3200超のiPhone導入で医療現場が変わる〜慈恵医大の挑戦〜(前編)

IT・IT製品TOP > Key Conductors > キーマンズネット 編集部(アイティメディア株式会社) > 3200超のiPhone導入で医療現場が変わる〜慈恵医大の挑戦〜(前編)
この記事をtweetする このエントリーをはてなブックマークに追加

IT現場の道先案内人 Key Conductors

3200超のiPhone導入で医療現場が変わる〜慈恵医大の挑戦〜(前編)

スマートデバイス 2016/01/27

 ナースコールを鳴らしたが担当看護師がいつ来てくれるのか分からない。友人の見舞いで大学病院に来たが、広く複雑で病室が見つからない。診察や会計で長時間待たされるのが嫌だ――。そんな不安や不満を解消し、医師と看護師、患者をつなげる新たなICTプロジェクトが今、慈恵医大で進んでいる。

スマホ導入で始まった医療分野最大のICTプロジェクト

 医療機関の多くでは、未だPHSが現役だ。しかし、スマートフォンが主流の昨今、これからはこの「小さなパソコン」を活用して医師や看護師、教職員、患者のコミュニケーションを促進する方向に舵を切るべきではないか。そう考えた慈恵医大は、NTTドコモやアイキューブドシステムズ、スタディストなど各社と共同実証研究として病棟内でのスマートフォン導入及びサービス展開に乗り出した。PHSの契約更新、古い外来棟の改築、そして2020年東京オリンピックも後押しの1つになったと、同大准教授の高尾洋之氏はいきさつを説明する。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

学校法人慈恵医大 先端医療情報技術研究講座 高尾洋之 准教授

 慈恵医大が描くICTプロジェクトのロードマップを見ると、これが単なるスマートフォン導入に止まらないことが分かる。

2020年に向けた慈恵医大ICTプロジェクトのロードマップ

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

2020年に向けた慈恵医大ICTプロジェクトのロードマップ

 1月には、患者向けに院内Wi-Fiサービスが提供開始を予定。4月以降は、初めての来院でもスマホやタブレットを片手に目的の場所へたどり着けるように支援する、iBeaconを使った屋内測位システムによる院内ナビサービスを提供予定だ。これは、看護師が見つけやすいよう医療機器の位置情報の管理に応用することも検討中だという。

 これ以外にも、カード携帯忘れや紛失の負担を軽減する「スマホ診察券サービス」、待ち時間を好きな場所で過ごせる「院内呼出しサービス」、クレジットカード決済や会計完了通知をスマートフォンで受けられる「オンライン会計サービス」も提供したいと高尾氏は言う。

オンライン会計サービスが導入されれば、会計のために待合室で待たされることもなくなる

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

オンライン会計サービスが導入されれば、会計のために待合室で待たされることもなくなる

干渉実験と電波状況の改善で電磁波の影響を調査

 ICTプロジェクト全体の成功を左右する最初の取り組みが、スマートフォン導入だ。導入に当たり、高尾氏たちはまず初めに電磁波の影響を調査した。2015年8月、総務省は「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針」の改定版で、2012年7月25日以降に提供されている通信サービスを利用する携帯電話端末について、ペースメーカーなどの誤作動を起こす範囲は5cm以内と明記した。しかし、医療機関の医療機器について、影響範囲は1mとの実験結果を出しながらも、実際の運用は医療機関の判断に任せるとある。範囲を厳密に割り出してリスクを知るためにも、高尾氏たちは電波実験を敢行した。

 実験の結果、電磁波の最大出力時に38cmで影響が出ることが分かった。もっとも、最大出力になるのは一般的に圏外の時だ。電波状況が良ければ、2cmまで迫らないと影響は出ない。「つまり、電波状態が良ければ、医療機器に抱き付かないかぎり問題ないと判断できる」(高尾氏)

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

公式Webサイトに掲載された院内でのスマートフォンやタブレット運用についてのお知らせ。院内にも掲示されている。

 ただし、病院にはCTやMRといった放射線などを出す機器があるために壁が厚く、電波状況は良くない。そこで同大はNTTドコモと協力し、院内の電波状況の改善に取り組んだ。今では臨床の現場でも電波が通るようになり、医師については院内どこででも通話含むスマートフォン利用を許可できるレベルになったという。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)


 また、来院者・患者向けのスマートフォン利用に関する案内は、エレベーター内や入院病棟、外来の出入口などに掲示されており、会話などのマナーを配慮した上でスマートフォンを利用できる旨が書かれている。

 こうしてiPhoneが3224台、フィーチャーフォンが364台、計3588台を導入、2015年10月には医師への配布が開始された。

医療分野のIT化を加速させるソリューションも共同開発

 今回のプロジェクトでは、「Join」「MySOS」「Team」の3種類のソリューションをNTTドコモと株式会社アルムと共同で開発、導入した。

 Joinは、クラウドベースの医療機関向け情報共有ソリューションだ。Joinクラウドサーバを介してスマートフォンなどから安全に医用画像やデータを共有、参照できる。特に活用が期待されているのが救急時や災害時を含む地域医療連だ。患者の内服薬や既往歴、健康診断結果などを管理できるスマホアプリ「MySOS」と連携することで、病院機関同士で専門医の所在、患者の人数やデータなどを共有でき、対処・対応がスムーズになる。

 「最終的には、医療の質の向上、医師不足の解消、医療費の削減を目指す。実際、慈恵医大ではJoinを導入したことで救急入院の急性期脳梗塞疾患患者あたり年間約6万円の医療費削減が達成できた」(高尾氏)。慈恵医大付属4病院をはじめ、2015年10月時点で全国50の病院が導入・導入予定で、アメリカやブラジル、台湾、スイスなどでも日本発のソリューションとして導入が進んでいる。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

Joinでは医用画像やライブ映像を安全に共有できるほか、医療連携でも活用できる。導入したアメリカのラッシュ大学では、救急車と専門医とがJoinを介して車内での初期処置対応などを実施するなど、救命活動に役立てているという


※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

MySOSは、救急隊が到着するまでにできる一次救命処置ガイドや応急手当ガイド、救護依頼、マイカルテなどの機能を提供する。日本山岳救助機構による登山計画作成・提出シスム「コンパス」とも連携している。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)


※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

そしてTeamは、介護支援システムだ。家族やヘルパー、かかりつけ医がモバイルデバイスを介して患者の医療情報や食事量、処置などを共有、確認できる。

モバイル支援「CLOMO」で

 もう1つ、同大はモバイルワーク支援プラットフォーム「CLOMO」を導入した。デバイス管理サービス「CLOMO MDM」や共有電話帳アプリ「CLOMO Secured Contacts」、セキュアブラウザアプリ「CLOMO Secured Browser」、チャットアプリ「CLOMO IDs」を提供する。

セキュアなモバイルワーク環境を実現する「CLOMO」

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

セキュアなモバイルワーク環境を実現する「CLOMO」

 共有電話帳は、顔写真付きで連絡先が分かると医師から好評だ。また、チャット機能も利用者が着実に増えていると慈恵医大研究員、畑中洋亮氏は述べる。

 「説明会では機能を紹介するだけで、特に利用を強制しなかった。しかし、初日には250人程度が使い始め、わずか2週間で利用者が400人にまで増えた」。まずはチャット機能からCLOMOに慣れてもらおうという思惑があった同氏にとって、良い滑り出しだったと言える。「ほかにも位置情報の送信など使える機能がいろいろあるので、今後はプライバシー面や使われ方を考慮しつつ機能の提供の有無を考えたい」

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

学校法人慈恵医大 先端医療情報技術研究講座 畑中洋亮 研究員

 第三病院管理課では、手術室が満床で一般外来で緊急手術を必要とする時などに、PHSの一斉同報機能を使って医師に通知していた。しかし、配信は複数回に分けて行わなければならず、発信手順も複雑だった。それがMDMの一斉通知機能に変えたところ、簡単な操作でプッシュ通知できるようになった。

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

東京慈恵会医科大学附属第三病院 事務部 管理課 係長 安部一之氏

「医療現場には30以上の職種があり、いっぺんに情報共有したり、送りたい複数名にのみ配信したりするのが、これまでは煩雑だった。それが簡単にできるようになったことは大きい。現在は緊急通知だけに使っているが、たとえば盗難事件が発生した時に該当する病棟の関係者に素早くプッシュ通知するなど、防犯上の活用も考えられる。柔軟性と拡張性に優れたソリューションだ」(東京慈恵会医科大学附属第三病院、事務部管理課の安部一之氏)

 また、東京慈恵会医科大学附属病院、事務部管理課の村上聡氏も電話帳の一元管理に大きなメリットを感じていると話す。
 「これまでPHSでは、Excelを加工してPC、マスターPHSの順番に取り込んでから、事務局担当者に管理課まで足を運んでもらい、5000人以上もの職員のPHSへ赤外線通信で1台ずつコピーしていた。それがクラウド経由で一気に反映できるようになった」

※会員登録いただくと図をご覧いただけます。
会員登録はこちら(無料)

東京慈恵会医科大学附属病院 事務部 管理課 主任 村上聡氏

会員限定で「読者からのコメント」が読み書きできます! 「読者からのコメント」は会員限定の機能。会員登録を行い、ログインすると読者からのコメントが読み書きできるようになります。

会員登録(無料)・ログイン

Myリストへ 印刷用ページへ

この記事をtweetする このエントリーをはてなブックマークに追加


この寄稿記事に掲載している情報は、掲載日時点での情報となります。内容は変更となる場合がございますのでご了承下さい。また、「Key Conductors」の寄稿記事及び当該記事に寄せられたコメントについては、執筆者及びコメント投稿者の責任のもと掲載されているものであり、当社が、内容の最新性、真実性、合法性、安全性、適切性、有用性等を保証するものではありません。


30008543


IT・IT製品TOP > Key Conductors > キーマンズネット 編集部(アイティメディア株式会社) > 3200超のiPhone導入で医療現場が変わる〜慈恵医大の挑戦〜(前編)

このページの先頭へ

キーマンズネットとは
キーマンズネット編集部スタッフです。よろしくお願いいたします。キーマンズネットは企業・法人のIT選定・導入をサポートする総合情報サイトです。IT初心者から上級者まで、みなさまのさまざまなニーズにお応えします。

ページトップへ