタの世界的な動向と、主に国内ベンダーの動向を中心に現状をまとめ、近未来を予測してみた。最後に一言つけくわえると、3Dプリンタはまるで魔法の箱のように言われることもあるが、実際は正確な3D CADデータがなければ何もできない箱だ。使いこなすにはそれなりの知識、技量、コツがいる。今後の企業導入においては、使いこなせる人材の育成・教育が非常に重要なポイントになるだろう。

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