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IT現場の道先案内人 Key Conductors

シェアリングエコノミーが作る未来

2016/06/14

 5月26、27日に行われた伊勢志摩サミット。世界経済に対する各国の認識の違いや、オバマ大統領の広島訪問など、多くの関心を集めたイベントが多かった。その陰となりあまりニュースでも取り上げられなかったが、今まで様々な物議を醸し出してきたITビジネスが日本で密かにスタートしたのをご存じだろうか? 日本で初めて、uberX(自家用車によるタクシーサービス)が開始されたのだ。

 場所は京都府の北部に位置する人口5500人ほどの丹後町。過疎化により2008年にタクシー会社が撤退してしまい、路線バスも1日十数本という状況の中、高齢化した住民の足となるサービスとしてUberとNPO法人が手を組み、Uberのアプリをベースとした「ささえ合い交通」サービスがスタートした。これは2016年5月に、国土交通省が特例として過疎地などに認められる「自家用有償旅客運送」を今回の取り組みに対して認めたものだ。
 
  ささえ合い交通では、Uberの利用者向けアプリとドライバー向けアプリをそのまま使い、地元の一般ドライバー18人が配車依頼に対応するという。欧米における本来のuberXとは多少趣旨が異なるが、今まで普通の企業では採算が取れずに解決できなかった課題を、IT活用によるシェアリングエコノミーが解決していくことは今後ますます増えていくだろう。

 そのような背景もあり、今回の記事では「○○のUber」と呼ばれる、欧米のユニークなビジネスを紹介していきたい。

洗濯してくれるUber

 多くのサラリーマンにとって、スーツやワイシャツは戦闘服だ。身だしなみによって顧客に与える印象が変わり、ビジネスにも大きく影響する。ワイシャツは自宅で洗濯できるとしても、スーツまで含めると、一人暮らしや共働きで時間のない夫婦などはクリーニング店を活用している場合も多いだろう。筆者もスーツとワイシャツはクリーニングを利用しているが、店舗までの持ち運びやクリーニング店の営業時間に合わせて自分の時間も調整する必要があり、面倒だなと感じることもある。ただ、最近ではコンビニでの受け渡しやオンラインで注文できる出張クリーニングなどのサービスも登場しており、洗濯物の受け渡し方法は多様化している。

 米国ではこの受け渡しに一般ドライバーを使った「クリーニングのUber」と呼ばれるサービスが登場している。その1つが2013年に事業を開始し、現在は1600万ドルの資本を投資家から集めてシカゴ、ボストン、ロサンゼルスなど6都市でビジネスを展開中のWashioだ。

  Washioの仕組みはUberとよく似ており、依頼者宅と洗濯工場の間の物流を、一定の条件を満たした一般ドライバーが担っている。登録された集配担当者はニンジャ(Ninja)と呼ばれ、依頼者がクリーニング集荷の注文を入れると、一番近くにいて稼働可能なニンジャが30分以内にその依頼者宅を訪問し、回収した洗濯物を工場まで届ける。あらかじめ時間を決めて集荷時間を設定することもできる。

 訪問時のサービスもユニークだ。ニンジャの到着前にはユーザに事前通知が来るが、その後はニンジャが今どこにいるかを地図アプリで追跡できるようになっている。また、ニンジャは訪問時に必ずクッキーなどのお菓子をサービスとして手渡す決まりになっている。集配担当者がビジネスライクに訪問するのとは違い、一般ドライバーだからこそできる、フランクな応対とコミュニケーションも売りの1つ。集荷された洗濯物は最短24時間後に配達可能で、配達時間もユーザが30分刻みで指定することができる。また、曜日と時間を決めて定期的に集配達するサービスもある。

Washioのサービスの流れ

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Washioのサービスの流れ

  Washioが注目を浴びるのは、クリーニング業における集配業務のみにサービスを特化したことだ。考えてみると、既存のクリーニングが提供するコンビニ受け渡しや出張サービスは、本業である「洗うこと」には直接関係ない。どのような形態であっても、集荷した洗濯物が洗濯工場に送られ、洗濯後に店舗経由や出張サービスで衣服が依頼者まで届けられる。要は洗濯工場と依頼者を結ぶチャネルが違うだけだが、洗濯工程自体がコモディティ化している今、集配チャネルこそがクリーニング業を営む企業にとってサービスを差別化する最大のポイントなのだ。

 Washioはこのチャネルの運営だけを行い、洗濯行程は全て契約工場に委託している。集配送はUberのように「非常勤」の一般ドライバーを使って機動性を持たせながらコストを抑えつつ、一般ドライバーであることを逆に利用したフレンドリーさを全面に押し出すことで、Washioは他の出張クリーニング業者と差別化を図りながら、自社はシステム開発とサービス向上のみに集約することができる。

 洗濯物をクリーニングに出すまでニンジャの動きを楽しみながら、集荷が終わったらお菓子を楽しむ。面倒なクリーニングに出す作業が、ちょっとした生活の楽しみになるのかもしれない。

モノを運んでくれるUber

  Uberは人を運ぶ。Washioは洗濯物を運ぶ。そうなると次はあらゆるものを運ぶことを考えるのは自然な流れだ。この、モノを運んでくれるUberはアメリカですでに始まっている。その1つがRoadieだ。おそらく、サービスの大枠は想像できるだろう。Roadieでは登録された一般ドライバーがあたかも宅配業者のような役割を果たす。通勤などで車を使い、特定の都市間を行き来するドライバーやちょっとした遠出で席に余裕のあるドライバーが、依頼者の荷物を「ついでに」載せて配達してくれるサービスだ。
 
 Roadieの良いところは、通常の宅配業者に頼むよりも「楽に」モノを送れることだ。箱詰めも包装も必要なければペットも送れる。送りたいモノをそのままの形で送れるのだ。依頼主は、送るモノの写真をアップし、大きさを「助手席における」「後部座席における」「トラックで運べる」などで指定。ピックアップ場所と配送場所、その他追加情報などを記述して投稿すると、あらかじめRoadie側で設定したルールにより配送料が決まり、近くにいるRoadie登録ドライバーからオファーが入る。

 Uberとは異なり、依頼主はドライバーのレーティング情報や他の依頼主のレビューなどを見て、どのドライバーに依頼するかを選択することができる。この評価制度と依頼者がドライバーを選択できることによって、悪質なドライバーは自然に淘汰されていき、サービスの品質が保たれている。また、支払いも安全のため当事者間で直接行うのではなく、Roadie経由でのクレジットカード決済を採用し、配達が完了した時点で決済が行われる。もちろん、チップや追加の経費、お礼なども料金に追加することもでき、それらは全てドライバーの手取りとなる。万が一の荷物の破損などに対しては、1つの荷物につき500ドルまでの保証が自動的につくようになっている。

Roadieのサービスの流れ

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Roadieのサービスの流れ

 ドライバー側のメリットは、自分の普段の移動時に多少のお小遣い稼ぎをできることのほか、Roadieが提携するアメリカで1700以上の店舗を持つレストランチェーンのワッフル・ハウスでは無料のコーヒーがサービスされることだ。なお、Roadieでの1つの配達によってドライバーが得る報酬は通常8〜50ドル、長距離になると400ドルくらいになるという。

 Roadieが大事にしているのは「コミュニティ」であるという。このコミュニティの中で、同じ地域の人々が助け合って荷物の輸送を行う。海に出かけた家族にサーフボードを届ける、友人の誕生日プレゼントをドライバーに代理人として届けてもらう、ペットを暗いコンテナの中のカゴではなく、セダンの後部座席に座らせて送ってもらう。ある利用者は「配達業者」に頼むのではなく、近くの人に「持っていってもらう」という、非ビジネス的な感覚がRoadieの魅力だと語る。

 2015年にサービスを開始したRoadieは、1000万ドルをベンチャーキャピタルから調達し、全米でそのサービス範囲を広げ、すでに2万人のドライバーが登録しているという。そして多くのケースで、ドライバーはUberなど他のサービスのドライバーも兼任しているとのことだ。

シェアリングエコノミーの本質

 こうして2社を見てみると、シェアリングエコノミー型のサービスは、単に一般の遊休資産・時間を活用してコストを下げる、というものではない。その地域や近隣住民がお互いを助け合うコミュニティ的な側面がある。WashioやRoadieの例でも、企業から全く知らない人が派遣されてくるのではなく、多くの場合はその地域で生活している人、もしくはその地域と他の場所を往復しているような人が、空いた時間で他の人の用事を助けているのだ。

 シェアリングエコノミーは、あらゆるサービスが事業化し、人の用事の全てをプロや企業にお願いするようになった現代において、「近隣の人に頼む」という近年少なくなった地域住民による直接の助け合いをサポートし、失われかけた地域の人間交流をもたらす起爆剤になろうとしている。

 冒頭に述べた「ささえ合い交通」も同様だ。企業から派遣されてきた「知らない人」ではなく、空き時間がある「近所の○○さん」に助けてもらうことは、一度は疎遠になった地域の人たちとまた会話を始める機会を与えるものなのだ。

 シェアリングエコノミー型のサービスは法整備や税制など課題もある。ただ、その根底にある考え方は、「人々の助け合いを仲介する」仕組みだ。このような最新のITサービスが、昔ながらの地域の助け合いを復活させるきっかけを作ってくれるのかもしれない。

 今後も世界ではシェアリングエコノミーの潮流は進むだろう。そうしたビジネスが日本にも普及し、人と人のつながりや地域の活性化に貢献することを強く期待している。  


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ハイテク・半導体企業のグローバルサプライチェーン改革のコンサルティングやIT導入に携わり約20年。多国籍メンバー100名以上のプロジェクト責任者や大手企業のアカウントセールスなどを歴任。トレードシフトのビジョンに共感し日本法人立ち上げに参画。趣味は旅行とツーリング。ゼネラルマネジャー、MBA。

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