メンタル問題がもたらす企業のコスト・リスクとその先にあるもの

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メンタル問題がもたらす企業のコスト・リスクとその先にあるもの

基幹系システム 2015/09/09

 前回に引き続き「ストレスチェック義務化」の背景にある、日本企業におけるメンタル不全の現状について紹介していく。今回は、いわゆる従業員の“メンタルの問題”が企業にもたらすコストを定量的に見ていきたいと思う。
 メンタルにより休職をしてしまった従業員が1人いた場合、まずその方の給与が失われる(直接的損害)。しかし企業が担うコストはそれにとどまらない。予期せぬ休職者が出た場合、上司や人事部は本人とのやり取り、主治医や産業医との相談に追われる。また休職者が担っていた業務を他のメンバーに割り振らなければならないし、そのために周りのメンバーの負担も発生する。彼らの残業も増えるだろう。
 ある試算によると、年収600万円の従業員が1人“半年間”休職した時のトータルコストは、800万円超となり、休職者の年収を上回ると言われている。

 休職者を代替するためには、採用コストも必要となる。昨今は売り手市場なので、なかなか中途採用は決まらない状況だし、採用エージェントに支払う手数料も上昇傾向にあると言う。
 健保組合の財政の問題もある。傷病による休職については原則1年半、健康時の月収の2/3程度が傷病手当金として支出される。また、通院や投薬による医療費も一定額を健保が負担することになる。少子高齢化の影響により、老人福祉の一部を健保が負担する拠出金の割合が大きくなってきており、健保財政は極度に悪化している。メンタル休職による傷病手当金の支出がもたらす健保財政の悪化は、企業が負担する保険料率の上昇という形で中長期的に企業のコスト負担に跳ね返るだろう。
 もし万が一、従業員が業務上の理由で自殺し、それが会社責任と認定された場合、安全配慮義務違反不法行為で会社は莫大な賠償金を支払うことになる(図)。 

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 このように、金銭的に計量できるコストも当然企業にとっては大きなダメージとなるが、それ以上に計り知れないインパクトをもたらすのがレピュテーション(評判)リスクだ。 
  少子高齢化の進行により、高齢者や女性など様々なメンバーを組み入れて従業員のダイバーシティ化を進めなければ、企業は立ち行かない状況だと言われている昨今、企業は「きちんと従業員をケアしていますよ」というメッセージを発信する必要がある。
 職場環境が劣悪で、休職者が大量に発生しているような職場、生気ない顔で覆いつくされているオフィスに新卒の学生や中途採用者は行きたがるだろうか。企業は“生き生きした働き甲斐のある場所である”ということをアピールするために、様々な取り組みを積極的にしており、メンタルヘルスケアも大きな柱となりつつある。

 その昔は、「メンタルヘルスに力を入れている」というと、何か問題がある企業ではと勘繰りの目で見られたこともあったが、現在ではむしろ積極的に企業がPRの素材としている。ストレスチェック制度では、企業は労働基準監督署に対して報告義務があり、法定基準を満たしていない企業は指導される。その一方、「安全衛生優良企業」表彰制度を厚生労働省が制定しており、メンタルヘルスも含めた安全衛生にきちんと取り組む企業をいわゆる「ホワイト企業」として表彰するそうだ。こうした認定や「健康経営格付」などをリクルーティングや社員定着の武器にしていきたいと考える企業も増えるだろう。  

 これまでメンタルの問題は、企業にとってのリスクマネジメント、コスト減少という観点から語られてきたと思う。もちろん継続企業としてその観点が必要だが、今後はより長期的観点で人材の惹き付け、評判による企業価値の向上などの観点から取り組む流れになるだろう。
  繰り返しになるが、最低限やらなければいけない“ストレスチェック”を形だけこなす、という考えでは、成長を志向する企業としては到底不十分であり、生き生きと前向きな姿勢で従業員が働けるような施策に取り組む必要があると考える。

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キーマンズネットとは
(株)アドバンテッジリスクマネジメント 取締役 常務執行役員。東京大学法学部卒業、文部省(現文部科学省)入省。2001年にアドバンテッジリスクマネジメント入社。経営企画を中心に、メンタルヘルスケアや就業障がい者支援などの分野で現在の事業の柱を作る。

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