iPadで“ペーパーレス操縦室”を実現した航空会社

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iPadで“ペーパーレス操縦室”を実現した航空会社

スマートデバイス 2015/09/24

競争の激化で厳しさが増す航空業界で、ITを使ってコスト削減をしようとする会社は多い。そんな中、デスクトップ仮想化で「Windows XP」の移行を低コストで済ませ、さらには飛行機のパイロットにiPadを支給した会社がある。
(本記事はITmedia エンタープライズに2015年5月19日に掲載された記事を転載したものです)

 航空業界へのITシステム導入が進んでいる。安定しない燃油価格に加え、LCCを交えた競争が激化しており、業界を取り巻く状況は厳しさを増す一方だ。競争力を維持するためにITでコストを削減しようとする企業は多い。

 アイルランドの首都ダブリンを中心に欧州、そして北米やアフリカなどの長距離路線を持ち、年間1060万人を運ぶ「エアリンガス(Aer Lingus)」も、そんな課題に直面していた一社だ。“ケルトの虎(ケルティックタイガー)”としてIT景気で高成長を遂げてきた同国の経済が、2008年を境に後退したこともあり、大規模なコスト削減を余儀なくされたという。

 同社が“IT改革”にかけた時間は約2年。そのポイントは、仮想デスクトップの活用で「Windows XP」からマイグレーションするという「守りの施策」と、タブレットによる操縦室のペーパーレス化を実現するという「攻めの対策」を平行して行ったことだ。

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アイルランドのナショナルカラーである緑色のクローバーをシンボルとするエアリンガス

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エアリンガスは、米Citrixの年次イベント「Citrix Synergy 2015」において、同社製品で革新を遂げた顧客企業に授与する「Citrix Innovation Award」に選ばれた(出典:エアリンガス)

仮想デスクトップを使い、Windows移行を低コストで実現

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エアリンガスの“IT改革”を手がけたデレク・モナハン氏

 この取り組みを指揮したのは同社のITサービスマネジメント担当ディレクター、デレク・モナハン(Derek Monahan)氏だ。約3年前に同職に任命されてから、彼が最初に着手したのが、社内4500人が使っていた「Windows XP」の移行問題だった。

 2014年4月にサポートが終了するXPから「Windows 7」へと移行するにあたって、同氏はCitrixの仮想デスクトップ技術「XenDesktop」の導入を決めた。旧来の投資(主にPC)を維持しつつ新しい環境へと移行でき、大幅なコスト削減につながるためだ。MicrosoftとVMwareの仮想デスクトップも検討したが「柔軟性と速度でCitrixの技術が卓越していた」(モナハン氏)という。移行作業の検討を2013年に始め、実際の作業に入ったのは、サポート終了1カ月前となる2014年3月ごろだった。

 OSと合わせてアプリケーションの移行作業も進めた。当初、約570種類ものアプリケーションがあったが、「よく見てみると同じ『Office』でも、複数のバージョンがあるなど重複があり、社員はバラバラのバージョンを使っていた」とモナハン氏は振り返る。

 整理の結果、約半分となる275種類のアプリを移行することに。アプリケーション移行や互換性の分析を行うCitrixの「AppDNA」を利用し、部門ごとに移行を行った。最終的に、この作業に1年2カ月ほどかかったという。

社内のプリンタを9割以上削減

 Windows 7への移行を機に、ほかにも合理化できる要素はないかと、モナハン氏のチームはシステムの見直しにかかった。そこで彼らが目をつけたのが“印刷作業”だったという。

 社内には約1400台のプリンタがあったが、ネットワークに接続しているものもあれば、PCに直接接続されているものもあったそうだ。そのうえ、使い方にも問題があった。「プリンタには常時誰かがプリントアウトしたものがたまっている。不要なものも印刷するのが常習だった。しかもカラー印刷さ(笑)」(モナハン氏)

 そこでモナハン氏は、プリンタをすべてネットワーク化し、台数も従来の6%程度となる85台に絞り込んだ。さらに、マシンからプリンタにコマンドを送った後、プリンタでユーザー認証することで初めて印刷が実行される“プル型プリント”技術の「Secure Follow Me Printing」を導入、これにより無駄な印刷を削減した。もちろんモノクロ、両面印刷が基本だ。

 また、自宅や出張中でもファイルにアクセスしたいというニーズに応えるため、Citrixのオンラインストレージを利用してタブレット、Windowsマシン、Macと端末を問わずにアクセス、共有できるようにした。これらの施策で、メンテナンスコストは50%、ライセンスコストは60%削減できたという。

操縦室から“紙”をなくす

 こうした“守りの対策”と平行して進めたのが、“攻めの対策”となるタブレット導入だ。彼らはタブレットをオフィスではなく、飛行機の操縦室に導入したのだ。

 というのも、パイロットには“マニュアルや飛行計画など数キログラムにも及ぶ書類を携帯するのが面倒”という悩みがあったためだ。そこでiPadで書類を閲覧するスタイルに切り替えることにしたという。荷物が減れば機材が軽くなり、最終的に燃油の削減にもつながる。その後、業界専門のベンダー「AeroDocs」と組み、専用アプリの開発と書類のデータ化を進めた。

 機内でのタブレット利用については、航空規制当局の承認を得る必要がある。条件は6カ月間のトライアルで異常が起きないことだった。まずは北米路線のパイロット向けに実験を開始。これまで大量の書類を抱えていたパイロットは、免許証とiPadがあれば飛行機に搭乗できるようになった。

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iPadでマニュアルを確認するスタイルに切り替え、“ペーパーレス操縦室”を実現した

 搭乗にまつわる準備や手間が大幅に短縮されることから、トライアルはパイロットに好評で、最終的に750人全員のパイロットにiPadを支給したそうだ。トラブルでiPadが使えなくなるケースに備え、操縦室にはバックアップ用として、機材ネットワークに接続したパナソニックのタブレット「TOUGHBOOK」も用意した。

 このiPadは会社からの完全支給だが、製品をリフレッシュする2年後には、社員自身のものとして使えるようになるという。「2年後に自分のものになると思うと、大切に使ってくれる」とモナハン氏は狙いを語る。

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タブレットで飛行計画を確認する。バックアップとしてパナソニックのタブレット「TOUGHBOOK」を配備している(画面後方)

 セキュリティについては、CitrixのMDM(モバイルデバイス管理)機能「Citrix XenMobile」を導入した。端末の紛失時には、報告を受けた5分後にはデータを完全に削除する、といった対策を講じている。

 世界中を飛び回るため、海外にいるときの通信はデータローミングとなり、通信費が跳ね上がってしまうという問題もあったが、社内のアプリやデータ、飛行計画にアクセスするときは3G回線、Facebookなどプライベートで利用するアプリについてはWi-Fiでしかアクセスできないという“サンドボックス”化で対処したという。

iPad導入の次は「ユーザー体験の向上」

 “空の上”での導入効果が確認できたことから同社では、地上のスタッフ1200人にもiPadを配布した。GPS機能を利用して、荷物の積み下ろしや機材の移動などの作業を追跡したり、作業の変更をいつでも通知できるようになった。これにより、機材の離発着時に必要な地上での作業が効率化され、乗客の誘導もスムーズになったという。「われわれにとってフライトの遅れは大きな損失になる」とモナハン氏。今後、2015年内にはさらに1500人の客室乗務員にもiPadを配布する予定だ。

 モナハン氏はiPadに続くIT改革として、「顧客向けにスムーズな体験を提供するプロジェクトに取りかかりたい」と意気込む。計画しているのは、顧客が空港に来てチェックインし、荷物を預けて、フライトの時間になると搭乗するという一連の作業を、RFIDタグとモバイルを利用することで自動化するという、IT化への取り組みだ。

 その取り組みの第一歩となるのが、2015年6月のサービスインを目指す新たなWebサイトの提供だ。インタフェースやデザインを刷新し、ユーザー体験を改善するという。航空券の約9割をオンラインで売り上げている同社にとって、Webサイトは顧客が最初に情報に触れる大切なポイントだ。

 「航空業界は変化が激しい。競合と同じではなく、一歩先んじる必要がある」とモナハン氏は強調する。“アイルランドと世界を結ぶ”を目標に掲げるエアリンガス。ITがもたらす業務改革から今後も目が離せない。

(末岡洋子,ITmedia

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