ユビキタスワークスタイル変革実践ガイドライン(5)

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ユビキタスワークスタイル変革実践ガイドライン(5)

スマートデバイス 2014/08/28

 前回までにユビキタスワークスタイル成熟度モデルとアセスメントの方法を述べた。このガイドライン整備の目的は、企業がユビキタスワークスタイルを確立する方法を明示することである。今回から、ワークスタイル変革プロジェクトの実行計画の策定と実施について解説する。

変革プロジェクトの基本プロセス

 ユビキタスワークスタイル成熟度モデルは継続的な改善を前提としたプロセスである。大きなプロセスとしては、品質に関わる継続的改善活動と大きな差異は無い。

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 目標設定、基本方針の策定および評価は経営の責任である。経営トップの強い意志が無ければ途中で失速する危険が多く、基本方針が明確でないとプロジェクトは混乱する。この目標設定はある意味で一番難しいタスクである。ワークスタイル変革には長い時間がかかる。5年後、10年後を見据えて、企業のありたい姿を考えるのがスタートであり、次いで短期の目標を確定しなければならない。
 ガイドラインでは、「経営トップは、ワークスタイル変革の目標は企業力強化であることを明示すべきである。しばしば、ワークスタイル変革は福利厚生と結びつけて考えられてしまうので、最初に宣言しておく必要がある」と書いた。営利企業であれば、ワークスタイル変革の目標は企業力強化の目線で設定するのが誠実な姿勢である。企業価値の向上につながる目標を掲げる事で、初めて社としての改革プロジェクトの推進力が生まれる。従業員に不要な負担を強いるような目標は中長期的な企業価値の毀損につながるから、このタイミングで十分な検討を行えば、経営視点、従業員視点で双方にとって納得できる目標を立てる事ができる。

変革プロジェクトの基本方針策定

 基本方針のテンプレートとして提案したのは以下の6項目である。

1. 対象業務選定方針

ワークスタイル変革の対象とする業務の選定方針

2. 執務場所

従業員の執務場所の制約をどこまで取り払うかの方針

3. 執務時間

従業員の執務時間の制約をどこまで取り払うかの方針

4. 評価方法

従業員の評価方法の見直し方針

5. 機密情報の扱い(コンプライアンス)

ワークスタイル変革によって従来と異なる機密情報の扱いが必要となる場合は、その取り扱いの見直し方針

6. マネジメントスタイル

ワークスタイル変革によって必要となるマネジメントスタイルの見直し方針

■変革プロジェクトの基本方針策定「1」〜「3」について

 まず、考えるべきなのは対象業務の選定基準である。ガイドラインでは明示していないが、筆者は災害対策(BCP)視点、生産性視点、ライフイベント対策視点を軸として考えると検討が容易になると考えている。
 災害対策は天災、伝染病等の発生時にビジネスを継続可能にする「もしもの時のための備え」である。誰でもその必要性は理解できるが、その備えだけでは利益は生まない。ややもすると後送りしたくなるが、ワークスタイル変革推進のタイミングで、まずはその課題を改めて検討してもらいたい。ビジネス継続のために必須の業務、災害時に収益低下、信用低下につながる業務をリストアップされたい。それを生産性視点を加えて見直し、日常のワークスタイルを変革すれば、災害対策と生産性向上の二兎を追う事が可能となる。どこにいても遂行可能な業務は災害時でも止まらない。
 また、「災害時に収益低下、信用低下につながる業務」は収益上の重要業務であるから、ワークスタイル変革でその生産性が向上すれば、企業価値の向上になるのは言うまでもない。ついで、そういった重要業務でキーパーソンがライフイベントにより従来型勤務が困難になった場合を想像すると良いだろう。代替できない従業員は貴重な戦力であると同時にリスクでもある。重要業務での重要戦力を想像し、仮に移動が困難な状況に陥った事を想像してみれば良い。彼、または彼女がオフィスに来る事ができなくなっても、彼、または彼女が貢献し続けられるようなビジネスプロセス、チームのあり方を検討すれば良い。
 ライフイベント視点は、従業員の安心でもある。介護や育児、自分や家族の闘病等は、誰にでも起こり得る事象である。そういったライフイベントが発生しても就労が継続できると思えれば、安心して仕事に取り組む事ができる。また、ライフイベント視点は業務遂行チームの相互協力と緊急時のタスクの代替処理を検討する事になるのでチームとしての生産性を高める効果も期待できる。強く、相互に助け合えるチームの実現は成果主義一本の分断された個人ワークとは全く違うものである。
 対象業務の検討を真剣に行えば、自然と望ましいワークスタイルのイメージができているはずである。業務のサービス時間や提供起点と個々の従業員の執務場所や執務時間は一致している必要は無い。チームとして業務のサービス時間、営業時間帯が守れなければ顧客(社外顧客あるいは社内顧客)の信頼は得られないが、チームとして機能していれば、育児のための送り迎えで執務時間の異なる人がいようが、在宅や出先での勤務者がいようが業務に支障は出ない。業務が回れば目標の項目2の執務場所や項目3の執務時間は緩いに越した事は無いのである。ただ、プロセスの整備や業務遂行のためのITインフラが整っていなければ、緩める事はできない。
 企業としてユビキタスワークスタイル成熟度が例えばレベル1であったとしても、業務としてレベル3を達成しているケースはある。執務場所や執務時間については、「対象業務がレベル3認定されていれば執務場所、執務時間に全く制約を設けない事とする」といった目標を設定しても良い。こういった全社目標があれば、各部門あるいは業務チームが自ら望んでワークスタイル変革を進めるインセンティブとする事ができる。繰り返しになるが、ライフイベントに起因する執務制約は誰にでも起こりうる。そのような問題発生時にも強い組織になろうという思いは共有可能であり、強いチーム形成と相反するものではない。同じ場所で同じ時間帯に共にいなければ強いチームになれないと思い込むのは適切ではない。重要なのは業務目標の共有であり、その達成へのコミットと高い遂行能力である。むしろ執務形態の自由度が高い状態の方が、より生産性を向上させられる余地が大きいと考えた方が良い。

■変革プロジェクトの基本方針策定「4」〜「6」について

 項目4の評価の問題は、普遍的なものである。ユビキタスワークスタイルの実現にあたって評価方法が大きな阻害要因となる可能性がある。例えば、「通常勤務帯にオフィスに出て働いているがあまり役に立っていない人」が「ユビキタス勤務であるがチームへの貢献の大きい人」より評価が高いという事になれば、管理職は信用を失い、チームの結束も崩壊する。企業毎に、業務毎に様々な特徴があって汎用的な評価方法等設定しようも無いが、チームとしての成果と個人としての成果をどうバランスさせるか、個人としての成果をどう計測するかは良く考えられなければならない。「従業員の評価方法の見直し方針」でその設計指針を提示する事で、検討を容易にする事ができるようになる。
 項目5の機密情報の扱い、コンプライアンスは業務単位で分析されなければならない。業務に関わる特定の情報は執務場所に制約を与える可能性がある。もちろん、ペーパーレスが進まなければ、資料の持ち出し問題が発生するし、ペーパーレスが進む事で高まる情報漏洩リスクもあれば、逆にITによる統制で管理レベルを上げる事もできる。業務を分析する段階で機密情報をどう分類するかのフレームワークを検討しておく必要がある。初期段階ではざっくりと考える以外に道はないだろうが、高位の達成度レベルになれば強く意識しない訳にはいかない。ガイドラインの整備上もまだまだ検討が必要な部分である。
 最後のマネジメントスタイルは、それぞれの組織で考えれば良い。その前の5項目から自然と決まるケースもあるだろうし、Credoを再掲する考え方もあるだろう。

  ガイドラインでは、目標設定の後に「改革プロジェクト計画の立案」が続く。次回は、改革プロジェクト計画の構成要素について論じたい。

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キーマンズネットとは
2013年3月に29年勤めた株式会社シーエーシー取締役を退任し、合同会社ユビキタスライフスタイル研究所を設立。新しい働き方を容易にするためのサービス開発中。2009年から2010年末までNY勤務経験あり。JISAワークスタイル変革とITプロジェクト座長(2012年度〜)。

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