日本は「おもてなし」ではなく、“表なし”になっていないか?

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日本は「おもてなし」ではなく、“表なし”になっていないか?

運用管理 2013/12/11

本来の「おもてなし」の意味は?

 オリンピック招致の最終プレゼンテーションで滝川クリステル氏が日本の特徴として「お・も・て・な・し」と言葉を印象深く話をしてから、色々なところでこの言葉を数多く聞くようになった。最近出席した取引先のパーティーでも、招待された外国人も日本人もこの言葉をスピーチで乱発していた。今年の流行語大賞も受賞した。雑誌などにも「おもてなし企業」などの特集が見かけられる。
 しかし、福島原発の震災時及びその後の東電の対応、最近のJR北海道、高級ホテルや高級デパートの食材偽装、楽天の優勝セールの偽装価格などを見ると、私は残念ながら日本はとてもオリンピックで世界に誇れる言葉をしての「おもてなし」とは程遠く、「表」よりの話はほとんどなく、「裏」の実態ばかりが目につくと感じている。
 特に「和食」がユネスコの世界資産に登録されたと騒いでいるが、偽装食材の件は、最初阪急阪神ホテルの問題かと思いきや、すぐに私も私もと偽装を有名ホテルからあらゆる高級飲食や百貨店などにあっという間に拡大して公表合戦となり、そのうちに誰も責任を取らなくなった。
 そもそも「おもてなし」という言葉を考えてみると、「お・も・て・な・し」を受けたかどうかは受けた側が決める事であり、サービスを提供した側が自ら「うちは“おもてなし”がスゴい」というのはおかしな気もするが、どうだろう。最近はどうも提供している側がこの言葉を多用して、押し付けられた「お・も・て・な・し」感が強いように思えるのだ。

IT産業のおもてなしは自己改善努力とその結果からしかわからない!

 世の中の事態はともかくとして、私は仕事柄、コンタクトセンタやプロジェクトマネジメント、ITサービスのアセスメントの説明やサービス提供をさせていただく機会が多くあるが、大半の会社で「うちは相当やっている」とか「うちは凄いサービス」だといった意見を経営層からも現場からも頻繁に伺う。しかしながら「その言葉を誰が言っているのですか?」と伺うと、皆顔を見合わせてしまうし、「どのように客観的に証明できるのですか?」と伺うと、どうも明確な答えが返ってこない事が多い。このような組織は、客観的なアセスメントではなく内部評価のみで自己能力変化するにとどまってしまうケースが多い。

 「おもてなし」を英語にすると、恐らく「Customer Delight」に当たると思うが、これは「Customer Satisfaction」を超えた、顧客が「歓喜」を感じる気持ちなのだと考える。日本では「おもてなし」は定量化、指標化できないサービスだと考えられている節があるが、やはりそれは間違いで、「おもてなし」が実現しやすい土壌をきちんと数字的にマネジメントしていく事が大事になってきていると思う。その土壌の上で、一人ひとり接した人がルールや上司の顔色をうかがうのを超えて顧客に対応できた時に、本当の「おもてなし」が生まれるのだと考える。

 先般、とあるコンタクトセンタのコンフェレンスで講演された世界的なホテルチェーンの外国人幹部が、日本に赴任してきてからの経験談を語ったそうだが、彼の話は、日本のサービスの現場はルールに従い運用する分には大変誠実でミスも少ないが、予想できない事態やルールが決まっていないことについての対応能力が、他国に比べて低いということだったそうだ。また顧客よりも上司の事をまずは考えてしまう傾向があるとも話されたそうだ。

 皆様は「おもてなし」という言葉を聞くと、例えば日本旅館のサービスを思い浮かべるのではないだろうか?女将さんを頂点に家族のようなサービス運営をしている現場である。しかしながら、運用現場が大きな組織になり拠点や事業部門が複数になると、一定のルールが必要になるが、まだまだ日本ではそれが数値化されたマネジメントモデルになっていないか、仮にそれができていても、先ほどのホテルの話のように土壇場の行動についてはどうも初動に問題があるケースが多いような気がする。

 また、私が設立に関わった2つの団体、「PMI日本支部」と「itSMF Japan」は、それぞれ設立から15年、10年を経たが、プロジェクトマネジメントもITサービスマネジメントも日本の成熟度は欧米の先端レベルに比べるとまだまだ残念ながら未成熟である。
 本来、顧客の事を考えれば自らを進化させて、諸活動のレベルを向上させる継続的な活動を行う事が、IT産業の場でも「おもてなし」に繋がると考えるのだが、その努力レベルは高いとは言えないようだ。
 現在のIT産業の実態は、まだまだプロジェクトの期間や人員が過剰であったり、運用現場でも過剰人員で、改善余地のあるサービスレベルになっているのではないだろうか?当然それは高コストに繋がっているし、リスクマネジメント上も問題である。

 日本でのプロジェクトマネジメントもPMPの取得者が3万人を超え、10年間でその重要性と実践が行われてきた。しかしながら、欧米の先端企業は既にプログラムマネジメント・ポートフォリオマネジメントなど成熟度の高いレベルになってきている。日本はPMのツールは相変わらずエクセルが主流であり、欧米でエクセルでPMをしていると話をしただけで中学生レベルのPMと判断される。エクセルでは成熟度の高いPMの実践は不可能だからだ。

 ITサービスマネジメント分野でも昨年、私が訪問した米国の従業員1,5万人規模のグローバル企業のデータセンタは、世界3ヵ所に拠点があるが、何とそのマネジメントは世界1ヵ所集中のセンタで、たった“47名”の人員が24時間対応シフトで行っているとのことだった。日本の場合、同様規模のデータセンタだと1ヵ所ごとに人が150名はいると、同行した大手保険会社の経営幹部は言っておられた。
 また、いざアクシデントが起こった時の対応能力をつけていく事が重要だと考えるが、先に説明したセンタは遠隔で素晴らしく優秀な人財が対応するマネージドサービスが確立された環境であった。日本のデータセンタの過剰な人財投入と残業、品質のばらつきや高コストでは、とても「Customer Delight」には程遠いと思う。加えて、働く側にとってもIT関係は残業が非常に多い職種の1つであり、働く従業員に対しての会社側の「おもてなし」レベルはかなり低いと感じる。組織として、上司として、マネジメントの高度化や人財の高度化に興味がない会社ほど「うちは凄い」「そこそこやっている」の認識が横行している。

「顧客第一」と経営が口にする、本当の意識がわかるコンタクトセンタの実態

 別の事例を挙げてみよう。昨年経済産業省からの委託により、日本で初めてコンタクトセンタの研究会運営と調査を当社で行ったが、日本は世界との真逆の現象がいくつか見られた。その顕著な例は、日本の経営陣のコンタクトセンタへの興味と理解の低さと、オペレータなどの正規社員雇用率が欧米の80%程度に比べて非常に低く、20%程度であることである。お隣の韓国でも50%近くになってきている。
 自社の既存顧客が最も多くコンタクトしてくるコンタクトセンタについて、この現実を見ると、日本は「お客様第一」「おもてなし」の国と本当に言えるであろうか?特に日本の経営陣が「お客様第一」と折々に言いながら、大事な顧客が多く何らかの事情で電話やメールでコンタクトしてくるセンタに、どれくらいの経営陣が年間に足を運んでいるだろうか。一番大事な顧客を相手する、そこで働く人の給与水準も世界に比べても低く、教育環境もまだまだ整っていない。

 ご参考までにこの調査報告書へのリンクを記載するので是非ご一読いただきたい。
 「平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備(顧客対応業務(コンタクトセンター)に関する調査研究事業)報告書」(PDF)

 私は日本人のグループ団結力や誠実さなどは、大いに世界に誇るべき面だと思うし、それが日本の大きな強みであるとも考えているる。しかしながら、日本は「規制や業界圧力」「無理無駄の横行」「組織の為、上司の為」を行動の基盤にしてしまい、せっかくの良いところがもっと顧客に対して発揮できていないのではないかと強く思う。
 事実、製造業は世界に誇る生産管理を実現している。しかしながら、製造業のサービス部門やサービス産業は残念ながら筆者が知るアセスメント結果からもまだまだ進化の余地があり、残念ながらグローバル水準とは言えない現実がある。私はIT産業も自己満足の「おもてなし」産業になることを最近危惧している。「表で勝負をして」顧客に本当に良い「おもてなし」を受けたと言われる産業にどのように進化できるかが、経営陣も含めてそこで働く一人ひとりに問われているのではないだろうか。

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キーマンズネットとは
1991年 株式会社プロシード代表取締役に就任 プロジェクトマネジメント研究所日本支部 初代会長及び理事、経済産業省「政府調達におけるサービスモデルアグリーメントガイドライン研究会」委員、総務省「ITサービスマネジメント研究会」委員itSMF Japan副理事長、日本コンタクトセンター教育検定協会初代理事長及び理事等を歴任

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