ワークスタイル変革とシェアードスペース(8)

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ワークスタイル変革とシェアードスペース(8)

2015/06/10

 今回は、シェアードスペースの今後の進化の 予想である。まず、前回掲載した、ユーザー側の視点と企業の視点を再掲する。

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 上図で従来型オフィスの利点としてアウトプット業務、企業内コミュニティを挙げた。シェアードスペースはアウトプット業務では恐らくオフィスでの執務程の単位時間あたりの生産性は期待できないが、移動時間の削減、タイムリーな執務を可能とするという意味では有用性はある。一方で追加コストがかかるので、強いインセンティブは働かない。企業のシェアードスペース利用は依然夜明け前という事になるが、時代は既に動き始めている。

企業が“最大の生産性”を発揮するためには?

 極シンプルに考えれば、生産性は時間的にも空間的にも有効な活動を効率的に配置できるか否かが問題となる。

 従来型オフィスの欠点は、従業員に割り当てられた設備の実質的な稼働率が低い。物が置いてあるだけでそのオフィス賃料の原因となるし、従業員が実際にその席にいる時間は5割を下回るケースも多い。
 従業員に焦点を当てれば、通勤時間や移動時間はロス時間となり稼働率低下の原因となる。一日在宅で済むなら、その日の通勤時間も移動時間もゼロ。通勤時間2時間、勤務時間7時間とすると、以前の実拘束時間辺りの可処分時間は9/7となる。オフィス勤務から単位時間当たり生産性が2割落ちたとしてほぼ同等のアウトプットとなる。設備の整ったシェアードスペースが移動時間30分の所にあったとすると、実際の可処分時間は8時間となり、単位時間当たりの生産性が同等なら1割以上アウトプットが増える計算になる。勤務時間は7時間であるという原則に経てば、オフィス勤務とシェアードスペースの生産性は同等で在宅は生産性低下となる。個人の負担は オフィス > シェアードスペース > 在宅 となるだろう。

 先端分野での生産性となると、もう少し話は複雑になる。例えば、ビッグデータに関わる処理システムを開発するような場合や、オープンソースを使ったシステム開発のような場合は、インプット業務がアウトプット業務と密接に関わって来る。シェアードスペースと企業業務の連携事例としては、サンフランシスコにあるgalvanizeという複合型シェアードスペースがある。12週間のデータサイエンス等の教育コースを提供する教育機関でもあり、月額550ドルと高額ながらコワーキングスペースとしても利用可能であり、ベンチャー用の島単位での契約もあり、企業用のガラスで囲われた占有スペースは3200ドルからという価格設定で提供されている。実際に訪問してみると大盛況で、IBMや名だたる企業が占有スペースを契約している。galvanizeは、ビッグデータ等に挑戦する技術者が集まる場所として機能していて、そこでプロジェクトを実施したりベンチャーが活動したりする事に合理性を見いだしているのである。

 学生への一部作業の委託が行われるケースもあるようで、ここで学ぶ技術者は実体験の機会も増え、企業側は有能な技術者の採用も視野に入れる。このようなケースだと、生産性は シェアードスペース >> オフィス という構造になり、別の意味を持ってくるようになる。潜在的には日本においても能力のある従業員の争奪戦は始まっているし、正規非正規雇用に関わらずライトスタッフが集められなければ仕事そのものが成り立たないというケースもあるだろう。ワークスタイルの話からやや逸脱するが、従来型の雇用関係に留まっていると新しい挑戦で遅れを取りかねないという流れと捉える事もできる。

 ワークスタイルと言えば、働き方、場所や時間の問題と狭く捉えがちであるが、最後の事例等はビジネスモデルまで踏み込んだより広い意味でのワークスタイルの変革である。米国的な自由競争が透けて見えて来る。一時的な雇用でも腕一本で高給取りを夢見る事ができ、企業は競争のためなら躊躇う事無くタレントを活用して行く、雇用流動化が激しく進んだ世界でもある。

予想1(特化型) オフィスより高生産性が期待できるシェアードスペースの出現

 現在のシェアオフィスは、従来のオフィス賃貸の小規模化であり、現在のコワーキングスペースは、コワーカーという個人へのワークスペース提供とコミュニティ機能による付加価値の提供に留まっている。galvanizeほどでは無くても、その場で集まって働く事が従来オフィスより高い生産性を生むように意図して運営するシェアードスペースの台頭が流れを変えて行くだろう。

 現時点で、コワーキングスペースと相性が良いと言われているのはまずはシステム開発分野である。最近ではまだ特化型と言えるような強さは感じられないもののWordpressやKintoneの勉強会が特定のスペースで繰り返し行われているケースが出て来ている。オープンソースやAPI利用型の開発環境などは相性が良い分野である。個別のシステム開発には様々な機密事項があるが、一般的なプラットホームの知識・ノウハウはオープンなものだ。有識者、経験者の多い場所で執務すれば生産性は上がる。

 3Dプリンタ等を配置したファブラボもそのタイプのシェアードスペースと言えるだろう。またクラウドソーシングとの関係も出て来ると思われる。クラウドソーシングで稼げるようになるためには腕が無ければならない。腕を上げるためにたむろする場所としてのシェアードスペースは台頭して来るだろう。ある程度特化した知の集約拠点の出現に大いに期待している。

 このタイプのシェアードスペースの付加価値は、設備の善し悪しや利便性もさることながら、その空間の先進性、時代適合性が問われる。ある種の熱い場所としてブランドを確立できれば、スペースサイドの採算性も大きく改善するだろう。

予想2(生活型) 育児や介護等ライフイベント関連施設とシェアードスペースの連携

 在宅勤務ができる業務で在宅勤務が許されないような企業は自然と衰退するだろうが、幼子と2人だけの家で集中力を要する業務を在宅勤務で行う事を想像するととても恐ろしい。スマホを見ている間に事故が起きているのだから、集中した仕事の時間を過ごすためには在宅でない方が良いケースもあると考える。

 託児所と提携関係を結んでいるシェアードスペースもあるし、一定の人数が集まれば、保母を呼んで目が行き届いている状況で執務できれば望ましいケースもあるだろう。
 「目が離せない状態」というのは非常に大きな制約である。隣接あるいは徒歩1分以内、十分以内に身内がいて、緊急時にはいつでも呼び出せるという状況で類似の境遇にある人達が集まってサービスをシェアすれば個々人の負担は減る。

 オフィスでもなく、自宅でもない、第三の選択としてのシェアードスペース利用はやがて立ち上がって行くだろう。ただ、行政、企業側の理解が醸成されるまでには時間がかかるかも知れない。

予想3(ホーム型) ホームスペースという概念が産まれる

 成功しているコワーキングスペースの事例によれば、シェアードスペースの商圏は日本であれば概ね自宅から30分以内である。通勤には1時間程度かけるとして、シェアードスペースはその半分以下の30分以内でないと常用(毎日という意味ではない)に適さない。逆に東京圏であれば、自宅から30分以内に1日平均乗降客数が10万人を越えるような大きな駅とそれを取り巻く街がまずある。渋谷新宿等100万人級の街となれば、相当軒数のシェアードスペースが共存可能である。

 オフィスワーカーが毎日使うケースは稀であろうが、企業がシェアードスペースの利用を許容するようになれば、最寄りの行きつけのシェアードスペースとの契約を結んで出社には及ばない勤務日を過ごす人は増えるだろう。1時間の可処分時間の増加は馬鹿にならない。自分の嗜好によっては30分より遠い所になるかも知れないし、特化型のスペースをホームにする人もいるだろう。中には生活型のスペースをホームにする人もいるかも知れない。

 ホームスペースは、ある程度地域に根ざしたコミュニティ基盤となる。特化型のような尖った部分を持たなければいけない訳ではない。立ち上がりの段階では特化型に似たイベントで認知度を上げる必要があるかも知れないが、本質的には執務可能で快適な環境が提供できれば十分である。もちろん、地域に根ざした付加価値があるのが望ましいのは言うまでもない。集まる人の多くが30分以内であれば、個別の助け合いの余地もある。

 一方で、個々人からすれば、その活動範囲はホームに留まる訳ではない。訪問先の近傍にある他のスペースを利用したいというニーズは必ずある。ユーザーからすれば、ホームスペースとの契約を結んでいれば、一定の範囲で他のスペースも利用可能になれば嬉しい。現在でもコワーキングスペース間で提携関係を結ぶ所や、同一ブランドであれば他の場所のスペースも無償あるいは割引価格で利用できるプログラムを作っているケースもある。利用者の立場に立てば、幅広い選択肢があるのが望ましい。スペース側からすると、それが利益につながるのであれば他のスペースからの良質な来訪者は歓迎である。

 シェアードスペース間でのアライアンスを実現できるインフラの確立が望ましい。そういったアライアンスが行われるようになれば、ホームスペースはある種の信用供与者の役割を果たす事にもなるだろう。身元がしっかりしている人は受け入れやすい。一定の長期契約をホームスペースと結んでいる実績がある人は単なる一見さんとは違う扱いを受けられて当然である。所属企業が信用になると考える人もいるだろうが、実態は異なる。一流企業にも横柄で場の空気を損なう従業員はいるので、どこかのホームスペースで契約を打ち切られる事無くとけ込めているメンバーの方が信用できるのである。

 特化型のスペースはある種のアウェー型で、一時的、目的指向での利用が中心となるが、ホーム型のシェアードスペースはメンバーのニーズに細かく耳を傾けてサポートできる能力が魅力となるだろう。
 特化型は大型誘致または専門病院風、ホーム型は単立、かかりつけ医風の形態とチェーン展開の共存になるのではないかと予想している。アウェーでホーム型のスペースを使うときはチェーン展開している所が有利になるだろうが、良質な単立のホーム型スペースで良い成果を生み出す所も成功するだろう。地元の美味しいレストランや喫茶店で成功する所もあるが、旅先では良く知られたブランドの店を無難に選ぶという構造に似るのではないか。

 ちなみに、地域の行政は、ホームスペースの集客力が高まれば、それが街の飲食店等の売り上げにも貢献するようになるし、結果的に地域は活性化する。日本においても機敏な自治体は、シェアードスペースを地域活性化施策のキー要素として位置づけ始めている。

おわりに

 8回に渡ってシェアードスペースについて解説してきた。日本は特殊とか、遅れていると言った声に接する事はあるが、人口比で考えれば欧米の状況とほとんど変わらない。もちろん、傾向の差はあり、アメリカは資本の力を用いて大きな新しい動きがいくつも見られる。欧州は、街興し、国興しの側面と多様で自然拡大的なイメージが強い。企業をターゲットとした活動では明らかに米国が一歩進んでいるように見えるが、まだまだこれからである。

 少子化時代はシェアードスペースにとっては追い風である。都市への人口の集中も追い風になる。有為人材の争奪戦の激化は間違いなく起きるだろうし、企業にとっても個人にとっても、じわじわとその存在が意味を持って感じられるようになってくるのは間違いないだろう。

 ワークスタイルに関わる変化は、中々目には見え難いが、見えて来た時には例えば生産性で大きな差がついている事が多い。本連載が多少なりとも読者のお役に立てば望外の幸せである。  

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キーマンズネットとは
2013年3月に29年勤めた株式会社シーエーシー取締役を退任し、合同会社ユビキタスライフスタイル研究所を設立。新しい働き方を容易にするためのサービス開発中。2009年から2010年末までNY勤務経験あり。JISAワークスタイル変革とITプロジェクト座長(2012年度〜)。

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